詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

平野峰子「しずめる」

2022-11-22 21:26:43 | 現代詩講座

平野峰子「しずめる」(現代詩通信講座、2022年10月19日行)

 現代詩通信講座の内容を一部紹介する。googlemeetをつかっての講座。

しずめる  平野峰子

あなたと 仲良くしたいから
そのままの関係を続けたいから 争いを好まない
ほんの少し我慢する わたし
それは ほんとに寄り添うということだったのだろうか
幾たびか ほんの少しだけ

でも 超新星のように老いた星は
とてつもない質量になってしまっていた

ほんの少しは 気づかない間に
理解し難い重さになってしまっていた
少しずつというのは 実感が伴わない
少しずつが積ると 地層が変わる

その重さは 背骨を砕き
胸を突き破る程の痛みになっていく
地球上でもっとも重いイリジュウムを集め
滝つぼに その痛みを音もなく 波立ちもさせず
消えるように沈めたい

星の光が届くとき すでに星はその状態ではないのだけれど
今も 今も 光っている・・
光り続けていると信じ 私は見上げる
私とともにあるわたしが
しっかりと 肩を抱いている

 親友がいる。有効な関係をつづけたい。争いを避けるために我慢をする。しかし、その我慢が蓄積し、どうにもならなくなる。友好に亀裂が入る。感情が爆発する。そのあとで、まだ友好がつづいていてほしいと願う。あるいは、その友情を思い、自分のなかで大切に守る。こういうことは、多くのひとが経験することだと思う。
 平野は、このことを「超新星の質量」「地層」というふたつの存在を通して語っている。「超新星の質量」は感情の爆発を連想させる。「地層」は「我慢の蓄積」を連想させる。「少しの我慢」がある日、蓄積し続け、ある日、超新星のように爆発する。そこで終わるのではなく、その遠い星を見ながら、光の過去を思う。超新星は爆発したが、そこには何もなくなったのではなく、いまも光がある。その光は「私」のなかに生きている、ということを表現したいのだと理解できる。
 超新星の比喩もわかるし、地層の比喩もわかる。地層の部分に書かれている「その重さは 背骨を砕き/胸を突き破る程の痛みになっていく」という二行は、感情の蓄積(苦しみの蓄積)の比喩として、とてもいい。
 でも、読んでいて、なんとなく読みにくい。
 超新星の爆発(すでに存在しない)といまも見える光のことを言いたい思いが強く、そのために超新星ということばを先に言いすぎている。二連目は最終連につながっていくのだが(そして、そのことが平野のいちばん言いたいことだとわかるのだが)、語り方が急ぎすぎていると思う。
 そこで、こんな提案をしてみた。二連目の二行の位置を変えてみたらどうだろうか。こんなふうに。

あなたと 仲良くしたいから
そのままの関係を続けたいから 争いを好まない
ほんの少し我慢する わたし
それは ほんとに寄り添うということだったのだろうか
幾たびか ほんの少しだけ

ほんの少しは 気づかない間に
理解し難い重さになってしまっていた
少しずつというのは 実感が伴わない
少しずつが積ると 地層が変わる

その重さは 背骨を砕き
胸を突き破る程の痛みになっていく
地球上でもっとも重いイリジュウムを集め
滝つぼに その痛みを音もなく 波立ちもさせず
消えるように沈めたい

でも 超新星のように老いた星は
とてつもない質量になってしまっていた

星の光が届くとき すでに星はその状態ではないのだけれど
今も 今も 光っている・・
光り続けていると信じ 私は見上げる
私とともにあるわたしが
しっかりと 肩を抱いている

 一連目の「ほんの少しの我慢」が二連目で「ほんの少し」「少しずつ」にかわり、それが「積もる」、そして「地層」になる。三連目で、その「地層」の姿を描く。いろいろな「重さ」が積み重なっている。その深層には「地球上でもっとも重いイリジュウム」がある。「重い質量」の凝縮は「超新星の質量」をとつながる。この部分は、「起承転結」でいえば、「転」になる。世界がいったん飛躍する。そして、その集積された質量の爆発(層の爆発、と読むこともできる)が、最終連で「あなたと私/わたし」の関係をあらわすものとして語り直される。その超新星の爆発は、宇宙の彼方で起きるのだけれど、地球に戻って言えば、深い「滝つぼ」で起きている何かでもある。
 「滝つぼ」と「宇宙」の関係(三連目と四連目の関係)を、もう少し書きこむ必要はあると思うけれど、「超新星」の二行を後ろに回した方が、詩の展開が劇的になるし、それまでの「我慢の蓄積」から「地層」への世界の変化が「ほんの少し/少しずつ」によってスムーズになると思う。
 起「ほんの少し」承1「少しずつ蓄積」承2「地層(重い質量/蓄積の極限)」転「超新星の爆発(重い質量の爆発)」結「いまも存在する過去(過去を抱きしめ、可能性を信じる)」
 こういう展開ができると思う。
 思いついたことを思いついたまま、忘れないうちに書いておくというのは必要なことだけれど、書き終わったら、一呼吸置いて、ことばの動きを見直してみることが大事だと思う。その過程で、足りないことば、余分なことばも見えてくる。
 ことばは書いた人のものである。しかし、同時に、ことばは読んだ人のものでもある。書いたことはいったん忘れて、読むひとになって、ことばの動きの連続性を見直してみると、詩は読者に届きやすいものになるかもしれない。
 ただ、このとき注意しなければいけないのは、ことばの動きのスムーズさにとらわれてはいけないということ。
 二連目に「超新星」があらわれたのは、たぶん「老いた星」の「老いた」と関係している。そこには「長い年月」という意識、さらには作者の「人生」が反映されている。どうしても、そのことを「ほんの少し我慢する」という形で生きてきた人生を、まず語りたいという気持ちがあるからだろう。それは重要なこと。
 だから、いま、とりあえず二連目の二行の位置を変えてみたのだけれど、そこで整理された意識をもう一度組み立て直す形で、二連目へもどすにはどうすればいいかを考えるといいと思う。とりあえず入れ替えた形では、まだ何かが不足している。その不足しているものを補ってみると、二行を二連目へ戻す方法も見つかるかもしれない。それができれば、そのとき、この詩は一つの「完成形」になると思う。
 私が提案したのは、その「完成形」へ行くための試みのひとつである。

 

 

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