詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

谷川俊太郎『こころ』(16)

2013-08-11 23:59:59 | 谷川俊太郎「こころ」再読
谷川俊太郎『こころ』(16)(朝日新聞出版、2013年06月30日発行)

「アタマとココロ」はアタマとココロの対話である。ひとりの人間が自問するとき、それはアタマとココロの対話?
よくわからないが、

アタはコトバを繰り出すけれど
割り切るコトバにココロは不満

これは論理的なことば、論理にココロは不満を持つということ。論理はアタマに属している。ココロはアタマに不満を持っている。それをコトバで言わないといけないからややこしいんだね。アタマのコトバの方が論理的だから。
ココロは論理になっていないことを言いたいのだけれど、そんなコトバはない。

コトバで言えない気持ちに充電されて
突然ココロのヒューズが切れる!

で、そういうとき、ココロはどうする? 何をする。何かを殴ったり蹴ったり・・・ 

殴る拳と蹴飛ばす足に
アタマは頭を抱えてるだけ

あ、コトバのかわりに、肉体(手、足、頭)が出てきた。ココロは肉体をあばれさせる。肉体を振り回す。そうすると肉体はココロの代弁者?
でも、同じ肉体でも、頭は振り回せない。

アタマは頭を抱えてるだけ

は何だかおやじギャグみたいだけれど、うーん、わたしはつまずくなあ・・・ことばがあふれてくる。
そうか、手足は動かせても頭は振り回せない、というところから考えていけばいいのか。
でも、今回の感想は、そういうところへ踏み込まない、批評は書かない、「意味」は書かないと決めたのだ。
おやじギャグへ引き返して、
アタマが頭を抱えるのなら、ココロは何を抱えればいいのだろう、と私はつっこみたくなったのだ。
だれに?
あ、谷川にじゃないのだ。
ことばに対してつっこみたくなったのだ。

もしかすると、アタマが頭を抱えるようには、ココロは心を抱え込まない(抱え込めない)ということをことばは知っているかもしれない。抱え込むという動詞とは違うことばがあって、それがかってに動いているのかも。
で、その動詞って何?
ふいに私は「爆発」というととばを思いつく。爆発させる。
あ、それは谷川のことばでいえば「ヒューズが切れる」。
いやだなあ、谷川は私のつっこみなんかはとっくの昔に知っていて、先回りして、ことばにしてしまっている。書いてしまっている。私は何かを感じたり考えたりしたつもりになってしまうけれど、それは間違いだね。



すてきなひとりぼっち
谷川 俊太郎
童話屋
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マーク・フォースター監督「ワールド・ウォー Z」(★★★★)

2013-08-11 21:47:14 | 映画

監督 マーク・フォースター 出演 ブラッド・ピット

 最近おもしろい映画がないので採点が甘いかも。
 ブラピがひとりで世界を救う話だが、ほんとうにひとりしか出てこない。なかなか人件費の安上がりな映画である。最近、この手が多いが。
 で、何に金をかけているのかというとCGに金をかけているのだが、この映画ではそれがなかなか効果的。イスラエルの城壁をゾンビが攀じ登るシーンには感心した。こんな攀じ登り方は生きている人間にはできない。人間ピラミッドを壁の高さまで築いていたら、下の人間は重さで死んでしまう。ほう。さらに、せっかく攀じ登った(積み上げた)人間ピラミッドを惜しげもなく崩してしまう。いいなあ。このスピード。ゾンビなんていうとおどろおどろしい感じがするが、どっちかというと無機質で乾いている。かみつかれて、吸血鬼みたいに感染するのに血が飛び散らないのが、なかなかのアイデアだね。
 この無機質な感じが、ワクチンの発見につながる論理の見せ方と非常に合致している。論理はどろどろしない。整然としている。ウィルスはウィルスで生き残ることを望んでいる。生き残るために人間の肉体を借りる。もし人間の肉体が死んでしまうウィルスに侵されていたら、その人間をゾンビが襲うことはない。--ね、なかなか論理的だね。こういう論理に血まみれの映像は似合わない。
 美男子は(ブラピは私の概念では美男子ではないのだが)、本来血が似合う。血によって美形がいっそう際立つものだが、美男子といわれるブラピにそんなに血を浴びせないのも、なかなかの工夫である。
 さらに。
 論理(知性)というものは、かなり変なもの、滑稽なものであるが、その滑稽さがストーリーに巧みに組み込まれているところも私はとても気に入った。
 たとえば。北朝鮮だけがゾンビの被害から免れている。なぜか。現象に気づいた北朝鮮が国民の歯を全部ぬいてしまったからである。歯がないとかみつくことはできない。だからゾンビ感染が起きない。国民の肉体を肉体とも思わない絶対君主主義が笑い飛ばされてる。
 さらに。イスラエル。アラブの主張を押し切ってつくられた人工の「国土」。それが城壁で国民を守っているというのは、北朝鮮に似た感じではあるが、ちょっと違うのは、他の国の人々を受け入れている点。排他主義ではない--とむりやり主張している。ね、皮肉がおかしいでしょ。
 そして。
 いやあ、笑ってしまった。まあ、ふつうなら笑わないのかもしれないのだけれど(笑ったのは私ひとりだったみたいだけれど)、ブラピが韓国から脱出するときに妻から携帯電話。ベルの音。その音にゾンビが気づく。「携帯の電源を切れ」だって。まるで、ほら、映画の前のマナーの宣伝みたいでしょ。映画のクライマックスで携帯の音が響くといやでしょ? その皮肉みたい。
 細部が変に論理的にできている。飛行機のなかでゾンビが暴れ出し、飛行機を爆破させて空中にゾンビをほうりだし、主役のブラピとイスラエルの女兵士だけが助かるというご都合主義もあいきょうのようにして同居させているのも、論理に傾きすぎるのを防いでいるね。
 脚本と監督の手腕に★★★★★。でも、やっぱりブラピひとりが世界を救うというのは、あまりにもむちゃくちゃなので、マイナス★1個。論理の基本はすぐに死んでしまう若いウィルス学者のことばがヒントとなっているのだけれど、せめて、この論理をいっしょに行動しつづけるだれかに言わせないとね。
                     (2013年08月11日、ソラリアシネマ7)

