監督 前田哲 出演 妻夫木聡、ブタのP子、6年2組、原田美枝子
「食べることを前提にブタを飼う」という、実際に小学校で行われた授業を映画化したもの。びっくりしました。子豚の飼育というよりも、子豚と遊ぶ子供たちの楽しい姿、そして子供になついている子豚の様子が愛らしくて、動物好きの私には、前半はとにかく楽しい映画だった。
クライマックスは、あたりまえのことながら、育ててきた子豚に情が移り(情、というかんたんなものではないかもしれないが)、食べることに反対する児童と、約束だから食べないといけないという児童にわかれての、右往左往。
このシーンが、たいへんすばらしい。
子供たちの議論は、もう感情が剥き出し。論理的に相手を説得するというようなことをほんとうは試みているのだけれど、どうしても感情があふれてきてしまう。そして、相手を説得するというよりも、自分の感情に手が負えなくなる。どうしていいかわからない。結論が出せない。みんな、泣きだしてしまう。こんなに真剣に自分の思いを語っているに、どうして相手はわかってくれない? なぜ、わかってもらえない? わかってもらえない、説得できないとわかると、いっそうつらさがこみあげてくる。わかってほしい。この悲しみをわかってほしい、と26人の児童がそれぞれに真剣に語る。
「豚肉は食べるのにP子だけ食べないというのは差別だ」「3年生に飼育を引き継ぐなんて、問題の先送りだ」というような、子供が子供の頭で考えたせいいっぱいのことばが次々に出てくる。それはある意味では、「大人」の会話から聞きかじったことばを利用していることなのかもしれないけれど、そういう「背伸び」を含めて、ぎりぎりまでことばを探して涙を流す。この情熱、真剣さが、ほんとうにすばらしい。
子供の真剣さに、ついつい、もらい泣きしてしまう。私はいつでも、わけのわからない感情に揺り動かされて、その感情にのみこまれていく人間を見ると、涙が出てしまう。この真剣さ--それが、私にあるだろうか。ああ、もう一度、そういう真剣さにどっぷりと浸って、自分だけしか見えなくなるって、いいだろうなあ。
この映画のテーマにふれることば、「人間は他の生きている命を食べている。それは他の命を引き継ぐことだ」を精肉店の子供が語る。それは、この映画のテーマであり、若い教師(妻夫木聡)がつたえたかった「真実」なのだが、そのせりふも、しかし子供たちの激情、ありまあまる感情のあらしのなかで、ひとつの意見になっていく。若い教師が、その意見にはっとする表情を見せるが、それをひきずらない。そこに焦点をあててしまわない。その方向に議論をもっていかない。
この処理の仕方も、とてもいい。
どこにも答えなんかない。「人間は他の生きている命を食べている。それは他の命を引き継ぐことだ」は、ある意味では答えに見える。そういうことばを、たとえば国語のテストなら「正解」としてしまうかもしれないけれど、このえいがではそんなことをしない。わからないことがある。わからないことを考え、そしてその考えをわからなくても実行するそういう瞬間があるということだけをつたえる。どんな答えも出さない。
答えのない映画は、とても美しい。
「食べることを前提にブタを飼う」という、実際に小学校で行われた授業を映画化したもの。びっくりしました。子豚の飼育というよりも、子豚と遊ぶ子供たちの楽しい姿、そして子供になついている子豚の様子が愛らしくて、動物好きの私には、前半はとにかく楽しい映画だった。
クライマックスは、あたりまえのことながら、育ててきた子豚に情が移り(情、というかんたんなものではないかもしれないが)、食べることに反対する児童と、約束だから食べないといけないという児童にわかれての、右往左往。
このシーンが、たいへんすばらしい。
子供たちの議論は、もう感情が剥き出し。論理的に相手を説得するというようなことをほんとうは試みているのだけれど、どうしても感情があふれてきてしまう。そして、相手を説得するというよりも、自分の感情に手が負えなくなる。どうしていいかわからない。結論が出せない。みんな、泣きだしてしまう。こんなに真剣に自分の思いを語っているに、どうして相手はわかってくれない? なぜ、わかってもらえない? わかってもらえない、説得できないとわかると、いっそうつらさがこみあげてくる。わかってほしい。この悲しみをわかってほしい、と26人の児童がそれぞれに真剣に語る。
「豚肉は食べるのにP子だけ食べないというのは差別だ」「3年生に飼育を引き継ぐなんて、問題の先送りだ」というような、子供が子供の頭で考えたせいいっぱいのことばが次々に出てくる。それはある意味では、「大人」の会話から聞きかじったことばを利用していることなのかもしれないけれど、そういう「背伸び」を含めて、ぎりぎりまでことばを探して涙を流す。この情熱、真剣さが、ほんとうにすばらしい。
子供の真剣さに、ついつい、もらい泣きしてしまう。私はいつでも、わけのわからない感情に揺り動かされて、その感情にのみこまれていく人間を見ると、涙が出てしまう。この真剣さ--それが、私にあるだろうか。ああ、もう一度、そういう真剣さにどっぷりと浸って、自分だけしか見えなくなるって、いいだろうなあ。
この映画のテーマにふれることば、「人間は他の生きている命を食べている。それは他の命を引き継ぐことだ」を精肉店の子供が語る。それは、この映画のテーマであり、若い教師(妻夫木聡)がつたえたかった「真実」なのだが、そのせりふも、しかし子供たちの激情、ありまあまる感情のあらしのなかで、ひとつの意見になっていく。若い教師が、その意見にはっとする表情を見せるが、それをひきずらない。そこに焦点をあててしまわない。その方向に議論をもっていかない。
この処理の仕方も、とてもいい。
どこにも答えなんかない。「人間は他の生きている命を食べている。それは他の命を引き継ぐことだ」は、ある意味では答えに見える。そういうことばを、たとえば国語のテストなら「正解」としてしまうかもしれないけれど、このえいがではそんなことをしない。わからないことがある。わからないことを考え、そしてその考えをわからなくても実行するそういう瞬間があるということだけをつたえる。どんな答えも出さない。
答えのない映画は、とても美しい。
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