高田昭子『胴吹き桜ら』は父親のことを書いた作品が多い。「ててっぽっぽう」は長瀬清子の詩をとおして父と対話している。
ある日、父が無花果を食べていると、庭の無花果の木から「ててっぽっぽう」と声がする。はじめて、「ててっぽっぽう」と聞こえて、長瀬とつながったと父に告げる。
私はこの部分がとても好きだ。
理由はふたつ。ひとつは、私も「ででっぽう」の方になじみがある。「ててっぽっぽう」には野生のぬくみがない。気取った声だ。もうひとつは、
この一行が、「肉体」を感じさせる。
人にはそれぞれ声を発するときのタイミングというか、リズムというものがある。癖のようなものだ。このとき高田の父はいつもとは違うタイミングで「古里では」と語ったのだ。ほかの人には気付かない「しばらくしてから」の「間合い」を高田は書き留めている。
そして、ことばにならなかった「しばらく」という「間合い」のなかへと入っていく。こう、ことばにする。
ほんとうに高田の父が「北の古里ばかりを恋うていた」かどうか、その「証拠」のようなものは書かれていない。高田がそう思っただけかもしれない。だが、高田の思ったことにまちがいはないと納得させるのが「しばらくしてから」という「間合い」をつかみとる感覚にある。
一緒に暮らしていて、はじめて身をゆさぶる「間合い」である。
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ある日、父が無花果を食べていると、庭の無花果の木から「ててっぽっぽう」と声がする。はじめて、「ててっぽっぽう」と聞こえて、長瀬とつながったと父に告げる。
父は「そうか」と言って
黙って無花果を食べていた
しばらくしてから
「古里では、ででっぽうと言っていたな。」と言った
私はこの部分がとても好きだ。
理由はふたつ。ひとつは、私も「ででっぽう」の方になじみがある。「ててっぽっぽう」には野生のぬくみがない。気取った声だ。もうひとつは、
しばらくしてから
この一行が、「肉体」を感じさせる。
人にはそれぞれ声を発するときのタイミングというか、リズムというものがある。癖のようなものだ。このとき高田の父はいつもとは違うタイミングで「古里では」と語ったのだ。ほかの人には気付かない「しばらくしてから」の「間合い」を高田は書き留めている。
そして、ことばにならなかった「しばらく」という「間合い」のなかへと入っていく。こう、ことばにする。
南から北へとのぼりながら
言葉は素朴な濁音をまとってゆくようだった
あの日から
父は北の古里ばかりを恋うていた
ほんとうに高田の父が「北の古里ばかりを恋うていた」かどうか、その「証拠」のようなものは書かれていない。高田がそう思っただけかもしれない。だが、高田の思ったことにまちがいはないと納得させるのが「しばらくしてから」という「間合い」をつかみとる感覚にある。
一緒に暮らしていて、はじめて身をゆさぶる「間合い」である。
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嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(3)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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(4)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
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