詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

斎藤茂吉『万葉秀歌』(14)

2022-11-11 22:19:08 | 斎藤茂吉・万葉秀歌

斎藤茂吉『万葉秀歌』(14)(岩波書店、1980年、06月25日、第58刷発行)

磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君がありと云はなくに     大来皇女

 「云はなくに」は、現代語ではなんというのだろうか。茂吉は、ひとは「言わぬ」という具合に書いているが、最後の「に」がとても静かに余韻がある。「君が生きているとひとは言わないけれど」というよりも「君は生きていないとひとは言うけれど」という感じがする。「否定」のことばが、直前の動詞に結びつくのではなく、直前の動詞を飛び越してつながる。そして、その形を要求しているのが「死」のタブーなのだろう。死ということばをつかいたくない。生きているということばをつかいたい。その意識の交錯が、こういう表現を生んでいるのだと思う。「意味」は同じだが、言い方が違う。そうして、その「言い方」こそが詩なのだ。

あかねさす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも       柿本人麿

 なぜ「あかねさす日は照らせれど」と言ったのか。茂吉は「言葉のいきおい」と書いている。これは、とてもおもしろい批評だと思う。実際に短歌を書いていなと「いきおい」という動きは思いつかないかもしれない。そして、そのことばを思いついたら、ほかのことは考えられなくなるかもしれない。こういう変な感情というか、意識の動きが「文学(のことば)」のおもしろさだと思う。茂吉は、歌調が「渾沌として深い」とも書いているが、「渾沌」は矛盾に通じる。「あかねさす日は照らせれど」は、私のことばでは「矛盾」だが、それがことばの世界を強くしている。ことばを日常の世界から独立させている。ことばの世界を「詩」にしている。
 ふたつの歌に「……ど」ということばがつかわれているが、「……ど」と言ったとき、何かがこころのなかで入れ代わるのだと思う。いわゆる「逆接」。それが、弁証法で言う「止揚」を促していると感じる。

 

 

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