詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

フィリップ・ル・ゲ監督「屋根裏部屋のマリアたち」(★★★)

2012-08-25 21:42:29 | 映画
監督 フィリップ・ル・ゲ 出演 ファブリス・ルキーニ、サンドリーヌ・キベルラン、ナタリア・ベルベケ

 1960年代のパリ。スペインから女性たちが出稼ぎにきている。仕事はメイドというのか、家政婦というのか……。ブルジョアの家庭で家事をする。彼女たちは屋根裏の小さな部屋に住んでいる。そんな彼女たちと、雇い主の男との関係を描いている。貧しく、苦しいのだけれど、エネルギーにあふれるスペインの女性たち。一方、男の方は金はあるのだけれど、なんというか「気力」がない。毎日、きちんと仕事をしているのだけれどね。
 その男が、妻に浮気を疑われて家を追い出され、女性たちと同じ屋根裏に住み、いっそう仲よくなるという、まあ、メルヘン映画だね。
 なんということはないのだけれど、気に入ったのが洗濯物を干すシーン。ロープに洗濯物を吊るし、そのロープを高くあげる。マリアが男に手伝って、と頼む。男はロープをひっぱる。力の具合が調節できなくて、一気にロープがひきあげられる。そのとき洗濯物がマリアの顔に触れる。水がはじけ飛ぶ。それをマリアが笑って掌でぬぐう。それだけのことなのだけれど、そこに男は家事をしたことがない、という当たり前のことが自然に描かれている。マリアは、あ、この男はこういうことをするのは初めてなのだとわかり、怒る変わりに笑う。これが、まあ、実にさりげなく、ほんとうに自然。ここから、マリアは男に心を許すというか、一種の「開かれた感じ」でのつきあいが始まる。スペイン語で言う「シンパティコ」という感じかな?
 この男、まあ、フランス人にしては(?)とても親切なのだけれど。
 それ以上に見落としてはいけないのが、この男に対するスペイン女性陣の反応の仕方だね。親切にされて、その親切を心から受け入れる。そして感謝する。その素直な感じが、やっぱりフランス人とは違う。気取りがない。まあ、ブルジョア家庭で家政婦の仕事をしていて、気取りがないというのは当たり前のようではあるけれど、そうでもないよね。内戦で両親が死んだという女性も家政婦のひとりだが、彼女などはかたくなな部分がある。けれども。いったん心を開くと、開き方が違うね。スペイン人にとっていちばん大切なのは「友情」。それは友だちを大切にするということだけではなく、親切にされることに対して負担を感じないというところに、とてもよくあらわれる。親切にされてほんとうにうれしい、と素直に言う。そこにあらわれる気取りのなさ。これがいいよね。
 おもしろいシーンはいろいろあるが、さっき書いた洗濯物を干すシーン。それがきっかけでマリアと男が親密になる、互いを知るという部分が、最後にもう一度描かれる。マリアが洗濯物を干しているところへ男が尋ねてくる--それだけなのだけれど、あ、これでハッピーエンドなのだなとわかる。しゃれているね。
 で、その直前。マリアが洗濯物をもって家から出てくるとき、外にいる女性とことばをかわす。「娘は元気?」「あとで寄るわね」とかなんとか。これも、さりげなくていいなあ。マリアは男の家から逃げるようにしてスペインへ帰ったのだが、その直前、男とセックスをしている。娘は、そのときの子ども、のようである。娘を出さずに、そういうことをさりげなく伝え、ハッピーエンドをいっそうさわやかにしている。
 このハッピーエンドには、男とのセックス以外にも実は伏線があるのだが、そのさりげない伏線も気持ちがいい。おだやかな感じで、ああ、生きているっていいなあ、と思える映画である。つきあうならやっぱりスペイン人だよなあ、とも。
                      (KBCシネマ1、2012年08月25日)



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