詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「慰安婦」と「徴用工」の問題

2019-08-09 14:17:47 | 自民党憲法改正草案を読む
「慰安婦」と「徴用工」の問題

             自民党憲法改正草案を読む/番外279(情報の読み方)

いま日韓関係がこじれている。そして、そのとき必ず問題になるのが「慰安婦」と「徴用工」の問題だ。
 ある「グループ」で何人かの人と対話したが、韓国を嫌悪している人の論理はとてもおかしい。
「慰安婦」の問題についてだけ書くと、「慰安婦」は存在しなかったと主張する人と、「慰安婦」は存在したという人の2グループにわかれる。日本政府が「慰安婦」がいたということを認めているのだから、「慰安婦」はいなかったということを出発点にしていては絶対に日韓の対立は和解しない。だから、「慰安婦は存在しなかった」というひとの意見については触れないことにする。
 「慰安婦は存在した」と認めた上で、日本側に非はないと主張するひとは2点強調する。①慰安婦は強制的に組織されたものではない、自発的(自分から応募した)行為である②慰安婦には代価(給料)が支払われていた。だから「慰安婦」は人権侵害ではない。
 これは「人権」に対する考え方が間違っている。どういう状況であれ、女性を性の対象としてだけからとらえることが「人権侵害」である。望んでいない性交を強要することは「人権侵害」である。
 その指摘した上で考えたいことがある。
 ①自分から応募したから「人権侵害」にあたらないというのは、とてもあいまいな部分を含んでいる。応募した女性たちが「慰安婦」の実体を克明に知っていて、そのうえで応募したのか。実体を知らずに応募したのだとしたら、それは応募したというよりもだまされたのだ。「強制」「詐欺」を隠すために「応募」が喧伝されている可能性がある。
 ②の代価(賃金)が支払われているから「人権侵害」ではない、というのも奇妙な論理である。代価がいくらかということは「人権侵害」とは関係がない。強制的な性交(強姦)なら、それは「人権侵害」である。
 こういうことは「慰安婦」ではなく、ほかの「労働」に置き換えて考えるとわかりやすくなる。
 ある企業が社員を募集する。「応募要項」に「月給20万円、週休2日」と書いてある。しかし実際に働き始めると、仕事はノルマ制だったり、残業が1日8時間もある。急に欠員が生じたという理由で休日出勤もある。さらに過酷な「叱責」もある。人間扱いしない。いわゆる「ブラック企業」だ。こういうとき、その企業は「人権侵害」をしていることにならないか。
 ①応募したか②賃金が支払われているか、だけが「人権侵害」の基準ではない。実際の「労働」がどういうものか。「労働」において「人権」が配慮されているかが問題である。
 「慰安婦」という存在自体が女性の「人権」を無視している。「人権侵害」である。そこから議論をはじめないことには、だれが相手であっても説得できないだろう。

