詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

トム・フォード監督「ノクターナル・アニマルズ」(★★★+★)

2017-11-08 21:16:41 | 映画
監督 トム・フォード 出演 エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール

 これは反則映画である。
 映画のなかで主人公(エイミー・アダムス)が、別れた夫(ジェイク・ギレンホール)が書いた小説(ノクターナル・アニマルズ)を読む。小説は「映画」として描かれている。エイミー・アダムスの「頭の中」、小説を読んで思い浮かべる「情景」が「映画」として描かれている。
 こんな反則は、いけない。
 どっちが「映画」なのか、わからない。
 小説を読んでいるエイミー・アダムスが映画なのか、別れた夫との関係が映画なのか、それとも小説を再現した部分が映画なのか。しかも、「現実」の別れた夫と、再現映画の主人公をジェイク・ギレンホールが演じるので、とてもややこしくなる。
 エイミー・アダムスが主人公を想像するとき、ジェイク・ギレンホールを重ね合わせただけなのか、「現実のジェイク・ギレンホール」は小説の中の主人公を「自分」と重ね合わせて書いているのか。エイミー・アダムスが「小説の主人公」と「現実ジェイク・ギレンホール」と重ねるとき、その小説に出てくる「妻」と「娘」はどうなるのか。エイミー・アダムスとほんとうの娘なのか。
 小説のなかでは妻と娘はレイプ魔に殺される。そのためにジェイク・ギレンホールは苦しむのだが、現実にあったことは、エイミー・アダムスがジェイク・ギレンホールのこどもを堕胎する。生まれるはずの「娘」を殺したのは、「現実」の世界ではエイミー・アダムスであり、彼女は生まれるはずの「娘」を殺すことでジェイク・ギレンホールを殺したとも言える。(愛を葬り去った。)小説の中のジェイク・ギレンホールの姿を追いながら、エイミー・アダムスは隠し続けてきた彼女の「殺人」に出会ってしまう。それは「意識」のなかの「殺人」である。
 この「意識」を中心に「全体」を見渡しなおすと、「現実のジェイク・ギレンホール」は「現実のエイミー・アダムス」の「殺人(堕胎)」に対しての復讐をするために、小説を書いていることになる。(復讐は、映画の途中で「リベンジ」という文字として登場してくる。)小説のなかでは、ジェイク・ギレンホールは妻と娘を殺したレイプ魔を殺している。
 という具合で。
 映画は、「現実」と「小説/小説の映画」は交錯しながら、登場人物の(エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、レイプ魔)の関係を微妙にずらしながら重ね合わせる。「意識」がまじりあう。「小説の映画」のなかの登場人物が、実際は誰を「象徴」しているのか、わからなくなる。どう解釈しても、その解釈が成り立つようになっている。
 この「重ね合わせ」と「ずらし」を、「小説映画」のなかの映像(エイミー・アダムスの想像)と「現実の映像」をシンクロさせる形で強調する。小説のなかで殺された妻と娘の向き合った裸は、現実の娘(新しい夫との間の子ども)が男とセックスし、抱き合っている姿と重なるという具合に。
 とても巧妙である。
 そして、この「重ね合わせ」が素早くできるようにするために、「小説」の舞台をテキサスの荒野にしたところが、また、とても「ずるい」。反則ではないが、反則であることを確信して、映画をつくっている。誰もいないハイウェー、その暗いだけの道。そこで起きる「事件」は、「目撃者」がいない。だから、それは「空想」かもしれない。それこそ「小説」であって、現実ではないかもしれない。「意識」のなかで、ことばがストーリーをつくっているだけなのかもしれない。「意識」だから、すべてが簡単に「交錯」し、また入れ替わる。
 こういうことができるのは、繰り返しになるが、情報量が少ないからである。映像がシンプルである。だから簡単に重ねあわさるのだ。都会のハイウエーで起きた「レイプ」なら、こんな具合にはいかない。
 この情報量の少なさは、エイミー・アダムスの「仕事」を、なんだかよくわからない現代アートにしたことによって、さらに効果的になっている。逆手にとっている、ともいえるなあ。「現実」の映像が、シンプルで、奥行きがない。とても「豪華」であるのだけれど、「余剰」がない。

 どうも、どこまで「反則」が可能か、を追及した映画のようにも見える。映画そのものはふつうの娯楽映画なのだが、この手の込んだ「反則」と、真剣に「反則」をしかけてくるつくり方に★を一個追加した。最後の最後、小説に感動した(?)エイミー・アダムスがジェイク・ギレンホールをデートに誘うのだが、その誘いに「いく」と答えながら姿をあらわさないところなど、「反則」の仕上げとして最高によくできている。「来ない」ということは、見ていれば誰にでもわかるのだが、その誰にでもわかるところに「幕」をもっていくというのは、「反則」の結末としてとてもいい。
(KBCシネマ1、2017年11月01日)



 *

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トランプの「一石二鳥作戦」

2017-11-08 15:04:01 | 自民党憲法改正草案を読む
トランプの「一石二鳥作戦」
             自民党憲法改正草案を読む/番外147(情報の読み方)

 2017年11月08日の読売新聞(西部版・14版)の1面。

米韓 北へ最大圧力/首脳会談 「FAT」加速確認

 これを、2017年11月07日の読売新聞(西部版・14版)の1面と比べてみる。

日米 北へ最大限圧力/首脳会談 首相 追加制裁表明
   トランプ氏 貿易赤字改善求める

 「日米」だったものが「米韓」に変わっている。これは「主語」が違うのだから当然である。
 では、「北へ最大限圧力」(日米)、「北へ最大圧力」(米韓)の違いは?
 見出しだけではわからないね。「最大限」と「最大」と、どちらが「強い」のかもよくわからないが。
 韓国の文は、実は、こう言っている。

