松居大悟監督「私たちのハァハァ」(★★★★)
監督 松居大悟 出演 井上苑子一、大関れいか、真山朔チ、三浦透子
北九州市から東京まで自転車で行こうとする女子高校生(三年生)のロードムービー。目的は大好きなロックバンドのライブを見るため。
自転車で東京まで、というのは大変。それもロードサイクル用の自転車ではなく、いわゆるママチャリ。荷物かごが前についている。ひとりは自転車のタイヤが小さいミニ自転車。あ、無理だねえ。
で、実際、無理。広島まではがんばって自転車で走るのだが、あとは走れない。まずヒッチハイクを試みる。これも現代ではなかなか難しい。なんとか神戸まではたどりつくが、そこから先はヒッチハイクもできない。しかたなくアルバイト(キャバクラ?)をして金を稼ぎ、北九州にいたときにバイトした金をあわせ、東京までのバス代捻出する。ところが、東京に着いてみると、東京駅から渋谷までの電車賃がない……。
そういうむちゃくちゃな行動なのだが、これがなかなか楽しい。タイトルの「私たちのハアハア」の、その「ハアハア」が聞こえてくる。最初ははつらつだった「ハアハア」が苦しい「ハアハア(力のないハアハア)」なって、それでも力をふりしぼってまた「ハアハア(必死)」なる。それが、そのまま映像と台詞になっている。
夜に出発してすぐ、門司あたりで、すでにひとりが「ほんとうに東京までゆくの?」と疑問を発するのだが、押し切られてしまう。広島では原爆ドームを背景に野宿する。ここまでは、ともかく元気だ。「ハアハア」も楽しい。こんなに力があるんだということを四人が歌も実感し、楽しんでいる。ノリノリである。途中で海で遊んだりもする。歌も歌えば将来の夢も語り合う。「東京なんかじゃなくて、フランスに行きたい。そのためには海外赴任の仕事がある銀行員と結婚したい」などという「現実的」すぎて非現実的な夢だったりする。恋人と電話で語り合うことも忘れない。
二日目。はやくもからだのあちこちが痛み、自転車に乗っていられない。で、ヒッチハイク作戦。危ないね。実際、ヒッチハイクでは代償にキスを求められたり、キャバクラの面接では美人の二人は採用されるが残る二人は仕事にありつけない、という現実にも直面する。このあたりから四人の関係がぎくしゃくが激しくなる。けんかしはじめる。スマホでツイッター(実況中継)をしているのだが、金がなくて困っている、東京までゆけない、というようなことも書くのだが、バンドのリーダーへ向けても同じようなことを書く。それをめぐって「そんなことを書いたらリーダーに迷惑がかかる。消して」「リーダーがそんなものを読むわけがない」「ファンはルールを守らなければいけない」「私なんか最初からファンじゃなかった」「もう***(バンド名)は一生聞かない」というような、まあ、ミーハー高校生の会話でしかないやりとりがつづく。泣きながら「八方美人」だの「ブス」だのと、こころの奥で思っていることも言ってしまう。夜のシャッターがしまった路地で。「私はもう行かない」とかね。
むむむ。
これって、映画? 現実? ちょっと区別がつかない。脚本は最初から、そういう具合に書かれていたのかなあ。疲れてきた四人の「地」にまかせてしまったのかなあ。
映像も、最初の「家出計画(東京旅行?)」はハンディ・ムービーで撮られていて画面も小さく、手振れも多い。途中からふつうのカメラで撮られた映像になるのだが、フレームがわざと揺れたりして、手持ちの感覚をいかしている。映画を見ているというよりも、四人のドキュメンタリーを見ている感じ。いや、ドキュメンタリーでもないなあ。ドキュメンタリーは編集されているから。未編集の、その場で、女子高校生を見ている感じなのだ。
四人がだんだん疲れてきて、疲れてくると「本音」しか言えなくなってくる感じがおもしろいし、若いからぎくしゃくしながらも一瞬で気持ちが変わって、一致団結というのも、なかなか楽しい。東京駅から渋谷まで歩きながら、間に合わない、諦めた、と思いながら、もしかするとラストには間に合うかもと真剣に走り出すところなんか、若くていいなあ。
で、ラストのラスト。
ライブは間に合ったような間に合わなかったような、帰りは結局親のすねかじり、という感じのあれこれがあって、四人が走り出す前の映像「フレーム」のなかに、映画撮影のときの「テイク」のカチンコが映る。映画そのものにはいらない物なのだが、それをあえて映画のなかに組み込むことで、「映画ではなく、ライブなんだよ」と言っている。
いや、ほんと、ライブなんだねえ。これが。
傷ついても傷じゃない、失敗しても失敗じゃない。「ハアハア」するっていいもんだねえ。
(KBCシネマ2、2015年09月23日)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
