詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(114)

2019-04-12 10:21:51 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
114 紀元前三一年、アレクサンドリアで

郊外の、あまり遠くない小さな村から
道中の埃にまみれたまま

一人の行商人が町に着いた。「香木!」とか「ゴム!」、
「最高級のオリーヴ油!」「髪につける香水!」

と道々叫びながら彼は行く。しかし、大変な雑踏と
音楽とパレードのさなかでは、その声は誰にも聞こえない。

 池澤は、

 主人公の行商人はもちろん架空の人物。プトレマイオス朝の最後の日々をアレクサンドリアという街の雰囲気とともに見事にとらえた作品。/歴史のドラマはアクティウムの海戦そのものであったろうが、私的なドラマはそこから少しずれたところに成立する。

 と書いている。ほんとうは海戦に敗れたのに、クレオパトラが嘘を言った。知らずに町中が大騒ぎした。

 「118  彼は読もうとした」について「映画芸術の影響」を指摘していたが、この作品の方が「映画的」だ。
 特に二連目がいい。
 群集に揉まれて、叫んでも何も聞こえない。それでも大声で行商の品が何かを叫んでいる。
 クローズアップだ。
 このクローズアップを、カヴァフィスは「声(商品名)」で詩に再現する。ギリシャ語の音がわからないが、きっと「音楽的」だ。「香木」「ゴム」は短い響き。つづく「最高級のオリーヴ油」「髪につける香水」は「修飾語」がある分だけ長い。うねりのような響きがある。
 短い音から長い音へと動き、それにあわせてクローズアップが徐々に視野を広げ、群集とらえる。パレード かスクリーンに映し出され、町の全体がわかる。

彼はつきとばされ、引きずられ、こづかれたあげく
最後に当惑してたずねた、「この大騒ぎは何ですか?」

 そして、「事実」が知らされる。小さなものから大きなものへ、視点が拡大される。この展開のリズムは映画のカメラの動きそっくりである。




カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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