詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

黒沢清監督「スパイの妻 劇場版」(★★)

2020-10-20 15:26:45 | 映画
黒沢清監督「スパイの妻 劇場版」(★★)(2020年10月20日、KBCシネマ1)

監督 黒沢清 出演 蒼井優、高橋一生

 黒沢清は何を撮ろうとしているのか。私は、そんなに多くの作品を見ているわけでもない。見た作品も、ほとんと覚えていない。私とは、相性が悪いのだろう。
 思うことは、ただひとつ。
 黒沢は、古い映画をたくさん知っているに違いない。1950年代、あるいはそれ以前のものもあるかもしれない。スクリーンの枠組みというが、絵のなかにしめる人物の位置が、どうも古くさい。私が映画館で映画を見るようになってから見た映画というよりも、テレビで見た白黒フィルム(テレビ自体が白黒だったが)やリバイバルとしてみた白黒フィルムの感じに非常に似ている。
 この映画のなかには、実際に、主人公が妻をつかって撮ったフィルムが流されるが、それは「出色」。その映画中映画のもっているニュアンス、トーンが、まあ、黒沢が狙っている映画ということになるのだろう。
 全編を白黒で撮ると、この映画はなかなかおもしろいものになると思う。
 出だしの英国人を逮捕するときの建物の前の刑事ふたり。ひとりが白い服。一人が(忘れたが、白くない服)、その間にカーキー色の軍人(?)が入り込む。カラーだと、色がうるさくて、緊張感がそがれる。
 森の中を車が走るシーン、木の間から見える空(光)と樹木の形(影)のコントラスト。これなども、黒沢明の「羅生門」に通じるものをもっているかもしれない。モノクロ映画ならば。
 さらに、登場人物たちの、妙にのっぺりした顔(クライマックスまでは、まるで能面)のように、目鼻の輪郭があるだけで、陰影がない。モノクロというよりも、無声映画時代の「顔さえ見せておけば、セリフなんてどうでもいい」という時代の撮り方だなあ。
 これに輪をかけるのが「セリフ」に重心が置かれていること。蒼井優の「セリフ」が特徴的なのだが、「心情」をことばで説明する。映画ならば、ことばでなく、役者の肉体と顔で、感情の変化をあらわすのだが、「セリフ」をいったあとで「顔」が動いている。
 だから、クライマックスというか、見せ場はみんな「演劇(舞台)」みたいな感じ。
 最後も、あまりにも「説明」的すぎる。高橋一生(でいいのかな?)が、船の上で帽子を振っているシーン、蒼井優が「だまされた」と気づいた瞬間でおわっておけば、まだ映画の印象は違ったかもしれない。蒼井優の精神科病院への入院、そこでのやりとり(大演説)、空襲という幕切れは、完全な「紋切り型」。
 これを新しいスタイルと感じるか、時代後れと感じるかは、人によって違うだろうが、私は「時代後れ」と感じる。



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