詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

アスガー・ファルハディ監督「セールスマン」(★★★★)

2017-06-28 19:58:56 | 映画
監督 アスガー・ファルハディ 出演 シャハブ・ホセイニ、タラネ・アリシュスティ、ババク・カリミ

 映画と、映画の中の芝居(セールスマンの死)が交錯する瞬間がある。それが「謎解き」の補助線になっているかというと、そうでもない。無関係なのに、ある瞬間「感情」というか「意識」が重なり、ぶつかり、噴出する。「芝居」なのに「現実」が「芝居」を乗っ取ってしまう。
 でも、これが「伏線」である、といえば「伏線」なのだ。「事件」そのものとは無関係なのだが、思いもかけないものが、瞬間的に「事実」になる。そして感情が動く。その感情の動きを人間は制御できない。
 うーん、文学的。映画的、というよりは、ね。

 隣に座っていた60代くらいのおばさん二人組。「何がいいたいのか、さっぱりわからない」を二人して繰り返していた。あ、そこが「文学」なんですよ。文学は「わからない」ことを考えるためのもの。「わかった」ら文学ではないのです。そこが、映画とは違うところ。

 とは、いいながら。
 アスガー・ファルハディにしては、この作品は、とてもわかりやすい。「おばさん、どこがわからなかったの?」と聞き返したい気持ちをぐっと抑える私でした。

 最初に書いたように、「芝居」と現実が重なる。
 「芝居」ではセールスマン(夫)と妻が、金が思うように手に入らなくて、いらいらし感情をぶつけ合う。感情の行き違いがある。これはレイプされた妻と、レイプ事件を解決したいと思っている夫との感情の行き違いと重なるのだけれど。
 そのときの「小道具」がおもしろい。妻は靴下をとりつくろっている。「靴下なんか、いつまでもつくろうな」と夫は怒る。夫は、寝室に落ちていた靴下を思い出しているかもしれない。で、この靴下が、クライマックスでもう一度出てくる。夫が、犯人と思っている男を問い詰める。犯人と思っている男の義理の父。その過程で、靴を脱げ、靴下も脱げ、という。すると……。傷を手当てしていた足があらわれる。犯人だ。
 ここ、うまいねえ。脚本が非常に巧みだ。
 もひとつ。部屋を紹介してくれた芝居仲間。彼は、その部屋の前の住人が娼婦だったということを隠している。また、主人公の妻がレイプされたらしいということを、周辺の住民から聞き出して知っている。そのことに対して主人公は怒りを爆発させる。「芝居」のなかで、セールスマンが上司と激突するシーンに重ね合わせて、「台詞」以外のことを言う。「アドリブ」なのだが、それが「アドリブ」であるとわかるのは、芝居に精通している人だけであり、観客は「芝居」そのもの一部と思う。
 これもクライマックスと重なる。主人公は「違うストーリー」を思い描いている。ところが話している内に「想像していたストーリー(予定のストーリー)」とは違ったものが動き始める。主人公を訪ねてきた男(老人)も、「予定外のストーリー」にぶつかり、おたおたとする。そして「地」がでる。つまり「事実」が、そこに噴出してきてしまう。
 そして、さらに。
 この思いがけない「ストーリーの破綻(事実の噴出)」があり、「新しい事件」が起きる。そのとき、それまで、そこで動いていた「感情」、かろうじて繋がってきていた主人公と妻の「感情」を決定的に破壊してしまう。「破綻」が取り返しのつかないものになってしまう。
 この結末は結末で、ある意味、「セールスマンの死」と重なる。夫は死亡し、その保険金でローンの支払いを終える。金銭問題は片づいた。しかし、「愛」はそのとき破綻している。愛し合おうにも、一人は死んでしまった。
 さて。
 おばさん二人が悩んでいたのは、私がこれから書く「難問」とは違うと思うのだが、「わけのわからない文学」の問いは、この映画の最後に、ぱっと提示される。問いかけられる。
 さて、死んだのは主人公? それとも妻? どっちの感情が決定的に死んでしまった? 二人とも死んでしまった、というのは「安直」な答えだなあ。どちらが、どちらを殺した?という形で問い直すと、ね、安直さがわかるでしょ?
 原因はどっち? 夫? 妻?
 映画のなかで「現実」として死ぬのは、主人公を訪ねてきた老人。でも、彼が死ぬ原因は? 主人公のせい? 妻のせい? 老人自身のせい? わかりませんねえ。
 はい、悩みましょうね、みなさん。
                      (KBCシネマ1、2017年06月28日)

