監督 マーク・フォースター 出演 ダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ、マチュー・アマルリック
007がダニエル・クレイグにかわってから、映画が突然おもしろくなった。映画が原点に返った。つまり、活動写真に。ともかく動く。カーチェイスや水上でのボートチェイスといった「乗り物」の動きもあるが、基本は人間である。ダニエル・クレイグはひたすら走る。銃もつかうが、肉体で格闘する。それがとても小気味いい。
冒頭の、教会内部での格闘は、補修の足場の崩れという要素もからんで、肉体と物体が激しく動く。そのひとつひとつの動きがリズミカルで、ぐいと画面に引きずり込まれる。快調である。
崩れてくる足場を見ながら(足場そのものとダニエル・クレイグの顔、視線の交錯)、その崩れる足場をどう利用して戦うか--というようなことは、現実にはできない判断である。相手の動きも見ながら、瞬時のうちにかぎられた行動を的確に判断し、その判断にあわせて肉体を動かす--そういうふうに動く肉体を見る、といううことは現実にはできない。しかし、こういう、現実には見ることのできない映像があると、映画は映画らしくなる。映画は現実には体験できないことを体験するための「装置」なのだから。
こういうシーンが、スムーズに流れると、とても楽しい。こういう映画が見たかった、となつかしい気持ちにさせられる。
こうしたシーンはスタントマンが演じているのだろうけれど、ダニエル・クレイグがやったとしても不思議ではないくらいに、ダニエル・クレイグ自身の肉体が鍛えられているのもいい。歩くシーン、走るシーンも動きがシャープだ。そういうシャープな動きがあるから、現実にはありえない格闘シーンも生きてくる。人間離れしたアクションが美しく見える。
ファッションもとてもいい。人間の動きを美しく見せる服を着ている。オペラ劇場で着ているスーツはとてもいい。激しく動いてもぴったり肉体にそって動く。こういう服を着るには、シャープに動ける肉体が必要なのだろうが、そういうことを忘れて、お、かっこいい服だと納得させる。
一方で、現代のハイテク技術もさりげなく見せる。そして、そこにも肉体がからんでいる。諜報機関本部にあるコンピューターの画像処理、その操作のおもしろさ。スピルバーグが「マイノリティー・リポート」でやってみせたシーン(唯一、映画を見たあとトム・クルーズの動きを真似したくなるシーン)だが、スクリーンの映像を手で移動させる。トランプのカートのように、手の動きにあわせて映像が滑る。移動する。その滑らかさ。トランプのカード捌きの美しさをつくりだしているのが人間の手であるように、ここでもタッチパネルを操作する肉体が美しいのである。肉体派ではない役者も、そんなふうにして肉体の動きの美しさを見せる。それを感じさせる演出である。
ダニエル・クレイグは顔の美しさではピアース・ブロスナンに劣るだろうけれど、肉体の動きの美しさで、はるかに上回る。この映画は、ダニエル・クレイグの肉体の動き、動き肉体があってはじめて成立する映画である。肉体の動きの美しさを見る映画である。ジュディ・デンチでさえ、立ち姿のすっくとした美しさをみせつけている。
*
前作もダニエル・クレイグの肉体の動きがとてもいい。
007がダニエル・クレイグにかわってから、映画が突然おもしろくなった。映画が原点に返った。つまり、活動写真に。ともかく動く。カーチェイスや水上でのボートチェイスといった「乗り物」の動きもあるが、基本は人間である。ダニエル・クレイグはひたすら走る。銃もつかうが、肉体で格闘する。それがとても小気味いい。
冒頭の、教会内部での格闘は、補修の足場の崩れという要素もからんで、肉体と物体が激しく動く。そのひとつひとつの動きがリズミカルで、ぐいと画面に引きずり込まれる。快調である。
崩れてくる足場を見ながら(足場そのものとダニエル・クレイグの顔、視線の交錯)、その崩れる足場をどう利用して戦うか--というようなことは、現実にはできない判断である。相手の動きも見ながら、瞬時のうちにかぎられた行動を的確に判断し、その判断にあわせて肉体を動かす--そういうふうに動く肉体を見る、といううことは現実にはできない。しかし、こういう、現実には見ることのできない映像があると、映画は映画らしくなる。映画は現実には体験できないことを体験するための「装置」なのだから。
こういうシーンが、スムーズに流れると、とても楽しい。こういう映画が見たかった、となつかしい気持ちにさせられる。
こうしたシーンはスタントマンが演じているのだろうけれど、ダニエル・クレイグがやったとしても不思議ではないくらいに、ダニエル・クレイグ自身の肉体が鍛えられているのもいい。歩くシーン、走るシーンも動きがシャープだ。そういうシャープな動きがあるから、現実にはありえない格闘シーンも生きてくる。人間離れしたアクションが美しく見える。
ファッションもとてもいい。人間の動きを美しく見せる服を着ている。オペラ劇場で着ているスーツはとてもいい。激しく動いてもぴったり肉体にそって動く。こういう服を着るには、シャープに動ける肉体が必要なのだろうが、そういうことを忘れて、お、かっこいい服だと納得させる。
一方で、現代のハイテク技術もさりげなく見せる。そして、そこにも肉体がからんでいる。諜報機関本部にあるコンピューターの画像処理、その操作のおもしろさ。スピルバーグが「マイノリティー・リポート」でやってみせたシーン(唯一、映画を見たあとトム・クルーズの動きを真似したくなるシーン)だが、スクリーンの映像を手で移動させる。トランプのカートのように、手の動きにあわせて映像が滑る。移動する。その滑らかさ。トランプのカード捌きの美しさをつくりだしているのが人間の手であるように、ここでもタッチパネルを操作する肉体が美しいのである。肉体派ではない役者も、そんなふうにして肉体の動きの美しさを見せる。それを感じさせる演出である。
ダニエル・クレイグは顔の美しさではピアース・ブロスナンに劣るだろうけれど、肉体の動きの美しさで、はるかに上回る。この映画は、ダニエル・クレイグの肉体の動き、動き肉体があってはじめて成立する映画である。肉体の動きの美しさを見る映画である。ジュディ・デンチでさえ、立ち姿のすっくとした美しさをみせつけている。
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前作もダニエル・クレイグの肉体の動きがとてもいい。
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