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デビッド・フランケル監督「31年目の夫婦げんか」(★)

2013-08-11 12:45:35 | 映画
監督 デビッド・フランケル 出演 メリル・ストリープ、トミー・リー・ジョーンズ、スティーブ・カレル

 メリル・ストリープ、トミー・リー・ジョーンズ、スティーブ・カレルの共演。それだけでおもしろそうなのだが、これが完全な空振り。
 原因は簡単。メリル・ストリープがオーバーアクション。喜劇だからオーバーアクションでもかまわないのだが、こういう芝居には守らなければならない「基本」というものがある。感情の出てこない演技をていねいに描くこと。
 この映画に則していうと、メリル・ストリープが朝食をつくる、後片付けをする、ブティックで仕事をする--こういうシーン。メリル・ストリープはベーコンエッグをつくる。そこへトミー・リー・ジョーンズがあらわれる。トミー・リー・ジョーンズは決まりきった順序で椅子に鞄を置き、上着をかけ、それから椅子に座る。すると、まるで流れ作業のようにメリル・ストリープがベーコンエッグを出す。ここまでは、いい。
 そのあと。
 メリル・ストリープが皿をかたづけ、洗い物をする。このシーン。最後の水切りのシーンだけが映像化される。スクリーンに映し出される。つまり。メリル・ストリープは実際には手を濡らしていない。洗剤を付けて皿を洗う、という作業をせずに、皿の水切りだけを演じている。一度だけならまだごまかせるが、このシーンは2度あり、2度とも水切りだけ。これではメリル・ストリープの「肉体」のなかに日常がしみこまない。日常がしみこまないから、それから先の芝居が「日常」ではなくなる。絵空事の芝居。日常的なことなのに、ぜんぜん日常がにおってこない。
 セックステクニックを磨くために本屋で本を探したり、スーパーで買い物をしたりというシーンも、「日常」から逸脱してしまってオーバーアクションになってしまっているので、その瞬間のドタバタはおかしいといえばおかしいけれど、じっくりとつたわってこない。単なる「笑い」のためのアクションに落ちている。これは演技ではなく、手抜き。コミックをなぞっているだけ。そこにメリル・ストリープが出てきていない。
 トミー・リー・ジョーンズは、最初にカウンセラーを受けるシーンで、パンツの折り目を指ではさんで深く刻むシーンが傑作だし、朝食の値段にいちいちケチをつけたりするシーンなど、「日常」をぐいとおさえて演技しているだけに、メリル・ストリープの演技がよけいにわざとらしく感じられる。
 スティーブ・カレルは彼自身が笑いの対象にならないと実力が発揮できないのだろうか。変にまともで味気ない。ミスキャストだね。
 映画ではなく、舞台(芝居)なら、もっと喜劇になったかもしれない。
                     (2013年08月04日、ソラリアシネマ9)
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