監督 松居大悟 出演 井上苑子一、大関れいか、真山朔チ、三浦透子
北九州市から東京まで自転車で行こうとする女子高校生(三年生)のロードムービー。目的は大好きなロックバンドのライブを見るため。
自転車で東京まで、というのは大変。それもロードサイクル用の自転車ではなく、いわゆるママチャリ。荷物かごが前についている。ひとりは自転車のタイヤが小さいミニ自転車。あ、無理だねえ。
で、実際、無理。広島まではがんばって自転車で走るのだが、あとは走れない。まずヒッチハイクを試みる。これも現代ではなかなか難しい。なんとか神戸まではたどりつくが、そこから先はヒッチハイクもできない。しかたなくアルバイト(キャバクラ?)をして金を稼ぎ、北九州にいたときにバイトした金をあわせ、東京までのバス代捻出する。ところが、東京に着いてみると、東京駅から渋谷までの電車賃がない……。
そういうむちゃくちゃな行動なのだが、これがなかなか楽しい。タイトルの「私たちのハアハア」の、その「ハアハア」が聞こえてくる。最初ははつらつだった「ハアハア」が苦しい「ハアハア(力のないハアハア)」なって、それでも力をふりしぼってまた「ハアハア(必死)」なる。それが、そのまま映像と台詞になっている。
夜に出発してすぐ、門司あたりで、すでにひとりが「ほんとうに東京までゆくの?」と疑問を発するのだが、押し切られてしまう。広島では原爆ドームを背景に野宿する。ここまでは、ともかく元気だ。「ハアハア」も楽しい。こんなに力があるんだということを四人が歌も実感し、楽しんでいる。ノリノリである。途中で海で遊んだりもする。歌も歌えば将来の夢も語り合う。「東京なんかじゃなくて、フランスに行きたい。そのためには海外赴任の仕事がある銀行員と結婚したい」などという「現実的」すぎて非現実的な夢だったりする。恋人と電話で語り合うことも忘れない。
二日目。はやくもからだのあちこちが痛み、自転車に乗っていられない。で、ヒッチハイク作戦。危ないね。実際、ヒッチハイクでは代償にキスを求められたり、キャバクラの面接では美人の二人は採用されるが残る二人は仕事にありつけない、という現実にも直面する。このあたりから四人の関係がぎくしゃくが激しくなる。けんかしはじめる。スマホでツイッター(実況中継)をしているのだが、金がなくて困っている、東京までゆけない、というようなことも書くのだが、バンドのリーダーへ向けても同じようなことを書く。それをめぐって「そんなことを書いたらリーダーに迷惑がかかる。消して」「リーダーがそんなものを読むわけがない」「ファンはルールを守らなければいけない」「私なんか最初からファンじゃなかった」「もう***(バンド名)は一生聞かない」というような、まあ、ミーハー高校生の会話でしかないやりとりがつづく。泣きながら「八方美人」だの「ブス」だのと、こころの奥で思っていることも言ってしまう。夜のシャッターがしまった路地で。「私はもう行かない」とかね。
むむむ。
これって、映画? 現実? ちょっと区別がつかない。脚本は最初から、そういう具合に書かれていたのかなあ。疲れてきた四人の「地」にまかせてしまったのかなあ。
映像も、最初の「家出計画(東京旅行?)」はハンディ・ムービーで撮られていて画面も小さく、手振れも多い。途中からふつうのカメラで撮られた映像になるのだが、フレームがわざと揺れたりして、手持ちの感覚をいかしている。映画を見ているというよりも、四人のドキュメンタリーを見ている感じ。いや、ドキュメンタリーでもないなあ。ドキュメンタリーは編集されているから。未編集の、その場で、女子高校生を見ている感じなのだ。
四人がだんだん疲れてきて、疲れてくると「本音」しか言えなくなってくる感じがおもしろいし、若いからぎくしゃくしながらも一瞬で気持ちが変わって、一致団結というのも、なかなか楽しい。東京駅から渋谷まで歩きながら、間に合わない、諦めた、と思いながら、もしかするとラストには間に合うかもと真剣に走り出すところなんか、若くていいなあ。
で、ラストのラスト。
ライブは間に合ったような間に合わなかったような、帰りは結局親のすねかじり、という感じのあれこれがあって、四人が走り出す前の映像「フレーム」のなかに、映画撮影のときの「テイク」のカチンコが映る。映画そのものにはいらない物なのだが、それをあえて映画のなかに組み込むことで、「映画ではなく、ライブなんだよ」と言っている。
いや、ほんと、ライブなんだねえ。これが。
傷ついても傷じゃない、失敗しても失敗じゃない。「ハアハア」するっていいもんだねえ。
(KBCシネマ2、2015年09月23日)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
スイートプールサイド [DVD] | |
クリエーター情報なし | |
松竹 |