詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ピーター・バーグ監督「パトリオット・デイ」(★★)

2017-06-12 09:11:26 | 映画
監督 ピーター・バーグ 出演 マーク・ウォールバーグ、ケビン・ベーコン、ジョン・グッドマン

 予告編がすばらしかった。本編で感心したのは、その予告編の部分だけだった。
 どの部分かというと。
 巨大な倉庫のなかにテロが起きたボストンの街路を再現する。そこで犯人の動きを推測する。防犯カメラに映っている映像で、犯人の動きを追認する。追認できたことによって、犯人だと特定する。ここが、短い時間だけれど、実におもしろい。
 ケビン・ベーコンが犯人になり、いま、ここにいる。これから先は?と問う。土地鑑のあるマーク・ウォールバーグが防犯カメラが設置されている店の名前を上げる。その映像を再現する。そうすると、そこに犯人らしい姿が映っている。この「再現」ドラマは、操作の基本なのかもしれないが、いままでの映画では、映像分析官がただ映像を見つめて不審者を探していた。これに、現場の警官が加わる。そして、それが「事件」を解決していくことにつながる。「解決」を加速する。
 そこで暮らす人。「市民」の視線。「市民」の力。
 これは、後半になって、「愛のメッセージ(ボストンを愛している、この愛を誰も奪うことはできない)」にかわるのだが、この「うさんくさい」(言い換えると感動的な)テーマは、このマーク・ウォールバーグとケビン・ベーコンのやりとりのなかに凝縮している。問題を解決し、乗り越えていくのは、あくまでその土地に生きている人。自分の土地を知り、愛している人が、その土地とそこに住む市民を救う。
 で、このあとは「犯人の逃走」と「犯人追跡」。
 見どころは、それまでのハリウッド映画のように、警官(組織)が一気に犯人を追いつめるという感じではないところ。「個人単位」というと変だが、少しずつ「現場」に駆けつけてくる。犯人と向き合う警官の数が、最初は非常に少ない。銃を奪われそうになる顕官はたった一人。銃撃戦になっても、犯人が二人なら、応戦する警官も二人、という感じ。警官が「組織」である前に「個人」。そして、その「個人」のまわりに、「個人」が暮らす「街」が「街」のまま加わってくる。
 ボストンの街に詳しい人なら、これでいいんだけれど。
 私はボストンを知らない。だから、ここで描かれているボストン感覚が、いまいちぴんと来ない。クライマックスの「ボート」など、湖との距離感がわからないから、リアリティーが「肉体」に伝わってこない。
 だんだん「理屈」で映画を見ている気持ちになってくる。そしてこの「理屈」が「愛のメッセージ」になるのだから、やりきれない。
 あ、もう一か所、おもしろいところがあったなあ。犯人の妻が拘束される。その妻をイスラム教徒を装った(?)黒人の捜査官が訊問する。これが非常に強い。まるっきり別の人。ボストンとは無関係。訊問の「論理」だけを生きている。だから聞き出せないとわかったら、さっさと引き上げる。彼女には、この映画がテーマにしている「愛」というものがない。それが強烈である。「論理」だかがもつ美しさがある。

 実際の事件ビデオもまじえながら、よく構成された映画である。
 でも、私は、こういう「愛のメッセージ」は嫌い。「愛は勝利する」というけれど、「勝利」などいらない。「敗北」は誰だっていやだが、「勝った、負けた」とは関係なく世界は存在しないといけない。
 「勝たなければいけない」というのは、トランプの「アメリカ・ファースト(アメリカが一番)」の思想の先取りかもしれないなあ。これから、こういう映画が増えてくるのかなあ。いやだなあ。
     (ユナイテッドシネマ・キャナルシティ・スクリーン3、2017年06月11日)

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