詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(125)

2019-04-23 00:00:00 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
125 酒舗や娼館を

ベイルートの酒舗や娼館を転々としている。
タミデスを失った以上
アレクサンドリアには居たくなかった。
彼はナイル川の別荘と市内の屋敷で釣られて
知事の息子のところへ行ってしまった。

 「酒舗や娼館」と「別荘と屋敷」が対比されている。タミデスが知事の息子に「釣られて」「別荘と屋敷」の方へ行ったということだが、その前には知事の息子が「酒舗や娼館」にやってきたということだろう。ベイルートではなく、アレクサンドリアでは。
 ここには「往復」がある。人の行き来がある。
 このあと、詩は、最初の一行を繰り返し、こう展開する。

ベイルートの酒舗や娼館を転々としている。
安っぽい遊蕩にふける下劣な日々。
変らぬ美のように、我が肉体に染みついた
香水のように、残る
救いはただ一つ、
世にも稀な美貌の若者タミデスが
二年の間、わたしだけのものだったということ、
屋敷もナイル川の別荘も持たないわたしなのに。

 ここでは「わたし(の肉体)」と「屋敷と別荘」が対比されているのかもしれない。かつてタミデスは「わたしの肉体」に「釣られた」のだ。
 「酒舗や娼館」と「屋敷と別荘」の間に「肉体」があり、「肉体」を通路として「酒舗や娼館」と「屋敷と別荘」はつながり、そこをタミデスは往復する。現実にもそうなのか、甘い思い出の中だけでそうなのか。いま、「わたし」は「肉体」を頼りに、アレクサンドリアとベイルートを往復している。記憶の中で。

 ベイルートに関する池澤の註釈。

アレクサンドリアから六百キロ、すなわち船でなら一、二日ほどの距離にある国産都市で、ギリシャ系の主人公にとってはカイロより行きやすい遊蕩の場だったのだろう。




カヴァフィス全詩
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