熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ドル暴落が引き起こした世界的な影響

2008年03月24日 | 政治・経済・社会
   ドルの価値下落が、世界経済の現況を大きく変えてしまった。
   この100年間、並ぶものなき強いドルのお陰で、世界中を闊歩して繁栄を謳歌してきたアメリカ人が、資産の暴落のみならず、経済不況と言う泥沼の瀬戸際にまで追い詰められているのであるから、大変である。
   特に、対ユーロのドル下落幅は大きく、この7年間で40%減価したと言う。

   先日、このブログで書いたワシントン・ポストの次の「Dollar's Fall Is Felt Arouund The Globe」と言う記事だが、別の視点から、ドル暴落にグローバル経済への影響を展望していて面白い。

  
   ドル下落のマイナス面について、ワシントン・ポストは、色々な側面からレポートしている。
   ケニアの珈琲生産業者が、ドル建てで輸出しているので、現地通貨シリングが9%も上昇して労賃や原材料費が上がって大損害だという話。
   ラッパーのJay-Zが、最近のビデオで、マンハッタンの豪華なきらめきをバックにしたシーンで、100ドル札の代わりに500ユーロ札を映し出してドルを馬鹿にしたこと。
   クエートが、通貨のドル・ペッグを止めてしまい、他の産油国も追随しそうなこと。
   パリのユーロ・ディズニーに勤めるアメリカ人管理職の給与はドル建てなので、子供と夫婦3人で食べるピザが75ドルもするので音を上げていて、衣料や電気製品等みんなカリフォルニアで買って送ってきている話。

   しかし、この程度ならマシな方で、私が居た頃のロンドンでは、1ポンドが、240円くらいから弱い時には130円くらいにまで上下して、それに、ヨーロッパ大陸の業務も担当していたので、ギルダーやフランやマルクとの交換レートも心配しなくてはならず、とにかく、どうにか問題なく過ごせたが、それこそ、外国生活での交換レートの変更への対応は大変なのである。

    尤も、ドル下落は悪いことばかりではなく、アメリカ製品の競争力が強まって、キャタピラーの建設機械からボーイングのジャンボまで、輸出産業には追い風となっており、中国に行きそびれた国内製造業にもブルーライトが点灯し始めた。
   そして、ヨーロッパ企業は高いユーロに耐えかねて、例えば、エアバスなど、徐々に、組立工場など生産をアメリカにシフトさせている。コストの大半はユーロ払いなので、10セント、ユーロ高になると、10億ドルの損害だと言う。
   ロールス・ロイスも、リバプールからオハイオのマウント・ヴァーノンへ、事業の相当部分を移そうとしている。

   しかし、世界中の原材料価格は、大体、ドル建てで取引されているので、ユーロ高のお陰で、逆に、ヨーロッパ企業は有利になっている筈である。
   
   ところで、このドルの暴落によって深刻な影響を受けているのが、石油価格の暴騰でドル塗れのブーム経済の火中にあるペルシャ湾岸諸国、特に、ドバイである。
   減価したドルがどんどん流れ込んできた為に、インフレーションが激しく、巨大な建設ブームで入ってきた南アジアの労働者達の生活を直撃して、賃金が上がらないのに食料などの生活費が高騰し、貯金を使い果たして困窮し始めている。そのために、ストライキ等の労働争議が頻発し、世界最高の150階建てのBurj Dubaiビルの工事が頓挫していると言う。
   更に深刻なのは、ドルで稼いだ虎の子の金を本国に送金すれば、目も当てられないほど減価するし、実際に、インド人労働者は、国に帰ってルピアに換金したら14%も少なかったと嘆いている。

   面白いのは、イランのアフマニネジャード大統領が、「アメリカは、我々の石油を取り上げて、全く値打ちのない紙切れを我々に与えている。」と、先月リアドでのオペック総会の後で息巻いて、益々アメリカ嫌いになったとかならなかったとか、報道しているが、
   しこたま財務省証券やドル債権を溜め込んだ日本政府や日本の投資家は、ドル暴落で目減りした資産を前にしてどう思っているのであろうか。
   中国も大変なドル債権を溜め込んでいるが、転んでもタダで起きない国民だから、このドルで、アメリカの資産を買い込んでアメリカへの支配力と影響力を強化するなど有効に活用するであろうから、米国政府も安閑としておれないであろう。
   最近では、中国商人が、輸出代金を、ドルでなくユーロで支払ってくれと言っていると報じているが、さもありなんである。
   
   同じく、ドル紙幣で退蔵したり、秘密口座などに保持されている厖大な金額のアングラ・マネーの大半はドル建ての筈で、これらの損失は勿論闇に葬られてしまうにしても、
   ドル札を刷って好きなだけ世界中のものを買い漁ったアメリカ人が、いわば、ドルの暴落によって、減価したその分借金を踏み倒したと言うか、一種の徳政令を発したようなものだが、果たして、このことが、アメリカ人にとっては良いことだったのか悪いことだったのか。
   ドルが、最強の基軸通貨、ハード・カレンシーであったばっかりに、世界中にドル暴落の悲喜劇を引き起こしている。

   ドルが、再び、1ドル79円を突破して更に暴落して、ユーロと平行的な基軸通貨に後退した場合には、その方が、サブプライム問題でアメリカがリセッションになったよりも、世界経済に与える影響はもっと大きいような気がしている。
   グローバル経済のランド・スライド的なパラダイム・シフトである。
コメント
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