ウェス・アンダーソン監督「犬ヶ島」(★★★★)
監督 ウェス・アンダーソン 出演 犬のぬいぐるみ、モノクロアニメ
おもしろそう(予告編)、おもしろい(本編)。
でも、どういえばいいのかなあ。
最初から、最後まで「違和感」がある。「異質」を感じる。まあ、ストップアニメーションなのだから、「リアル」とは違う。その「違和感」か。しかし、「リアル」ではないからこそ、「本質」がわかるというか、刺激的という感じもあってねえ。「本物」じゃないから、想像力が「本物」をつくりだしていく、という感じなんだけれど。
近未来なのに、レトロな昭和の風景。テレビなんか、液晶じゃなくてブラウン管だからね。ゴミの島が、色彩的にとても落ち着いているとか。
で、ストーリーの後半で、私は、あっと驚いた。
主役(?)の犬は、当然のことだから犬なので「兄弟」がいる。たいてい、犬は複数の子どもを産む。その「兄弟」が途中で「任務」を交替する。それまでガード犬だった方がノラに、ノラだった方がガード犬に。これは「交替」というよりも、「引き継ぎ」と読み替えればいいんだ。
「引き継ぎ」をキーワードにして映画を見直すと、いろいろなものが見えてくる。
ウェス・アンダーソンは「映画」から何を引き継ぎ、何を私たちに手渡そうとしているのか。
随所に黒沢明の映画を思い出させるシーンがある。遠くのゴミの山の上に立っている犬とかね。音楽とか。さらには、「恋愛」シーンのぎこちなさというか、つつしみ深さというのは黒沢映画を見ている感じがするなあ。北斎の浮世絵の簡潔なのに激しいリズムがあるところとか。こういう「文化」そのものを「引き継いでいる」。「ものの見方」を「引き継ぎ」、それを「映画」として新しく生み出している。これが、この映画なんだね。ストーリーとは関係ない相撲なんかも、肉体が表現する「定型」の美しさの象徴なんだろうなあ。
でも、どんなときでも「引き継ぎ」というのは、むずかしい。時代が違う。言い換えると「時代が要求するもの」が違う。何らかの「変化」をつけくわえないと、「引き継ぎ」は「破壊」になってしまう。バランスが求められる。それを、どうやって形にするか。ウェス・アンダーソンは「色彩」のなかで「統一」してしまう。「色彩」として、「新しい動き」を生み出している。どの映画でもそうだが、ウェス・アンダーソンの「色彩」は不思議な「統一感」がある。「色彩」の「統一」のなかに、「引き継ぎ」をのみこんでしまうといえばいいかなあ。一種の「力業」だ。
まあ、こんなことは、どうでもいいんだけれど。
でも、私がいちばん感動したのは、この「引き継ぎ/交替」に関係するシーンだから、やっぱり「どうでもいいこと」ではなく「重要」なことなのだろう。
私がうれしいなあ、このシーンいいなあ、と思ったのはガード犬がノラになって、神社の縁の下で家族で暮らすシーン。人間のことなんか気にしていない。妻がいて、子どもがいて、それだけで満足。ノラといっても、神社なので(?)神主が食べ物をもってくる。子どもには小さい器。親には大きい器。小犬は自分たちの「境遇」なんて理解しない。運ばれてきたフードを無心に食べている。それを親は自然なこととして見つめている。「こういう暮らしはいいよなあ」と二人(二匹?)で、ことばも交わさずに感じている。
これって、一種の「理想」だね。
ここで「引き継がれているもの」は、家族がいっしょに生きている、という事実。ほかのことは気にしない。家族以外のだれかを「守る」なんて、がんばってすることではない。
ひるがえって。
この映画に描かれる「暴君」。「法律」で人間と犬を縛ろうとしている。「法律(政治)」が気になる。
これは変なことなのだ。
「法律」なんて何も知らなくも、「社会」が生きている人間を守る、というのが「理想」が実現された世界だろう。「法律」を知らないと他人に支配されてしまう、「法律」を知っている人間だけが「利益」を受ける、というのはおかしい。
これって、いまの日本だね。
文書を改竄する。訴追されるかもしれないから、なぜ改竄したのか、答えない。でも、その改竄が結論に影響しないから改竄ではない。法に問われない。それを知っている人間だけが「訴追されるかもしれないから答えない」と言って逃げ抜き、改竄を利用した人間も、「改竄は他人がしたこと」ということで法に問われない。
「法」を知らずに、「でも、こんなことしちゃいけないよなあ」と思って生きている人間は、どんどん「下層」に追いやられる。支配されて生きていくしかない。
困ったときに助けてくれるのが「法律」や「憲法」であるべきなのだ。
映画にもどっても。
犬が病気だから、犬を「ゴミの島」に追放するというのは「法律」としておかしい。犬が病気なら犬の病気を助けてくれるのが「法律」であるべきなのだ。実際に、そのために動いている人間も描かれている。
こういう「人間の基本」も引き継いでいかないといけない。
ちょっと映画そのものからは外れる感想になってしまった。
(2018年06月01日、ユナイテッドシネマキャナルシティ、スクリーン4)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/