詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

森山恵「指切り」、青山みゆき「娘」、暁方ミセイ「クラッシュド・アイス陽気」

2015-01-20 10:07:34 | 現代詩年鑑2015(現代詩手帖12月号)を読む
森山恵「指切り」、青山みゆき「娘」、暁方ミセイ「クラッシュド・アイス陽気」(「現代詩手帖」2014年12月号)

 森山恵「指切り」(初出『岬ミサ曲』2014年09月)は、何を書いているのだろう。「指切り」は「約束」を思い起こさせるが、よくわからない。よくわからないけれど、

つる草。灌木に絡むつる草。
仙人草の小さな仙女が。蜜をすくう。くすくす笑う。マルハナバチが蜜を。
吸う。

 音の交錯が楽しい。「すくう」「くすくす」「吸う(すう)」。こういう「音」そのものの交錯に隠れて、「意味」も交錯する。ことばが形を変えて反復する。「つる草」は2行目で「仙人草」と言いかえられる。あいまいだったものが具体的になる。「仙女」が「マルハナバチ」と言いかえられる。音そのものの交錯と、イメージの交錯が一体になって動いている。

そう。仙人草。小さな莟は細く裂けて囁く。
くすくす笑う。歌う。
指に絡み付いて。わたし。囁く。
笑う。人間たち 分かってないね。なんにも。なあんにも。

 「仙人草」はさらに「小さな莟は細く裂けて囁く」と言いなおされる。白い花びら、その中心に細く咲かれたような糸のようなもの。それは何事かを囁いているように見えないことはない。「くすくす笑」っているのか。あるいは「歌」っているか。
 わからないけれど、だんだん花が見えてくる。
 見えてくると同時に、その花と呼応するように「わたし」が「囁く。」いや、この「わたし」は森山ではなく、「仙人草」そのもの、そして「マルハナバチ」そのもの。そこにある「風景」そのもの。
 ここから森山は、「自然」の奥深くへ分け入っていく。

水源地の仙人水。
水のまぶたで。撫でる。つる草は死の国から伸びて。
あたたかい。虹色の土を。
黄泉の国にも花。花。花を花を咲かせる。人のからだに根を下ろして。ひそやかに。
わたし。秘密を隠しもって。

 これは、仙人草を扁桃腺の治療に使う民間療法のことを指しているのだろうか。扁桃腺が腫れたとき、腕に仙人草を貼ると扁桃腺の腫れがひく、ということを聞いたことがあるような、ないような。(違う草かもしれないが。)「水源地」「死の国」「虹色の土」のつらなり、「人のからだに根を下ろして」ということばのつらなりから、なんとなく、そういうものが浮かんでくる。
 野草の薬効などに詳しい人には、森山の描いているイメージがもっとはっきり見えるだろうが、私には、よくわからない。けれど、ことばを何度も言い直し、自分の言いたいことに近づいていく方法、そのとき音を大切にしているということが、この詩を魅力的にしている。
 (完全な「誤読」かもしれないけれど、私は「誤読」を気にしない。)



 青山みゆき「娘」(初出『赤く満ちた月』2014年10月)。この詩もよくわからない。娘が反抗期。母親(青山)に「お母さんなんか大嫌い、あんたなんかお母さんじゃない」と言ったのだろうか。

       (部屋の隅で
            からだを折りまげ
          あなたは
        小さくなってころがっている)

 そういう様子をみて、

わたしは何をなくしたのだろうか

 と思っている。反省している。しかし、そうだとすると、最終行、

あなたの心臓はまだ動いている

 これは何だろう。なぜ、「心臓」が出てくるのか。不吉な感じがしてしまう。
 森山の詩に「死の国」ということばが出てきたけれど、それは不吉ではなかった。この詩には「心臓」が出てくるのに不吉。
 ことばは不思議。
 何とつながって動いているのだろうか。



 暁方ミセイ「クラッシュド・アイス陽気」(初出『ブルーサンダー』2014年10月)。詩集の感想で「宮沢賢治を思い起こさせる」と書いたが、この詩も賢治を連想させる。

こんなに滅多な光の渦なのだから
こちらは分離作用の澱のほうで
よく澄んだ藍色のこの上空に
さらに清澄な上澄みの液があるだろう

 「こんなに……なのだから」「こちらは……のほうで」という「対」のつくり方、「分離作用」というような硬質なことば。「清澄(透明)」なもの、結晶のようなものへの意識の動き。
 賢治が暁方のなかで生きている、動いている感じが、うれしい。賢治の模倣ではなく、賢治が生きていると感じるのは、暁方が賢治を完全に自分自身のものにしてしまっているからだろう。賢治が生きているではなく、賢治を生きている、と言いなおした方がいいのかもしれない。

岬ミサ曲
森山 恵
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