監督 ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ 出演 ヨビタ・ブドニク、ズビグニェフ・バレリシ、アントニ・パブリツキ
ポーランドのジプシー(いまも、こういうのだろうか)の女性詩人の生涯を描いている。予告編で少しだけ声で語られる詩が神話的で興味をそそられた。鳥の群れが飛び立つシーンも、鳥が大地と空をつないでいる感じがおもしろくて、とても期待した。
期待が強すぎて、期待外れという感じになってしまった。
私は詩人の「ことば」をもっと聞きたかった。彼女が森や原野を旅することを、どんなふうに肉体化するのか、それが見たかった。鳥が大地と空をつないで生きるように、ジプシーたちは土地から土地へ歩き回ることで、その離れた土地をどうつないでゆくのか。ふつうのひとの暮らし(定住)をどうやって切断し、彼女のなかで土地(自然)そのものを広げてゆくのか、それを見ることができたらなあと期待していた。
映画はジプシーの思想(詩のありか)を浮かび上がらせるというよりも、ジプシーの迫害の歴史を克明に描いている。ユダヤ人と同様、ナチス(ヒトラー)に迫害された歴史を描いている。その歴史の中に、詩人の生涯が埋もれるような形になっている。監督の意図は詩人の生涯というよりも、詩人をとおして、「時代」そのものを描くところにあったのだろう。
定住を強いられることで、こころの豊かさ(ことばの豊かさ)、こころと大地の結びつきを逆に断ち切られてしまう--それがことばにどう反映しているのか、ことば(詩)の比較がないとわからない。「事実」なのかもしれないが、狂気に簡単に頼っていて、苦悩への過程がよくわからない。
あ、ここにこのような人間の歴史があったのか、と知るという意味では、学ぶところがあったが、詩が生まれる瞬間の力がどうも伝わってこない。迫害によって、詩が変わっていったのか。それとも、以前と同じように詩を書きつづけたのか。それがわからない。
彼女を発見した男と、その男と出会うことで変わってしまった女の人生。それが詩にどう反映しているのか、その部分がよくわからない。だから、男の「ずるさ」のようなものも、ちょっとあっさりしている。「迫害された」歴史はわかったが、「迫害した」歴史の方は、すこしあいまい。「迫害」の問題を、ジプシー社会の内部問題のように描いている点も、それが事実としても、なんだかなあ。ヒトラーの「時代」にたよりすぎているかも。
唯一、興味深かったのは、女性の詩人が「ことば」の魔力を信じきっていることが描かれていたところ。結婚相手が好きになれない。そのために、「どうか子宮をふさいでください」と祈る。それがそのまま「肉体」に跳ね返ってきて、実際に子供を産むことがない。「ことば」が何か「ほんとう」とつながっている。その気持ちが彼女に詩を書かせているのだと、その瞬間にわかる。そういうシーンをもっと見たかったなあ。
(KBCシネマ2、2015年05月10日)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
ポーランドのジプシー(いまも、こういうのだろうか)の女性詩人の生涯を描いている。予告編で少しだけ声で語られる詩が神話的で興味をそそられた。鳥の群れが飛び立つシーンも、鳥が大地と空をつないでいる感じがおもしろくて、とても期待した。
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私は詩人の「ことば」をもっと聞きたかった。彼女が森や原野を旅することを、どんなふうに肉体化するのか、それが見たかった。鳥が大地と空をつないで生きるように、ジプシーたちは土地から土地へ歩き回ることで、その離れた土地をどうつないでゆくのか。ふつうのひとの暮らし(定住)をどうやって切断し、彼女のなかで土地(自然)そのものを広げてゆくのか、それを見ることができたらなあと期待していた。
映画はジプシーの思想(詩のありか)を浮かび上がらせるというよりも、ジプシーの迫害の歴史を克明に描いている。ユダヤ人と同様、ナチス(ヒトラー)に迫害された歴史を描いている。その歴史の中に、詩人の生涯が埋もれるような形になっている。監督の意図は詩人の生涯というよりも、詩人をとおして、「時代」そのものを描くところにあったのだろう。
定住を強いられることで、こころの豊かさ(ことばの豊かさ)、こころと大地の結びつきを逆に断ち切られてしまう--それがことばにどう反映しているのか、ことば(詩)の比較がないとわからない。「事実」なのかもしれないが、狂気に簡単に頼っていて、苦悩への過程がよくわからない。
あ、ここにこのような人間の歴史があったのか、と知るという意味では、学ぶところがあったが、詩が生まれる瞬間の力がどうも伝わってこない。迫害によって、詩が変わっていったのか。それとも、以前と同じように詩を書きつづけたのか。それがわからない。
彼女を発見した男と、その男と出会うことで変わってしまった女の人生。それが詩にどう反映しているのか、その部分がよくわからない。だから、男の「ずるさ」のようなものも、ちょっとあっさりしている。「迫害された」歴史はわかったが、「迫害した」歴史の方は、すこしあいまい。「迫害」の問題を、ジプシー社会の内部問題のように描いている点も、それが事実としても、なんだかなあ。ヒトラーの「時代」にたよりすぎているかも。
唯一、興味深かったのは、女性の詩人が「ことば」の魔力を信じきっていることが描かれていたところ。結婚相手が好きになれない。そのために、「どうか子宮をふさいでください」と祈る。それがそのまま「肉体」に跳ね返ってきて、実際に子供を産むことがない。「ことば」が何か「ほんとう」とつながっている。その気持ちが彼女に詩を書かせているのだと、その瞬間にわかる。そういうシーンをもっと見たかったなあ。
(KBCシネマ2、2015年05月10日)
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