詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

4 古本市

2019-04-03 15:26:32 | アルメ時代
4 古本市



川を越えてカーブする電車を追ってみる
右に傾いて赤い色が消える
音は遅れてビルの間を風になってやってくる
「色と音 空気のなかに存在するズレが
街の層を剥がしていく」
見上げればアルミニウムを割ったような銀が散乱する空だ
イチョウの葉も厚みを失い金箔細工の軽さで降ってくる
自然はすべて鉱物の冷たさで輝いている
人間だけが生ぐさい
自分を剥がすことばを探しに古本市へやってくる
ふれると皮膚が剥がれるような冷たいことばが欲しい
もっともっと硬く冷たいことばが



(アルメ230、1984年12月25日)
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3 28系統のバスで

2019-04-03 15:25:35 | アルメ時代
3 28系統のバスで



路面電車の軌道をまたいで
砂津の角を曲がった
右手から夕暮れの空が
ビルの角を鋭角に切った

小文字通りの交差点で
ビルの影を切った色が一面に広がった
建物の稜線が光っている
失われる寸前の冷たい光が
一点透視の構図を作る

「夕陽と夕焼けの色には
ずいぶん違いがあるのね」
意味を探すように
沈んでいく太陽を探したが
アメリカスズカゲの実
しか見えなかった
読売新聞の角で
女といっしょに振り向いてみたが
赤く濁った空に
段電光社のアンテナが
黒く透けているだけだった

街の内臓みたいだ
灰の構造みたいだ
だがうまくことばにならない
「日が落ちるのがはやくなった」
言い古されたことばに頼って
こころとは違うことしか言えなかった


(アルメ230、1984年12月25日)
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105 アンティオコス・エピファネスにむかって

2019-04-03 10:04:07 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
105 アンティオコス・エピファネスにむかって

マケドニア人が おおいなる戦いのさなかにあります。
もし彼らが勝ったなら-- 誰にせよのぞむ者に
わたしは珊瑚で作った 獅子と馬とパンの像を
粋をきわめた宮殿を ティロにある庭園を、つまりあなたに
頂いたすべてを与えましょう アンティオコス・エピファネス様》

 と、「アンティオキアのある若者が 王にむかって言う」。
 「もし彼らが勝ったなら」という仮定はこころをくすぐるが、同時に「負けるに違いない」という不安をまねきよせる。そして、そのことばにされなかったものが、まるでそれを期待していたかのように実現する。
 王は、

何も言わなかった。 立ち聞きする者が
外に漏らすかもしれない-- それに予想のとおり
彼らは間もなくピドナで 大敗北を喫したのだ。

 「予想のとおり」が肉体に突き刺さってくる。一連目の「珊瑚で作った 獅子と馬とパンの像」云々の豪華なことば、口にされたことばとは違うもの。そこに「真実」がある、という感じで。
 ひとはなぜ「予想」するのか、あるいは「予感」するか。そして、それはなぜ的中するのか。「歴史」と「予想(予感)」が重なる。つまり、「歴史」は繰り返す。知っていることしか、起きないのだ。
 つまり、カヴァフィスは「歴史」のなかに、彼自身の未来を「予感」するしかない詩人だったということだろう。

 池澤は、アンティオコス・エピファネスの「歴史」を註釈で書いているが、長いので省略する。




カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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新元号報道の罠(2)

2019-04-03 09:00:39 | 自民党憲法改正草案を読む
新元号報道の罠(2)
             自民党憲法改正草案を読む/番外254(情報の読み方)

 新元号がどういう経緯で決まったか。2019年04月03日の読売新聞(西部版・14版)が3面で詳報している。(3面は13S版)

本命案 根回しなし/「令和ありき」批判避ける

 という見出し。
 安倍は最初から「令和」にするつもりだった。しかし、根回しをすると、それがわかってしまうので根回しをしなかった。
 では、何のために「有識者会議」が開かれたのか。安倍が独断で決めたという印象を隠すためだ。「有識者会議」が選んだ、と逃げ道をつくるためだ。いわゆる「隠蔽工作」である。
 記事を読んでいくと、思わず笑いだしてしまう。笑ってすまされることではないのだが。(改行と引用部分の数字は私がつけたもの)

