トランプ完勝(情報の読み方)
自民党憲法改正草案を読む/番外145(情報の読み方)
2017年11月07日の読売新聞(西部版・14版)の1面。
日米 北へ最大限圧力/首脳会談 首相 追加制裁表明
トランプ氏 貿易赤字改善求める
「日米 北へ最大限圧力」というのは、ごくあたりまえの「認識」だと思う。でも、このことばからは「実質」がどういうものか、さっぱりわからない。
問題は、安倍とトランプの姿勢。
安倍は、トランプとの会談の前は「追加制裁」のような生ぬるい方法ではだめだ。対話ではだめだ、と言っていなかったか。明確に「対話ではだめ」とは言っていないが、別の「圧力」のかけ方を狙っていたはずである。別の「圧力」をかけることで事態を打開したいと思っていたはずである。それは、
会談では「あらゆる選択肢はテーブルの上にある」とのトランプ政権の姿勢を改めて評価し、7日に新たな独自制裁を閣議了解することを伝えた。
という文章からもうかがうことができる。「あらゆる選択肢」のなかには「軍事行動」が含まれているはずである。
ところが、この「軍事行動」は、さすがに「確約」をとることができなかった。宣戦布告になるからだが。
「共同軍事行動」がとれないので、安倍は、かわりに「追加制裁」をとることにした。北朝鮮に対する「資産凍結」である。
「資産凍結」とは「経済制裁」であって、「軍事制裁」ではない。そして、この「経済制裁」というのは、「経済制裁」をする過程で「対話(交渉)」をするということでもある。
「最大限圧力」ということばは勇ましいが、実際は、そういうことしかできない。それが「国際政治」というものだろう。
安倍は、トランプから「軍事制裁」の確約は取れなかった上に、別の要求を突きつけられている。
「貿易赤字改善求める」は抽象的である。北朝鮮情勢と関係づけると、具体的には、こういうことである。
トランプ氏は記者会見で「米国の防衛装備品は世界でトップクラスだ。購入によって米国の雇用創出も期待できる」と述べ、米国からの装備品購入促進を求めた。首相は新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」などの米国からの購入を続ける考えを示した。
トランプは、日本に防衛備品(武器だね)を買わせ、それによって北朝鮮への「軍事的圧力」とする、ということを狙っている。アメリカが北朝鮮に対する軍備を増強するのではなく、日本に軍備を増強させる。そうすれば、アメリカの軍事的負担は減る上に、アメリカ経済も潤う。「米国の雇用創出も期待できる」と明確に述べている。
安倍は、迎撃ミサイルを買う、と言わせられている。
このトランプの発言が「記者会見」でおこなわれたというのが、この日の一番の「みどころ」だね。
トランプは、閉ざされた「首脳会談」の中だけで、安倍から「武器を買う」という確約を引き出したのではなく、「記者」という「第三者」がいる前で確約を引き出した。そんな確約はしていないと、嘘をつくことが常態化している安倍でも、「武器を買うといったことは一度もない」とは言えなくなる。
さらにトランプは、ここで「米国の雇用創出も期待できる」と、わざわざ「経済効果」に言及している。これはアメリカ国内にいる「労働者」に対するリップサービスのようなものである。あるいはアメリカの労働者をまきこんで、安倍に武器を買わせる運動をしているとも言える。もちろん、アメリカの武器産業の資本家への、「ほら、確約をとったぞ」というPRでもある。
さすがビジネスマン。
トランプは、こういう「情報操作」と「実」をとる方法がうまい。安倍は、ここでも金をむしりとられている。プーチンとの日露会談と同じである。何の見返りもない。金を払わされるだけである。
さらに2面には、
貿易は平行線/トランプ氏、市場開放迫る/FTA議論なし
という見出しの記事の最後に、こう書いてある。
米国は来年秋に中間選挙があり、「それまでに必ずFTA交渉を要求してくる」(経済官庁の幹部)との見方は少なくない。
「見方は少なくない」どころか、そう書かざるを得ないのは、すでにその要求がおこなわれ続けているということである。「FTA議論なし」はトランプが要求したが、安倍にはそれに応じる用意がなかったということ。
つまり、準備が、完全に不完全だったのだ。
安倍は、トランプとの会談で、北朝鮮への「軍事的圧力で一致」ということを狙っていた。それしか念頭になかった。トランプは「タカ派」だから必ず一致できると思い込んでいた。
ところがトランプは、安倍の「タカ派」気質を利用して、まず「軍備」を売り込むことに成功した。実に簡単に買うことを約束させた。次はFTA交渉に応じないなら、日本の防衛に関して協力なんかしないぞ、と言ってくるだろうなあ。もっと武器を買って、自分で日本を守れと言ってくるだろう。ふつうの貿易で「対等」になれないなら、武器を売ることで赤字を解消し、米国の雇用も改善する。そういう作戦である。来年秋の「中間選挙」を控えているから、トランプは必死である。衆院選で「大勝」して、気が緩んでいる安倍とは、心構えが違う。
安倍の完敗である。私は安倍支持派ではなく、「安倍は辞めろ」と叫んでいる人間だが、この完敗は情けない。プーチンに完敗した経験から何も学んでいない。政治家失格である。
1面には、もうひとつ気になる記事がある。
「拉致被害者 愛する人のもとに」/トランプ氏 家族ら17人と面会
拉致被害者の家族とトランプが面会した。面会後、トランプは「被害者が愛する人のもとにもどれるよう、安倍首相と力をあわせていきたい」と述べた。
冷たいいい方になるかもしれないが、被害者と面会すれば、トランプでなくてもそれくらいの「リップサービス」はする。拉致被害者のひとのことなんか知りませんと言うはずがない。
問題はトランプがどう言ったかではない。
安倍がどう言ったかである。安倍がこれまで何をしてきたかである。だいたい日本人の被害者を救い出すのに、なぜトランプが出てこないといけないのだ。安倍には被害者を救出する「手だて」が何もないということだ。
あるいは、何もする気がないということでもある。
トランプに「力を合わせたい」と言わせたので、もし、救出できなくても、それは安倍だけの責任ではない。トランプも何もしなかったと、安倍は言いたいのだ。「免罪符」にしたいのだ。
被害者救出など考えてもいない安倍のために、みえすいた「アリバイづくり」のために、トランプと面会させられる被害者家族がかわいそうである。
被害者家族は、もっと安倍の責任を追及すべきである。「救出してくれ」と頼んでいる人を、「救出への具体的行動を起こさないのはむごい」と批判することはむずかしいかもしれない。しかし、安倍には、その批判を受けながら、救出する責任がある。「責任者」というものは、そういうものである。安倍は、批判者を拒絶し、称賛してくれる人だけをまわりに集めて、そのひとの要求に応えることは得意だが、それは「政治」ではないだろう。「政治家」の仕事ではないだろう。批判するひとに対しても、その人のために働かなければならない。
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