 *

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想像してみよう

2017-06-28 12:32:46 | 自民党憲法改正草案を読む
想像してみよう
               自民党憲法改正草案を読む/番外97(情報の読み方)

選挙に誰かが立候補する
演説会がある。意見を聞きにいく。
その会場のまわりに自衛隊がいる。
武器を持っている。戦車も出ている。
ヘリコプターも飛び回っている。
爆撃機も飛んでいる。
防衛大臣が出てきて、
「自民党に投票してください。
自衛隊としてもお願いしたい」
それは、お願いだろうか。
威圧ではないだろうか。
強制ではないだろうか。

自衛隊員は会場を取り囲んでいなかった。
武器を持った人はいなかった。
戦車もヘリコプターも戦闘機も飛んでいなかった。
そう人は言うかもしれない。
でも、それはその人の目に見えなかっただけかもしれない。
稲田には武器を持った自衛隊員が、
戦車が、ヘリコプターが、戦闘機が
はっきりと見えていたかもしれない。

もしあなたが自衛隊を監督する防衛大臣だとして、
「自衛隊」ということばを口にするとき、
隊員を、武器を、戦車を、戦闘機を、
まったく思い浮かばずに何か言うだろうか。
責任者なら、いま、自衛隊員が何をしているか想像するはずだ。
武器を持って戦っているのか、戦車の手入れをしているか、
彼らはいま、どこにいるのか。

「自衛隊としてお願いしたい」
といったとき、そこには自衛隊がいたのだ。
武器を持って、戦車を並べて、ヘリコプターで監視して、
そこにいたのだ。

想像してみよう。
憲法改正の国民投票のとき、
自衛隊が投票所を取り囲む。
「自衛隊を合憲だとする改正案に賛成してください」
自衛隊員が手に持った武器が見える。
銃口が動いた。
反対と書いたら殺されるかもしれない。
投票したくない、逃げよう、
そうしたら戦車にひき殺されるかもしれない。
空手はヘリコプターが見張っている。
逃げられない。

想像してみよう。
ここは「天安門」なのだ。
政府に反対意見を言う。
すると自衛隊が出動してくる。
武器を持っている。戦車が道を塞ぐ。上空からは
ヘリコプターが監視している。
戦闘機はビルごと破壊しようとしている。
想像してみよう。
防衛大臣が「お願いします」という。
それは「お願い」なのか。
命令ではないのか。

想像してみよう。
国民の安全を願って自衛隊に入った人が、
いま武器を持って、国民に武器を向けている。
政府に反対しているからという理由で、
国民のいのちを狙っている。
思想の自由を許されず、
思想を弾圧するために、
武器を持たされている。

想像してみよう。
その防衛大臣を任命したのはだれなのか。
防衛大臣は、任命者の言うがままに発言しているのかもしれない。
想像してみよう、
安倍内閣総理大臣は、
「私は国の最高責任者だ」という。
「私は頭に来たら政策をどんどん変えるのだ」という。
想像してみよう。
安倍が稲田を利用して、
「自衛隊をつかって、政府批判を鎮圧しろ」と言う。
「ただし、脅すな、批判すると殺すぞとは言うな、
お願いします、と頼め。」

想像してみよう。
いま起きていることは、これからどうなるのか。
いま、そこに武器を持った自衛隊員が見えないのは、
ほんとうにそこにいないのか、
それとも隠れるように指示されているだけなのか。

想像してみよう。



#安倍を許さない #憲法改正 #加計学園 #天皇生前退位 #稲田防衛大臣
 
詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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三重苦?

2017-06-28 09:48:11 | 自民党憲法改正草案を読む
三重苦?
               自民党憲法改正草案を読む/番外95(情報の読み方)