「圧倒的な力の優位によって断固として対応していくことを再確認した。最大限の制裁と圧力をかけていく」

 「最大限」ということばがつかわれてるのだから「最大限の圧力」でもよさそうだが、何が理由で「最大限の圧力」ではなく「最大圧力」という「要約(見出し)」になったのか。たぶん、「制裁」ということばが「圧力」より前にあるからだ。
 文は、この発言を、こう言いなおしている。

(文は)北朝鮮問題を「平和的に解決するため努力していく」とし、「周辺国を含む国際社会とも協力していく」と述べ、対話による解決を主張する中国やロシアと連携する姿勢もみせた。

 韓国の主眼は「平和的解決」。そのためにはアメリカだけではなく、中国、ロシアとも連携する。「武力解決」を望まない。
 あたりまえだなあ。戦争になれば、朝鮮半島が戦場になる。ソウルは国境からそんなに離れていない。すぐに攻撃される。
 このあたりの日本(安倍)+とアメリカ(トランプ)と韓国(文)の意識を違いを、読売新聞は2面の見出しで、

対北 温度差隠せず

 とあらわしている。安倍はトランプのいいなりだったが、文はいいなりにはなっていない。トランプが少し困っている。
 とはいうものの、トランプは記者会見で、こう語っている。(7面に「記者会見発言要旨」が掲載されている。)

米国は世界で最高の軍事装備品を持っており、韓国は数十億ドルを購入することになった。米国に雇用をもたらし、対韓貿易赤字の削減につながるだろう。

 安倍相手にそうだったように、トランプは文相手に「武器輸出」の確約をとったのである。それがアメリカ経済を支えていることを公言した。(これは、アメリカ国内向けの発言でもある。)

 文も、こう言っている。

韓米は、朝鮮半島周辺への米軍戦略兵器の展開を拡大・強化していく。韓国の防衛力を増強するため、(韓国軍の)弾道ミサイル弾頭重量制限を完全に解除することで最終合意した。(韓国が)最先端の平気を獲得・開発するための協議も即時に開始する。韓米は、今後も合理的水準の防衛費を分担し、同盟を強化していく。

 大半の部分で、やはりトランプに押し切られている。最後に、やっと中国、ロシアとの連携するとつけくわえていると言っていいのかもしれない。それでも、トランプ相手に、きちんと自己主張しているだけ、安倍に比べると「信念」を持っているといえる。

 この、今回のトランプの日本、韓国との首脳会談は、要約するとどうなるのだろうか。トランプから見ると、「一石二鳥」ということではないか。
 アメリカは大量の武器を日本と韓国に売ることができた。それはトランプが言っているように、アメリカの雇用を拡大する。アメリカの景気がよくなる。
 それだけではない。
 北朝鮮は「核ミサイルでアメリカを攻撃するぞ」と脅しているのだが、「脅し」の照準をアメリカだけにしておくことができなくなった。韓国、日本の武装強化は、いったん戦争が始まればすぐに北朝鮮を攻撃できるということである。韓国、日本もはっきりと「視野」にいれて作戦を進めなくてはならない。アメリカを攻撃するぞと脅しているだけではすまなくなった--というのは、まあ、「建前」の見方だなあ。
 「本音」の見方は。
 戦争が起きれば、朝鮮半島と日本が戦場になる。アメリカ本土まで北朝鮮が攻撃している余裕がなくなる。アメリカは太平洋の向こう。韓国とは陸続き。日本もアメリカ本土から比べるとはるかに近い。そこで戦争があるということは、アメリカ本土が戦場にならないということだ。朝鮮半島と日本を戦場として活用するためには、武器をどんどん売り込め。武器は売り込めば売り込むほど、アメリカの経済はよくなる。そしてアメリカ本土が戦場になる危険は遠ざかる。
 「一石二鳥」というしかない。
 武器商売人のトランプに、安倍も文も押し切られた。

 もう「冷戦時代」は終わった。資本主義国対社会主義国(共産主義国)という「世界の対決構造」は消えた。それでもなおかつアメリカは、韓国と日本を、社会主義国(共産主義国)からの攻撃の「防波堤」、あるいは社会主義国(共産主義国)への「最前線基地」として活用し、太平洋側からの攻撃にそなえている。
 キューバ危機のとき、アメリカはソ連(当時)がキューバにミサイルを持ち込むことを激しく抗議した。しかしいまアメリカは、韓国と日本を、ソ連がキューバを利用したのと同じ形で利用しようとしている。中国と北朝鮮にとっては、韓国と日本は、太平洋の「キューバ」である。



 7面(国際面)には、韓国の様子が紹介されている。「反トランプデモ」がソウルでおこなわれた。文は「韓国の同意なしの軍事行動はありえない」と言っているが、それでも「トランプにノーと言おう」「戦争反対」と書いたプラカードを掲げて市民が抗議したと報道している。
 日本でも同じ行動があったはずだが、読売新聞は伝えていない。韓国の市民の行動を写真入りで伝えるくらいなら、日本人の行動をもっと報道すべきだろう。日本にも安倍の姿勢、トランプの動きを批判する市民がいるということを、多くの人に知らせる必要がある。
 安倍に不都合なことは知らせない、というのは昨年夏の参院選の籾井NHKの報道から顕著になっている。安倍の「沈黙作戦」にあらゆるメディアが牛耳られている。韓国の「反トランプ活動」を紹介することくらいで、ごまかしていてはいけない。


#安倍を許さない #安倍独裁 #沈黙作戦 #憲法改正 #天皇生前退位
 

詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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