年金75歳の罠
自民党憲法改正草案を読む/番外280(情報の読み方)
2019年08月12日の読売新聞(西部版・14版)の1面。
年金開始 75歳も可能/厚労省検討 月受給額1・8倍に/原則65歳は維持
という見出し。「75歳」はすでに何度か言われている。きょうのニュースと「月受給額1・8倍」だ。これだけ読むと、「あ、1・8倍か、いいなあ」と思う。それなら安心かもしれない。
しかし、これが「罠」。
65歳支給開始は原則どおり。65歳受給買開始の月受給額を1とすると、60歳開始なら0・7倍、70歳なら1・42倍、75歳なら1・8倍。と説明したあとに、こんな文章がある。
減額と増額の割合は、平均余命まで生きた場合に受け取る総額が同じ程度になるように設定されている。
言いなおすと、何歳から受給しようと年金の総額はかわらない。
で、思い出そう。
65歳から受給した場合、年金だけでは暮らせない。死ぬまでに2000万円不足する、という試算が参院選前に話題になった。この2000万円が、今回の方針に隠されていないか。
あのときの試算はうろ覚えだが、月支給21万円で5万円の赤字というものだった。その月21万円を土台にこんな計算が成り立つ。
21万円×12= 252万円(年間)
252万円×10=2520万円(受給開始を遅らせた10年間の収入)
不足するといっていた2000万円を越え、おつりというか、 520万円も余裕が出る。これなら安心、と考えてしまうかもしれない。
たぶん、そう計算するだろうと見込んで、こういう試算になっているのだろう。
でも、その 520万円をもう一度計算してみないといけない。85歳まで生きるとして10年間。
520 万円÷10=52万円
これを毎月に換算すると
52万円÷12= 4万3000円。
5万円(60歳開始の赤字)-4万3000円=7000円
75歳開始でも月に7000円の赤字になる。
さらにもっと問題なのは、65歳から75歳までのあいだの「給料」。「老後2000万円」試算のとき、「月支給21万円で5万円の赤字」だった。つまり、毎月「26万円」稼がないと、月々赤字になる。65歳以上のひとで月に「26万円」稼げるひとはどれくらいいる? そんな給料をはらってくれる仕事場がどこにある?
私は今月からパート(週3日、月14日以内)の仕事をはじめたが計算すると「26万円」の半分も稼げない。フルタイムで働いていた時代も26万円にはとどかなかったのだから、これは当然である。
言い換えると。
今度の「厚労省案」が実行されるには、前提として、65歳-75歳の期間、月給26万円以上の労働がないと、老後の生活が成り立たないということだ。65歳時点での「貯金(資産)」を切り崩すしかない。貯金を減らしながら10年間働き続けるというのはとてもつらくないか? だいたい65歳-75歳に、どういう「仕事」があるのか。65歳までつづけてきた仕事がそのままつづけられるわけではないだろう。
年金をどうするか以前に、「仕事」をどうするか、という方針が示されないといけない。
「月支給額1・8倍」という「見栄えのいい数字」だけを前面に出して、問題を隠してはいけない。厚労省の資料をそのままコピーするのではなく、その資料に問題点がないかどうか、それを点検しないとニュースにならないだろう。厚労省の「詐欺」に加担するような記事は、読者をあまりにもばかにしているし、年金問題、高齢者の就労問題を隠すことにしかならない。
#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位
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