熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

京都議定書を糾弾するG.プリンスLSE教授

2008年03月10日 | 地球温暖化・環境問題
   経団連の主張に沿った問題提起で「京都議定書以後の国際枠組みとセクター別アプローチ」日米欧3極シンポジウムが開かれたので聴講した。
   出席者は、日米欧の学者、経済団体や国際機関の役員、経産省担当官、そして、産業界は、石油、電力、鉄鋼等からで、正に、経団連の従来からの見解であるセクター別地球温暖化政策グループの集合と言う感じではあったが、私自身には、非常に勉強になった一日であった。

   まず、非常に興味を持ったのは、冒頭のグウィン.プリンスLSE教授の「Recent trends in adressing the climate change issue 地球温暖化問題に関する最近の動向」と言う講演で、京都議定書を激しく糾弾しながらセクター別アプローチが如何に優れているかを語り、洞爺湖サミットでの日本の指導的地位の重要性を強調していたことである。
   プリンス教授は、LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス)の長周期事象研究に関するLSE Mackinderプログラムのディレクターだが、長い間アフリカに住みアフリカ人と草の根活動を共にして医療関係の事業に携るなど広い分野の文明史の専門家であり、オックスフォードのSteve Rayner氏と連名で、昨年10月に「ネイチャー誌」に「Time to ditch Kyoto」と言う論文を掲載して、京都議定書を糾弾している。

   Natureの論文や講演を加味して考えると、プリンス教授は、まず、京都議定書の地球温暖化対策は、過去のオゾン層破壊、酸性雨、核兵器に関する非常にシンプルな条約のように扱っていることで、
   地球温暖化が、全地球を巻き込まなければならない極めて複雑な問題であることを無視して、核兵器と同じように二酸化炭素を扱って、各国が検証した目的とタイムテーブルに従って削減できると考えて、グローバルベースで直接温暖化ガスの排出量をコントロールしようとしていることで、これは根本的に間違っていると言うのである。
   
   京都議定書の更なる欠陥は、トップダウンで上から排出権総量を決めて、各国間の排出権取引を認めていることで、早い話が、この先5~10年グローバルベースの炭素価格がどのようになるのか、安定するのかどうかさえ分からないし、今でも、欧州の排出権取引スキーム自体が多くの深刻な問題を抱えており、投機に走ってぼろ儲けする輩が出て来ることである。
   元々、トップダウンで国際条約によって、腐敗するのが分かりきっているカーボン市場を創設すること自体が間違いであって、今後、中国やインドの工業化の進展と石炭への傾斜が進めばどうなるのか。市場経済において、権力が強制的に創設するコモディティ市場が上手く機能する筈がないと言う強い危惧を持っている。
   それに、京都議定書による温暖化政策は政治的な意思が強すぎて、京都議定書さえ上手く行けば総て温暖化問題が解決すると言った風潮を助長したのにも問題があり、このような運動はボトムアップであるべきだとも言う。

   そのほか、京都議定書やEU主導の地球温暖化対策については、色々な点から問題点を論じているが、相対的には、政府の介入を出来るだけ避けるべきで、民間ベースのボトムアップで対処すべきだと言う。
   しかし、唯一つ、政府が主導権を発揮して対処すべきは、地球温暖化対策の為にイノベーションを喚起することが最も大切であり、、低炭素社会の為のアポロ計画に匹敵するR&D戦略を打ち上げるべきだと言っている。
   カーボン価格をドラスティックに引き下げる為にも、今後これまで以上にエネルギー・インテンシブな経済産業社会化が進んで行く以上、クリーンなエネルギー技術の開発が急務であり、R&Dの役割は遥かに重要となる。

   プリンス教授は、
   そのためにも、民間私企業のイノベーションによる根元からのカーボン排出削減努力が益々重要となり、セクター別アプローチが最も適した方策である。
   サプライ・サイド、すなわち、モノやサービスを生み出す主体からの自主的な削減努力による果敢な地球温暖化対策が最も有効にワークし、この方面で、最も対応と技術的な貢献を続けている日本がイニシャティブをとるべきで、洞爺湖サミットがこのための千載一遇の好機だと主張するのである。
   今や地球温暖化運動の主導権はヨーロッパから環太平洋群、カナダ、中国、日本、インド、アメリカに移ったとも言う。

   私自身としては、セクター別アプローチにも問題が山積みだと思うのだが、このプリンス教授の見解も含めて、今回は、私自身があまり知らなかった新しい視点からの地球温暖化問題の提起があって、朝10時から午後の6時前までの長丁場のシンポジウムであったが、非常に興味深く聴講した。
コメント (1)
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