監督 アレクサンダー・ペイン 出演 ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ
ロードムービーといえばロードムービーなのだろうけれど。そうか、これがアメリカか。どこまで行っても平野。標識がないと、私なんかにはどこがどこだかぜんぜんわからない。あ、4人の大統領を山肌に刻んだ場所だけは、どこ、とわかるけれどね。
で、どこまで行っても変わらないアメリカをどこまでもどこまでも行くと、どこともかわらない「日常」がだんだんはっきりしてくる。「日常」はどこへいっても変わらない。それは国境を越えて、人種を越えてかわらない。そこに描かれることがらが、アメリカ独自のものではない。日本でもヨーロッパでも起きている「日常」がだんだんくっきりしてくる。
これがモノクロで描かれる。なるほどなあ、と思う。
単調な平原の風景、どこまでもつづく高速道路、しかも最初の方のシーンには雪も残っているから、モノクロがさらに輪をかけてモノクロ。どこがどこだかぜんぜんわからないのだが、父親の生まれ育った街にたどりついてみれば、バーには暇な(?)老人がたむろしている。若者は都会に出てしまっていて、都会に出ていくことのできない落ちこぼれ(?)の若者だけがいる。
で、主人公が百万ドルの懸賞にあたったという噂が広がると、疎遠だったひとが群がってくる。ちやほやして、とりいる。貸した金を返せと言ってくる。あの手この手で、なんとか、泡銭にすがろうとする。ひとの考えることは、古今東西かわらない。当選通知を強奪しようとする親類さえあらわれる。金があればもう少しなんとかなる--とみんな思っているらしい。
なかには善人(?)もいて、主人公をあたたかく見守りもするのだが、それも含めて「現代の過疎地域の問題」が濃密に描き出される。
主人公が老人だからそうなるのかもしれないが、親類(知人?)があつまってテレビを見れば、みんな身動きもせず、ただ画面をみつめている。楽しいのか、つまらないのか、わからない。ただ時間をつぶしている。ときどき、テレビの試合とは無関係な日常のことを何度も繰り返し会話する。質問に答える方の態度から、その質問がもう何度も答えてきたものであることがわかる。
バーでの楽しみがカラオケというのも、もう日本だけのことではなくて、アメリカの片田舎までそうなのである。
で、そういう生活というか、どことも変わらない「日常」が濃密になると、どことも変わらないはずなのに、それがそこだけに起きていることのように、鮮やかになってくる。モノクロ映画なのに、なぜかカラー映画を見ているように色彩にあふれてくる。
そうか、映画の色をつくっているのは、そこに存在する色(風景や洋服、家具)ではなく、そこで生きている人間なのだということがわかってくる。
で、と、ここで私はちょっと飛躍して矛盾するようなことをいうのだが……。この人間の「色」が浮き立ってくるとき、主役のブルース・ダーンは、相変わらず「灰色」のまま。ほんとうは美しい(?)恋もあったし、その恋人も元気で暮らしているのだけれど、いきいきと動くのは恋人だけ。ブルース・ダーンは相変わらず百万ドルが当たったと信じきっている「ぼけた」老人のまま。昔の友人が金を無心にきても、あるいは嘘の当選の手紙をからかっても、何もかわらない。周りの人と対応するのは、妻だったり、息子だったりする。つまり、まわりに「色」がひしめくのだけれど、中心のブルース・ダーンは「灰色」に徹して、まわりの「色」を鮮明にする役どころに徹している。
ここが、この映画のみせどころだねえ。演じどころだねえ。うまいねえ。アカデミー賞の主演男優賞の候補になるだけの理由はある。マシュー・マコノヒー(「ダグラス・バイヤークラブ」予告編だけ見た。福岡の公開はまだ)やクリスチャン・ベール(「アメリカン・ハッスル」うまい)レオナルド・ディカプリオ(「ウルフ・オブ・ウォールストリート」平凡)が一生懸命、自分の「色」を出すのに対し、他人の「色」が際立つように演じつづけるというのは、とってもおもしろい。こういう演技がアカデミー賞を獲得するなら、アメリカ映画はもっとおもしろくなるだろうなあ。そうなってほしいなあ。
脱線したかな? そうでもないのかもしれない。
この映画は、何というか、見逃してしまいそうな「日常」の「色」を浮かび上がらせ、声高にならないまま、静かに現代の問題、それにどう向き合うべきかということも問いかけてくる。ウィル・フォーテの演じた息子の方法をだれもがとれるわけではないが、ね、最後の最後(さっき書いたことと矛盾するけれど)、ブルース・ダーンがトラックを運転することろで、突然「色」を持ちはじめる。この瞬間の、切り返しも、見事で美しいねえ。ブルース・ダーンが支えた映画だ。
(2014年03月02日、天神東宝3)
(私の目が悪いせいなのかもしれないが、どうも天神東宝のスクリーンは汚い。モノクロ映画だととくに感じるのだが、明暗に輝きがなくなる。)
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