詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

夏目美知子「雨についての思索を一篇」

2017-11-05 09:10:18 | 詩(雑誌・同人誌)
夏目美知子「雨についての思索を一篇」(「乾河」80、2017年10月01日発行)

 私がおもしろいと思うことばと、作者がおもしろいと思っている部分は違うかもしれない。
 夏目美知子「雨についての思索を一篇」。

目覚めた時、外はもう雨だった。そのうち止むだろうと
思っていたが、同じ強さで、いつまでもいつまでも降り
続いた。無表情な雨だ。一日が、閉ざされたように重く
暗く、「どうかしている…」と、独り言が出る。雨を詰
る。
それが、思いがけず、夕方遅く止んだ。止んだことに気
づいた時には、既に西日の最後の柔かな光が窓ガラスの
端に映っていた。そして夜になると、庇と庇の間にみず
みずしい満月さえ上がった。

ありふれた一日だが、取り残される構造が、堪える。何
かの反映かと。つまりそういうことなのだ。いつも空回
りに気づかないでいるだけなのだろう。

 「どうかしている…」と、雨を詰(なじ)る。すると、思いがけず、気づいた時には雨が止んでいる。その不思議な関係。これを私は「取り残された構造」と感じた。夏目は、そのことを「取り残された構造」と呼んでいるのだと思った。
 雨をなじった。その「なじり」を聞いて、いつのまにか雨が止んでいた。ふともらしたことばに相手が反応して、こたえるような感じ。はっきりした「関係」はわからない。すぐにではなく、「気がつけば」なのだから。「思いがけず/気づいた時」とは「いつの間にか」ということだろう。「間」がある。「間」とは「あいだ」であり「関係」だ。その「間」「関係」ははっきりとは定義できない。こういうとき「間(ま)」は「魔(ま)」かもしれない。ことばにできない。
 だから、妙に「堪える」。不思議な形で「肉体」に響いてくる。「関係ない」と思ってもいいのだが、「関係ある」と思うと、その「関係」をはっきりさせたくなる。
 「堪える」という動詞は、なかなか解釈がむずかしい。説明がしにくい。何かが働きかけてくる。それを持ちこたえる。受け止める。そこには耐える、とか、我慢する、ということもふくまれるかもしれない。それが転じて、こたえられない(気持ちがいい)になるかもしれない。(セックスなんかが最後の例だね。)
 こんな、あいまいな、反対の意味さえ含んでいるような「ことば」が、そのまま「なじる」、「反応がある」、というような「構造」となって、一日をつくっているように感じられる。
 なじっていた雨がやんだということに気づいたというよりも、なじったら雨がやんだであるかもしれない。そういう雨と私、対象と私の関係、つまり「構造」が、「堪える」。肉体に響いてくる。
 うーん、たまらない。これは、無意識のセックス。こういうところが、私はとても好き。でも、私が感じたことは「誤読」かもしれない。夏目は違うことを書きたいのかもしれない。

何時止むと決まった雨なら、
私はタイマーをかけておきたい。
そして出来るなら、その間に、
縺れてほどけない糸を、
はらりと、解きたい。

 「堪える」が「縺れる」「ほどける」(解く)という具合に「構造」として比喩化されている。私は、なんとなく「違う」と感じてしまう。
 途中に、

けれど、私はやはり悲しかった。
何者でもないのだと思って。

 という二行が出てくる。
 これを中心点にして、ことばの世界が「一転」していることになる。不透明な「肉体」が「感情」に整えられ、それが「比喩」という「抒情」にかわる。「昇華する」という言い方もある。夏目が狙っているのは、それかもしれない。けれど私は、「抒情」にならないまま、「あいまい」なまま、ことばが動いている方に魅力を感じる。

私のオリオントラ
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順序が逆

2017-11-05 07:56:38 | 自民党憲法改正草案を読む
順序が逆
            自民党憲法改正草案を読む/番外143(情報の読み方)

 2017年11月05日の読売新聞(西部版・14版)の1面。

朝鮮半島有事/邦人退避策 協議へ/首相 来日トランプ氏と

 という見出し。
 安倍は、戦争をはじめるみたいだ。戦争がしたくてたまらないらしい。戦争が始まると、だれも安倍を批判しなくなる。みんな死ぬのはいやだからね。殺されるのはいやだからね。戦争が始まっているのに、「戦争反対」とは言えなくなる。
 読売新聞によると、在韓邦人は6万人、在韓アメリカ人は20万人とある。米軍基地があるから日本人より多いのかもしれない。
 そこで気になるのが、邦人、アメリカ人の韓国からの脱出策。
 安倍は米軍艦船で日本人を救出するイラストを示して、戦争法の必要性を訴えたが、米軍にそういう余裕はある? アメリカ人より先に日本人を救出したら、アメリカ本国で問題になるだろうなあ。アメリカ人を退避させる米艦船を日本の自衛隊が援護する(守る)ということが優先的に求められるのではないか。(数の多い方を優先する、というのは、ほら「国会の質問時間」で自民党が打ち出した方針でしょ?)
 それよりも気になるのが、次の部分。

 日本政府は、釜山港などから日本までは、海上自衛隊の油送艦などでピストン輸送を行いたい考えだが、韓国は同国内での自衛隊の活動に否定的で、実現のメドは立っていない。

 北朝鮮と戦争したくてたまらないらしいが、戦争をするなら、それなりの準備が必要。まず、韓国との関係を改善し、いつでも協力できる体制にしておかないといけない。
 アメリカが日本を助けてくれると、安倍は簡単に信じきっているようだが、海の向こうの遠い国よりも、いちばん近い韓国と協力できなくて、どうやって戦争するつもりなのだろう。
 順序が逆だろう。
 まず韓国との関係を良好なものにし、何が起きても協力できるようにする。信頼関係が必要だ。信頼関係がゆるぎのないものになってから、戦争の準備をする。良好な関係ができないなら、戦争そのものをあきらめる。
 というか、戦争をおこさせないために何をするか、ということを考え、探し続けなければならないのだけれど。

 アメリカは、朝鮮半島と日本で戦争が起きているかぎりは、本国が攻撃されることがない(少ない)。ベトナム戦争や、かつての朝鮮での戦争を思い出すだけでいい。ほかの中東での戦争も思い浮かべてみよう。
 アメリカは世界戦略として「戦争」を考えている。「戦場」になる国のことなど考えはしない。そんな国の大統領と「邦人退避策」を協議すれば、「米人退避策」のために日本は何ができるか、と問われるだけだ。トランプはまず「米人退避策」を主張する。こんなことは、あたりまえだけれど。この「あたりまえ」のことが安倍にはわからない。自分中心にしか考えられない。
 アメリカに視点を移せば、

朝鮮半島有事/米人退避策 協議へ/大統領 訪日し、安倍首相と

 という見出しになるはずである。
 こういう簡単な論理を無視して、安倍の自己中心的な考えが、新聞にそのまま載っているということが、とてもおそろしい。
 トランプは日本だけを訪問するのではない。安倍とだけ会談するわけではない。トランプは「アジア」を訪問し、アメリカの「戦略」を説明するのである。アメリカが中心なのであって、日本はその戦略の一部。安倍がトランプと一緒に韓国、中国、ベトナム、フィリピンを訪問するわけではない。安倍は、「蚊帳の外」とまではいわないが、単なる「脇役」だ。
                   


#安倍を許さない #安倍独裁 #沈黙作戦 #憲法改正 #天皇生前退位
 
詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
クリエーター情報なし
ポエムピース
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