黒田ナオ「山の背骨」(「どぅるかまら」33、2023年01月10日発行)
黒田ナオ「山の背骨」を読む。
わたしの背骨が
まだ山の背骨とつながっていた頃
骨と骨のあいだに
ぎっしり葉っぱがつまっていて
土が匂っている
小さな虫が眠っている
わたしの背骨を見ながら
星が安心する
夜が染み込んでくる
月が歌っている
潮の満ち干があらわれる
潮がくるくる渦巻いて
わたしの背骨を洗っていく
(目が見えない
(声が聞こえない
魚が呼んでいる
砂を掘り返す
恐竜の骨たちがごぞごぞ歌いだす
(感じることはできるのに
(誰にも何も伝わらない
すっかり埃だらけになってしまって
肋骨の骨と骨のあいだに
あんなにぎっしりつまっていたはずの
葉っぱはもういない
ぽろぽろ乾いたまま
土がこぼれ落ちる
「私(わたし、と黒田は書いている)/自己」と「世界(非自己)」はどう識別できるか。黒田は「わたし」と「山」を識別しながら、「背骨」でつながってしまう。つまり「識別」を拒絶して、同一になってしまう。「背骨」でつながんてしまうと書いたが、これは「背骨」という「ことば」でつながってしまう、ということである。「わたし」と「山」を識別(区別)するのも「ことば」である。「ことば」はものとものを分離(識別)もすれば、混同(?)といっていいのか、「ごちゃまぜ」にもしてしまう。
「ごちゃまぜ」は「ごちゃまぜ」を呼び寄せる。「ごちゃまぜ」というのは「規則」がないことだから、何をしたっていい。山には葉っぱが落ちている。土がある。虫が眠っている、というのは、いまが冬だからだろうか。山がそうなら、同じ「背骨」をもっている黒田の体のなかに、同じものがあってもいい。
山の上に星があるし、月もある。月があれば、海では干潮満潮がある。黒田の上にも星と月があり、黒田の肉体も海の干満のような動きがあるだろう。「比喩」だから、意識がどんどん「越境」していく。「自己」と「非自己」の区別なんか、ほんとうになくなってしまう。区別していたら、めんどうくさくなる。
で、ここで、私は詩の講座なら、受講生にこう聞く。
恐竜の骨たちがごぞごぞ歌いだす
この「ごぞごぞ」って何? 自分のことばで言い直すと、どうなる? 言い直せる? むずかいしね。わかったようで、わからない。私はこの「わかったようで、わからない」は、自分では何もしない(そのまま放置しておく)。その一方で、他人には、「ほら、ちゃんといってみて。さっきわからないことばはない、と言ったでしょ?」と追及(?)したりするのである。
自己と非自己、それをつないだり、きりはなしたりする「ことば」。
それを、私は(私たちは)生きている。
(感じることはできるのに
(誰にも何も伝わらない
「ごそごそ」が何か、感じることはできる。でも、それを別のことばで言い直せない。「ごそごそ」を読んだとき感じたことを、黒田に説明することもできないし、その「ごそごそ」がほんとうに黒田の「ごそごそ」とつながっているかどうかもわからない。もしかしたら「ごそごそ」を言い直した瞬間に、つながりがなくなるかもしれない。「誰にも何も伝わらない」が起きてしまう。
「ことば」は、とっても危険でもある。だから、おもしろいのだけれど。
もうひとつ、「ごそごそ」よりも、もっとことばにしにくい「何か」が黒田の詩にはある。リズムである。ことばが、とても読みやすい。もっとも、リズムはかなり個体差があるから、どのリズムが好きかというはひとによってずいぶん違う。どう説明しても、説明にならない。それこそ「無意識」に「自己」と「非自己」を識別し、自分(自分のことばのリズム)をまもるために嫌いなリズムを拒絶してしまうことがある。免疫反応みたいなものかもしれない。これが実はとても大切と、私は感じている。
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