 懇談会でのやり取りの中で、
(1)政府側は6案のうち広至、久化、万和の3案は「会社名などで使われている」と説明し、
(2)英弘と久化には同音異義語があるとの解説をしたという。
(3)ただ、出席者の一人は「令和に誘導した感じはしなかった」と証言する。

 (1)3案が会社名などにつかわれているのなら、最初から除外すればいい。わざわざ暗に含める必要はない。
 (2)同音異義語があると元号にふさわしくないなら、これも最初から除外すればいい。さらに、「れいわ」に同音異義語がないのか、これを点検しないといけない。私の持っている広辞苑(昭和45年発行)には「例和(れいわ)」が載っている。「例として話す談話。たとえばなし。」古い辞書なので、いまも載っているかどうかはしらない。これは、あきらかにおかしい「解説」である。
 (1)(2)を読めば、誰もが「誘導された」と思うだろう。だからこそ、
 (3)の「証言」が必要なのだ。「誘導されなかった」という「感想」を「証拠」として提出する必要がある。「出席者の一人」がだれかわからないが、そのことばをわざわざ「証言」と書いてしまう読売新聞が傑作である。単に「語った」(話した)で充分なのに、それを「証言」にまで「高める」必要があったということだろう。

 別項で書かれた「皇室へ配慮欠かさず」にも、重要な情報がある。私はすでに何度も指摘してきたが、天皇の「強制生前退位」報道(NHKのスクープ)を初めとして、安倍は天皇を政治利用し続けている。
 次の部分、

 天皇陛下は2016年夏、国民向けのビデオメッセージで退位の意向を示唆された。首相官邸はその数年前には陛下のお考えを把握したが、退位に難色を示してきた。

 意向を把握したとき、それを酌んで受け入れなかったのはなぜか。国政選挙を控えていたからだ。では、なぜ2016年の夏に、突然受け入れることにしたのか。参院選で自民党が大勝したからだ。「憲法改正」の国会発議に必要な議席を確保したからだ。
 つまり。
 それまでの「数年間」退位に難色を示したのは、逆に言えば、天皇が交代するということがあれば、国民の関心は天皇に向いてしまう選挙の行方が読めない。話題の中心が天皇に集中する。大敗でもしたら、改憲に必要な議席数から遠ざかる。改憲に必要な議席が確保できるまで、天皇問題は封印しておこう、と判断したのだ。
 天皇を「政治利用」しているのだ。
 「天皇を政治利用する」という姿勢は、一貫している。今回の元号発表、4月30日の天皇の強制生前退位、5月1日の新天皇即位も同じ。統一選を「避ける」と言いながら、「統一選」期間に安倍がメディアに出る機会を増やしている。メディア露出を増やすために、あえて「統一選」とからませたのである。
 これは1面で報じられている「内閣支持率」の世論調査にあらわれている。

 安倍内閣の支持率は53%で前回調査(3月22-24日)の50%からややあがった。

 テレビ(NHK)露出時間が長くなると、支持率は上がる。NHKはそれを狙っている。新元号発表は、「なぜ安倍だけ取り上げる」という批判をかわして報道できる絶好の機会である。

 3面にもどる。記事の最後の部分も、思わず笑いだしてしまう。新元号を杉田和弘官房副長官が電話で宮内庁に電話で知らせた。宮内庁から天皇と皇太子に伝えられたのだろうが、

 新元号を知った皇太子さまは「わかりました」と、にこやかに応じられた。

 皇太子が「わかりました」と言ったのはわかるが、「にこやか」はどこから出てきたことばなのだろうか。記者が「目撃」したわけではないだろう。宮内庁が「にこやかに」ということばを添えて政府側に伝えたのか。「にこやか」が事実か、創作か、判断のしようがない。
 それに、天皇には政治的権能は禁じられている。皇太子もそれに準ずるだろう。特に5月には天皇に即位することが決まっているのだから。そうすると、「わかりました」以外の答えはできないだろう。「その案には反対です」と言えないだろう。そして、そういうとき、それがいやであっても「にこやかに」振る舞うのが普通だろう。不機嫌な態度で「わかりました」と言えば、「わかりました」とは言ったが不満らしい、不満を示すのは「政治的態度だ」という批判が出てくる。たとえ皇太子が「不満」な表情をしたとしても、宮内庁はいろいろ「忖度」して「にこやかに」ということばをつけくわえるだろう。
 こんな「儀礼」的な行為を、まるで独自に取材した「事実」のように書き加えることがとても恐い。






#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

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