詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

石井辰彦「(美を見失ふ)」

2019-04-19 19:19:35 | 詩(雑誌・同人誌)


石井辰彦「(美を見失ふ)」(「現代短歌」2019年05月号)

 石井辰彦「(美を見失ふ)」は短歌の連作。「現代短歌」に発表されているのだから、あたりまえのことなのかもしれないが。
 でも、私のような素人には「短歌」とはすぐにわからない。
 銀と白の縞模様の中に活字がぎっしり並んでいる。天地がそろっている。一瞬、小説か何かかと思う。
 その一行目。

詩神に見棄てられしか? 美について歌はむとして美を見失ふ

 あ、散文ではない。それなら「散文詩」か。いや、そうでもない。もしかしたら、短歌?
 二行目。

冬薔薇朽ちしも黙示。泯びゆく(種としての)人類を書けとの

 うーむ。どうやら「短歌」らしい。でも「散文詩」でもかまわないか、と思いながら読む。
 読みながら、ものすごい「抵抗」に出会う。
 まず活字。「旧字体(正字体)」だ。私のワープロソフトは旧字体を持っていないので、ふつうに使われている字体で代用している。
 さらにはルビが多用されている。「詩神」には「ムーサイ」。「冬薔薇」は「ふゆソウビ」。ひらがなとカタカナが混在している。「黙示」は「モクシ」。「泯」に「ほろ」。「種」に「シュ」。「人類」に「ジンルイ」。「和語」と「漢語(でいいのかな?)」でつかいわけている。
 これは何を書きたいのかなあ。
 何らかの「意味」、「イメージ」をことばにしたいのか。それとも「ことば」を「文字」と「音」に分解して、万華鏡のように乱反射させたいのか。
 そのとき「短歌」の「57577」というリズムはどうなるのか。私は石井の作品が「57577」になっているかどうか調べたわけではないが、ぱっと黙読した印象では、それに近い感じがする。これはしかし、あくまで「近い」であって、私の肉体の中にある「57577」とは違う。
 だから、よけいに「短歌」かなあ、それとも「散文詩」かなあ、と思ったりもする。
 で。
 そこから再び、私は「短歌」というものに返っていく。「短歌」について、私が知っていることは少ない。いちばん簡単な「定義」は「57577」のリズムでできている、ということ。
 石井の「短歌」は「57577」か。
 よくわからない。そして、この「わからない」という感覚を自己点検してみると、石井の多用している「漢語」と「ルビ」が影響している。それは「和語」のリズムを破壊する。「和語」のうねり、流れを変えてしまう。ふつうに考える「流動性」とは違う「音楽」を生み出している。破裂とか亀裂という感じが前面に出てくる。「流れ」の比喩をつかって言うと、「流れ」というよりも障害物にぶつかって飛び散る飛沫と、その飛び散るときに出る強い音。
 そして、それはまた「絵画的印象」にも影響する。和歌の「うねる流れ」が表面で光を反射するのに対し、石井の「破裂/飛沫」は内部にあった光を解放する、隠れていた光を発射するという感じだ。
 「和歌」のうねりのなかにも「内部」の強さを感じさせるものがあるが(急には例が思いつかないけれど)、そういう「黒い輝き」とは違うものがある。「和歌」の場合、強さは「粘土」なのだが、石井の場合、それは硬質なものだ。硬質だから、破裂するのだろう。断面の輝きを見せるというか……。

 こういう「感覚の印象」を書きつらねることは、意味がないかもしれない。でも、いまの私には、そういうことしかできない。石井の連作は数が多くて、私には抱え込めない。思いついたことを書いておくしかない。書かずにすませるのがいいのかもしれないけれど、この「ことばの冒険」を読むと、それが何かわからないけれど「いいぞ、がんばれ」といいたくなる。石井は「がむしゃら」ではないのかもしれないが、私は「がむしゃら」を感じ、なんだかわくわくする。
 全体の印象が分かるかもしれないと思い、写真をアップしておく。




*

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池澤夏樹のカヴァフィス(121)

2019-04-19 10:49:32 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
121 ロードス島におけるティアナのアポロニオス

 ティアナのアポロニオスが若者相手に教育と教養を説いた。

「私が寺院に入る時は」と彼は最後に言った、
「たとえ建物は小さくとも
黄金と象牙の像をそこに見たい。
大きな建物にただの粘土の像をではなく」

「ただの粘土」とはよく蔑んだもの。
しかし(しかるべき訓育を得ない)人々は
偽物にこそ感服するのだ。ただの粘土に。

 この前後の関係がよくわからない。アポロニオスのことばに反して、若者は大きな寺院と粘土の像をつくったということだろうか。ことばを聞くだけ聞いたが、自分のものにしなかった。教育がないので、大きな寺院、粘土であっても大きな像がいいと思って。

「ただの粘土」とはよく蔑んだもの。

 わからない原因(?)は、この一行の「口調」にある。
 これは、だれが言ったのだろうか。若者だろうか。アポロニオスに対して「あなたはそう言うが、教育のない人間は巨大な寺院、巨大な像に感服する。それが偽物であっても」と反論する前に、「『「ただの粘土』とはよく蔑んだもの」と言ったのか。
 それならそれで、私はこの若者は「豪快」だと思う。彼は彼なりの判断基準を持っている。アポロニオが何と言おうが関係ない。普通の人々(訓育を得ない人々)のこころをちゃんとつかんでいる。普通の人々のこころをつかむことができない人間だけが、教育だとか「本物」だとかにこだわる。

 池澤の註釈。

 この若者は自分の家の建築と装飾にすでに十二タラントを費やし、さらに同じ金額を投じるつもりだが自分の教育には一銭も遣わないと言った、と『ティアナのアポロニオス』の第五巻第二二章に書いてある。

 つまり、一連目はアポロニオスが主人公で、二連目は若者が主人公。対話が書かれているということなのだが、二連目の「主語」がだれなのかわかるような翻訳は不可能だったのだろうか。こういう若者はカヴァフィスの主役にはなり得ないようにも感じるが……。




カヴァフィス全詩
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