詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

独裁のはじまり。

2020-10-01 21:54:59 | 自民党憲法改正草案を読む
「日本学術会議 会員の一部候補の任命を菅首相が見送り」というニュースが報道されている。「赤旗」がスクープしたものを、NHKも追いかけている。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201001/k10012643361000.html?fbclid=IwAR18pct1l1xf020uGcHD3dFlMDFbcl6rPEK8PgaOJo-GCEwEICs44rK5gzo

独裁はいつでも、こういう「わかりにくい」ところからはじまる。
日本学術会議の会員がだれかということは、一般のひとは知らない。
だから学者が会員になれなかったからといって、それが生活にどう影響してくるかも実感できない。
極端に言えば、素人は「その人の学問の水準が基準に達していないということでは」と思ってしまう。
自分に、その「学問」に対する知識がないのに、である。
これがたとえば「紅白歌合戦」の出場者だったりしたら、「えっ、あんなに売れているのになぜ?」という声が起きる。
昔、グループサウンズが締め出されたように。ピーターが締め出されたように。
ひばりが、弟の問題で出場できなくなったとき、なぜ?という声が起きたように。
学問の世界は、たとえば田中耕一さんがノーベル賞をとったとき、みんながびっくりした。
「下馬評」にもあがっていなかった。でも選ばれた。
知っているひとは知っているが、知らないひとは知りようがないというのが学問の世界である。
こういうわかりにくいところから、菅が手をつけたというは、非常に「巧妙」である。
きっと官僚の人事も、非常に見えにくいところから支配し始めるのだろう。
「官邸の方針に従わない人間は異動させる」と菅は公言していたが、トップを異動させる先に、現場に近い「課長」とか「係長」とか(役職がわからないのでテキトウに書くが)のようなところから手をつけるのだ。
会社だって、そうでしょ?
部長になかなかなれない、という前に、課長になかなかなれない、係長になかなかなれない。課長になるはずが「左遷された」とかね。
こういう「人事」は「会社全体」では目立たない。しかし、「現場」では非常にリアリティーがあるものとしてひとを支配する。
「あの人、部長の意見に反対していたもんね」とか。
で。
言い直すと。
菅のやっているのは「国家の人事」ではなく、「小さい会社の人事」なのだ。
こういう人事をやる組織は、結局、大きくなれない。
どんどん小さくなる。
日本の崩壊が「学問」からはじまった、ということだ。


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高野尭『逃散』

2020-10-01 10:45:58 | 詩集


高野尭『逃散』(七月堂、2020年07月25日発行)

 高野尭『逃散』は、何を書いているのだろうか。たとえば「爪」。

茫洋のもなか
折をたたみ
爪をみている
地のいろはむ
瞳のわくでつくられる
あわいかげ、もや、くもり ひかり

 書き出しの「音」が不思議だ。「ぼうようのも」まで母音は「お」である。「なか」は「あ」である。その変わり目の「な」は「の」と呼び掛け合っている。この響きが「肉体」の奥を揺さぶる。内にこもったものが、爆発し、発散する(解放される)感じ。
 二行目からは「い」が交錯する。
 一連目の最終行では「お」「あ」「い」が「ま行」「か行」「ら行」のなかで動く。「や」の音のなかには「い」と「あ」がある。「もや」には「お・い・あ」が融合している。そのため、私の「肉体」には何か非常に迫ってくるものがある。
 こういう「音」の感じは、たぶん、人によって受け止め方が違うだろう。いやだなあ、と感じる人もいれば、気持ちがいいなあ、と感じる人もいるだろう。私は「揺さぶられる」と言っておく。
 二連目の後半。

なみだが群れる、枯れたか
眼づまりにめいり
不知火にくるう

 濁音の重なり「だ」「が」が乱れて「が・か」へと動き、その間に隠れている「れ」の重なりが、「め」の重なりにつながる。これは「え」の呼応ということもできる。そして「しらぬいにくるう」には「い」と「う」の交錯があるのだが、「くるう」と「う」がつづく響きは「ぼうようのも」と同じように、太く、深く、「肉体」を揺さぶる。
 「漢字」と「ひらがな」の組み合わせのなかに、見えるものと見えないものを重ねている。
 で、何が書いてある? 意味は?
 それは、関係がないなあ。

不在の母をにくむ
茫々はきらい
朱の紙をはきすてる

 「き」らい、は「き」すてるの「き」の音の強さ。それが、直前の「にくむ」と呼び掛け合う。「にくむ」は「きらい」に意味として重なり、それは「はく」「すてる」にも意味として重なるかもしれない。
 あえて、「意味」について語れば。
 でも、「意味」は、それぞれの人間が持っているもの(向き合っているもの)だから、私は、ときにはそれを気にかけない。どんなに「意味」を共有したとしても、どうせ他人、と思ってしまうのだ。私は「誤読」が大好きだが、「誤読」とは筆者の「意味」を無視して、私の「意味」を主張することである。きょうは、「意味」を考えずに、そこに、私とは違う人間がいると感じらるだけでとどめておく。(というのも「誤読」のひとつなのだろうけれど。)
 不誠実な向き合い方かもしれない。でも、誰に対してもすぐに誠実になれるわけではない。共感できるわけではない。何か感じるけれど、しばらく、何か感じたというだけの状態でおいておく。
 高野のこの詩集を読むと、そういう感じにさせられる。
 だから、まだ全部読んだわけではない。拾い読みしながら、この「音」は「肉体」に響いてくるなあ、と感じる。「意味」を拒絶して、私は揺れてみる。高野の詩は、書き出しの音が魅力的なことが多い。

しんやをわかつ舌頭の普通は
ただころしあう寂の音叉                        (寂寥)

さいなむいとぐちほどどこにもあり
北極にほうりなげ指環のありかもはかない               (逃避行)

しらずしらす裂開のうみはだれかの胸座がうずいてうとましい     (夢の異端)

 私は、那珂太郎の「音」を少し思い出している。その「音」は日本語の「音」なのだけれど、不思議なことに「カタカナ」とも親和する。「耳」で聞く「音」ではなく、「声」に出す「音」なのかもしれない。いや、「声」なのかもしれない。
 「傾性」という作品。

はじまりはちらばり
自虐につきすすむ
ちいさな悪魔小僧が
インヴィジブルに
草むらを徘徊していた

野鳩のくぐもる喉音が近づいて
くる秋に咲けないマリーゴールドを
おどろに悔みながらすすり哭く

 マリー「ゴールド」と「おどろ」の掛け合いがいいなあ、と思う。
 いま引用した部分では「くぐもる」「くる」の響きあいが、いちばん好きなんだけれどね。鳩の「ぐるぐる」という求愛の「声/喉音」が「もの」のように迫ってくる。

 「意味」ではなく「音/声」を追い続ければ、高野という詩人の「肉体」にであえるだろうなあ、という予感がある。
 でも、なぜ、最近の詩集はこんなに分厚いのか。「小説」よりもページが多そうである。詩集は、私は、80ページくらい、15篇くらいのものがいいなあ、と思っている。





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