 2017年06月28日の読売新聞朝刊(西部版・14版)の3面。

都議選に「三重苦」?/「安倍1強」に陰り

 という記事が載っている。「三重苦」とは、

(1)収束の見えない加計学園問題
(2)国会運営への批判
(3)自民党衆院議員(離党届提出)の「暴行」疑惑

 だ、そうである。
 (1)は、なぜ、収束が見えないのか。安倍が国会で説明しないからである。国会閉会後、記者会見で「丁寧に説明する」と言ったが、何も説明していない。そのかわりに、「獣医学部」を全国に展開すると主張し、さらにそう発言した理由を「批判が集中して、頭に来たからだ」と語っている。
 (2)は、「共謀罪」の審議を途中で打ち切り、強行採決をしたことを指しているようだが、その後、「国会閉会後」の問題もある。野党は臨時国会の開催を求めている。これに対して、自民党の国会対策委員長・竹下は「安倍首相が(学校法人『加計学園』の獣医学部新設問題で)追及されるのを嫌がっているようだ」と話したという。(読売新聞4面)
 この二つには「頭に来た」と「嫌がっている」という「共通項」がある。「頭に来た」と「嫌がっている」は、それ自体は「同じ表現」ではないが、ともに「感情」をあらわしている。安倍は「感情」で行動している。
 (3)の暴行は、安倍自身の行動ではないが、やはり「感情」を爆発させている。「感情」で他人を支配しようとしている。
 つまり、「三重苦」とは、すべて「感情」が引き起こした問題である。「感情」で政治を動かしているのである。
 (1)の問題は、加計学園のトップは安倍の「友だち」である、大事にしたいという「感情」が「温床」になっていると見られている。つまり、これも「感情」である。「理性」で政治を動かすのではなく、そのときそのときの「感情」次第でものごとを決定する。それが安倍の本質である。

 2面に

都議選「自衛隊としてお願い」/稲田防衛相 自民候補集会で/発言撤回

 という記事が載っている。稲田は、集会後、記者団に、

「(陸上自衛隊の)駐屯地も近く、防衛省・自衛隊の活動に地元の皆様にご理解、ご支援を頂いていることに感謝の気持ちを伝える一環としてそういう言葉を使った」

 と語っている。ここには「気持ち」ということばがある。「気持ち」とは「感情」である。「感情」を優先させているる。
 自衛隊に政治的行動をさせている。
 いまは「自民党の応援」という形をとっているが、いつ「自民党を批判するものを弾圧するために自衛隊を利用する」にかわるか、わからない。「自民党への批判」に対して「頭に来た」ら、(気持ちが動いたら)、それを弾圧するために稲田は自衛隊を動かすということが考えられる。

 3面の「三重苦」には、このことは「野党の批判を招く事態となった」と、さらりと書かれている。読売新聞は、重大視していない。「野党の批判を招いた」が、読売新聞は批判をしないのだろうか。

 安倍の打ち出した「改憲」のいちばんのポイントは「自衛隊を憲法に書き加える」(自衛隊を合憲化する)ということだが、その自衛隊が稲田によって私物化され、選挙運動につかわれた。「平穏」におこなわれている都議選においても自衛隊が「活動」として参加してくる(指示されて動く)なら、少しでも安倍や稲田の気に食わないこと(頭に来ること、嫌なこと)が起きれば、それを弾圧するために自衛隊が出てくるということを意味するだろう。

 自衛隊が憲法に書き加えられ、合憲化した後、どうなるのか。

 日米地位協定のことを考えると、自衛隊が独自の監督・指揮系統のもとで対外的に行動するとは思えない。「有事」の際は、アメリカの軍の一部隊として監督・指揮されることになるだろうと思う。アメリカ軍が自衛隊の監督・指揮系統のもとで動くとは思えない。安倍は「内閣総理大臣が監督・指揮権の最高責任者」と定義しているが、アメリカ軍に指示ができるか。
 安倍が単独で「監督・指揮権」を行使できるのは、有事のときではなく、「内政」問題が生じたときだろう。自衛隊は「内政問題」を処理するために出動する。
 稲田は「自衛隊としてお願いしたい」と言ったが、もし、その「お願い」に対して、「嫌だ」と叫んだら、どうなるのだろう。武器をもった自衛隊員が集会を管理していたら、そこで国民は「嫌だ」と叫んだらどうなるのだろう。武器を手にした自衛隊員を前にして「嫌だ」と叫べる人が何人いるだろうか。
 「共謀罪(治安維持法)」は、もう、こんな具合に実効支配しているのだ。
 「天安門事件」は、東京都議選を舞台にはじまっているのだ。
 安倍の「感情」を満足させるために、自衛隊は合憲化され、「天安門事件」は準備される。都議選は、それを許すかどうかの選挙なのだ。

 安倍の「三重苦」のなかにまぎれ込ませる形で書かれた、この自衛隊の事物か問題をきちんと見つめないといけない。
 稲田を防衛相に任命したのは安倍である。稲田自衛隊は安倍自衛隊である。稲田の発言で、自衛隊と都議選は緊密に関連づけられた。都議選はたんに都議選でもなければ、国政選挙の前哨戦でもない。安倍のもくろむ憲法改正(自衛隊の私物化を合憲化する)に対する国民投票の先取りである。
 東京都民は、そのことを忘れないでほしい。



#安倍を許さない #憲法改正 #加計学園 #天皇生前退位
 
詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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