 こういうことに対して、ある人は、とても興味深い論を展開した。
③貧困家庭で育ち教育のない女性が金を稼ぐには性を売るしかない。
④性を売って女性が金を稼ぐのは80年前の価値観である。だから「人権侵害」ではない。
 「80年前の価値観(過去の価値観)」からみて問題がなければ、「慰安婦」に問題はない、というのである。(「だれの価値観ですか」と質問したが、そのひとは答えなかった。)
 私はこういう「論理」を聞くのは初めてだったので、たいへん驚いた。同時に「あ、そうか、ひとはこんなふうにして責任転嫁をするのか」とも思った。
 「過去」のある出来事は、その当時の「価値観」に基づいている。(それはそのとおりだが。)だから、その出来事に対して、いまの「価値観」をあてはめて何か言うことは間違っている、とそのひとは言う。
 これは一見「まとも」に見えるけれど、論理が逆転している。
 いまから見ると、それは許せないことだけれど、その時代の価値観では限界があった(仕方がなかった)とは言えても、当時の「価値観」からすればそれは正しいことであり、それを現在の価値観で批判してはいけないとはいえない。
 たとえば。
⑤ヒトラーはユダヤ人を虐殺した。ヒトラーの価値観によればユダヤ人はドイツ人に比べて有害な存在であった。だから虐殺してもかまわない。(当時のヒトラーの価値観。ヒトラーに従ったドイツ兵の価値観。)
 「現在の価値観」からみると、どうなるか。「人種」はすべて平等である。ヒトラーの価値観と行為は間違っている。
②ハンセン病は以前は感染力が強く、隔離しないといけない病気と判断されていた。そして隔離政策が取られた。そういう「価値観(認識)」の時代があった。
 しかし、それが間違っていることがわかった。だから、国は謝罪し、差別されてきた患者だけではなく、差別されてきた家族を含めて、賠償することになった。これが「現在の価値観」というものではないだろうか。
③南アフリカではかつては「人種隔離政策」がとられてきた。白人は優秀であり、アフリカ系国民は劣っている、というのがその政策を取ってきた南アフリカの「価値観」である。
 しかし、この政策は間違いであった。だから、いまはそれを改めている。人間を肌の色では差別しない。これが「現在の価値観」というものではないだろうか。
 何が言いたいかというと。
 「歴史」(事実)には「人権」の視点から見ると間違ったことがたくさんある。それを「〇年前の価値観」を掲げて、「〇年前は正しいことだった」といっても意味はない。
 「現在の価値観」からみて間違っているなら、その「過去」を「間違った過去だった」と認識することが「現在」求められていること。「間違い」を「間違い」と認識し、それを繰り返さないと決意することでしか「未来」はつくれない。「間違いの過去」を「過去において正しかった」ととらえるとき、時代は「逆行」する。
 女性を「慰安婦」としてあつかうこと、それが「現在の価値観」からみて「人権侵害」にあたるなら、かつて日本軍は朝鮮半島において(その他の国においても)、女性の人権を侵害したのだ。そして人権侵害された女性は、そのことによって苦しんだ。だから「賠償請求」をする。「歴史」を語り継ぐために「少女像」をつくる。「人権侵害」に「時効」はない。人間は人権を踏みにじられたことを忘れることはできない。
 そこから考えよう。
 なぜ、朝鮮半島で日本軍がおこなってきた「人権侵害」だけを、いま、安倍や韓国を嫌っているひとは「除外」しようとするのか。新たな「人権侵害」を企んでいるのではないのか。
 つまり、「戦争」だ。
 「金はすでに支払った。すべて片付いたはずだ。まだ謝罪を求める、追加賠償を求めるのは許せない。これ以上言うなら戦争をするぞ」
 経済優先(金ですべてを解決する)という安倍なら、そう言いかねない。
 それを「先取り」するように、あるグループでは、ひたすら日韓の対立をあおっている。その人たちは実際に「戦争」を想像することもないのだろう。
 「戦争」が起きてしまえば韓国の人間の「人権」だけではなく、日本にいる日本人の「人権」も無視されるのだ。戦場に駆り出され、「御霊」になることを強要されるのだ。
 そこまで考えてみる必要がある。最近の安倍の韓国に対する姿勢、それに同調する反韓の文章を読むと、そう思う。





 
#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(82)

2019-08-09 14:17:47 | 嵯峨信之/動詞
* (沈黙ということがなければ)

どこでぼくは生きていられたろう

 とつづくこの詩は、こう閉じられる。

そこにある小屋で眠ろう
石ころが話しかけてくる小屋の中に

 石ころはどんなことばを話しかけてくるのか。「沈黙」が話しかけてくるのだ。
 私は小屋のなかを想像する。小屋に床はあるか。土が(大地が)むき出しか。たぶん床はない。石ころはそのまま大地(地面)につながっている。直接つながっている。この「直接」という感じが、石ころの「沈黙」と「ぼく」をつなぐ。
 「沈黙」ということばさえも存在しない直接性、その「こと」を、ことばから拒まれている「ぼく」が生きる。










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