詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

14 夏の絵画

2019-04-17 11:12:46 | アルメ時代
14 夏の絵画



抽象(的な論理)が
草むらからほどけていく
加筆可能な物語に
発光する蛇は登場しすぎた
未熟な舌は
日焼けしていない女の足の
不思議な色に触れる
「女は自分を決定せずに
生きていける」
古い言いぐさにほどかれて
くずれる色の内部に
新しい下描きが浮いてくる
抽象(的な姦淫)
女の曲線に巣をつくれば
脱出可能な(はずの)物語に
どんな罠が似つかわしいか
発汗する幼い蛇
何が起きるのかを待って
一点をながめつづける目から
再びあらわれ舌を動かす
まなざしの背後で夜は
深い呼吸をしている
抽象(的な構成)が
ぬるい風をたわめている



(アルメ236 、19855年09月25日)
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池澤夏樹のカヴァフィス(119)

2019-04-17 10:56:48 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
119 イタリアの岸辺で

キモス、父はメネドロス。若いギリシャ系イタリア人。
彼の人生は、ひたすら享楽の中にある。
大ギリシャ圏のこの一角の若者たちと同じように
贅沢の中で育ってきた。

 書き出しだけを読むと、カヴァフィスの一連の「官能」を描いた作品群を連想する。しかし、この詩の展開は違う。港に戦利品が降ろされる。それを見て動揺する。

ギリシャからの戦利品、コリントから略奪された品々。
どう考えても、今日は遊ぶ日ではない。
この若いギリシャ系イタリア人が
愉快に過ごすことは今日はできない。

 ギリシャ人の血が騒ぐ、ということなのだろう。「意味」はわかるが、私は、この詩のリズムの方に驚く。
 「ギリシャからの戦利品、コリントから略奪された品々。」は抽象的で、具体的な品物が何かわからない。
 そういうことは一行ですませてしまって、主人公の「動揺」に焦点を当てるのだが、その当て方が尋常ではない。「今日は遊ぶ日ではない。」と「愉快に過ごすことは今日はできない。」はほとんど「意味」としては同じだ。繰り返さなくても「意味」は通じる。しかし、カヴァフィスは繰り返す。カヴァフィスの短い詩は、こういう繰り返しが多い。繰り返すことで「意味」を「音楽」にしている。カヴァフィスが書きたいのは「音楽」なのだ。
 同じことばを繰り返すしかないこころ、そのこころのなかで繰り返しうねる苦悩の音楽。そこに「陶酔」というか「愉悦」がある。苦悩さえも愉悦にかわってしまうという不思議がある。
 「若いギリシャ系イタリア人」というのも繰り返しである。繰り返すことで、カヴァフィスは起きていることを「事実」に結晶させる。「音楽の愉悦」のなかで結晶させる。魔術師である。

 池澤の註釈は史実を要約している。

 紀元前一四六年、アカイア同盟を撃破したローマ提督ムンミウスはコリントの死骸を攻略、男をすべて殺し、女と子供を奴隷に売り、家を破壊した。そこからの荷を積んだ舟がこの港に入った。




カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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