谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(24)
(天から)
天から
降ってくる
言葉
地から
湧いてくる
言葉
心の
水面に
浮く
言の葉
人から人へ
行き交い
いつか
沈む
*
「言葉」がもし「意味」だったら、三連目は「浮く」でいいか。「乱す」にかわるかもしれない。最終連の「沈む」は「汚れる」「悲しむ」「泣く」か。そのとき「天」はあるか。意味は人間がつくる。
*
(自然は語らない)
自然は
語らない
歌わない
生きるだけ
ヒトは
混沌にいて
秩序を
求め
言葉を孕み
意味に
迷う
草木と
空に
背いて
*
「秩序」とは「言葉」がつくりだした「意味」のことか。そうであるなら、「自然は/語らない」ではなく、ヒトには自然の歌声が聞こえないだけだろう。「自然」は「意味」を持たなくても、「生きる」ことができる。
*
(沈黙に)
沈黙に
自然の
静けさが
満ちて
耳は澄み
微風に
酔う
理と知を
超えようと
あがく
言葉
心の無力を
嘆く
魂
*
前半と後半は違う世界に見える。「耳は澄み」は「澄ませる」ではない。「無我」になり「澄む」。「あがく」のは「我」が「あがく」。「無力」は「無我」の対極。「魂」とは「無我/無音/沈黙」の別の名か。