詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

藤原安紀子「註釈」

2019-03-05 10:25:32 | 詩(雑誌・同人誌)
藤原安紀子「註釈」(「森羅」15、2019年03月09日発行)

 藤原安紀子「註釈」の一連目。

むゆって さまわる 環の中心で
ロロは たてまわり けいれんして
クシャック や ムシャック
しながら 原生の川辺へ 星を掘りにいくという

 「むゆって さまわる」。何語だろう。私は、こういうことばをつかわない。知らない。何を書いてあるか、わからない。「ロロ」も実は「口口」かもしれない。池井の手書きの文字なので、どちらかはっきりしない。
 それでも、わかることがある。文字が読める。「環の中心」はわかる。「たてまわり」の「まわり」は「まわる」の連用形だろうと、思ってしまう。で、思ってしまうことを、「わかる」と勘違いする。「誤読」だ。「けいれんして」も「わかる」、「しながら」も「わかる」「掘りにいく」も「わかる」。動詞を読むと「肉体」が反応する。
 反応する、といっても「しながら」の前の行の「クシャック」「ムシャック」がわかるわけではない。けれど「クシャックしながら」「ムシャックしながら」と「誤読」し、それを動詞だと思い込んで、私が勝手に反応しているだけである。
 「クシャック」「ムシャック」、くしゃみ、はくしょん、むしゃくしゃ。私の「肉体」は音の重なりを適当に解体し、つなぎ直して、「意味」を捏造する。「原生」ということばに刺戟されて、「くしゃみ」になるまえ、未分節のとき、「肉体」が聞いたのは「クシャック」だったかもしれない、と思ったりする。「シャック」の繰り返しも、「音」を「意味」に整えようとして動いている感じがする。

ロロはさらにいう じめん
なんて お絵かきできる
たのしい 白い紙は嘘で タリックが
パチャックすると くしゃみがでる
あかつきのお花が 曲がる

 あれれ、「くしゃみ」が出てきてしまった。「意味」になってしまうと、つまらない。「意味」とは「理」のことである。

ぬける地に 理はつまらない
ありといえば 円座になって背をまわること
追っかけっこして蹴りあげる 世にふたつと
ない音たてて

 うーん、「理はつまらない」まで出てきてしまった。
 でも、いいか。一連目が楽しいから。
 「原生の川辺へ 星を掘りにいく」というのは、天と地が入れかわったみたいで楽しい。河は、このとき銀河だ。また「原生」の「原」はビッグバンということばを思い出させる。ここから世界がはじまる。「分節」がはじまる。

 ……という具合に、私は「註釈」してみる。つまり「誤読」してみる。言いなおすと、感想を書く。



*

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池澤夏樹のカヴァフィス(76)

2019-03-05 00:00:00 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
                         2019年03月05日(火曜日)

76 認識

わたしが若かった頃の歳月、悦楽の生活--
その意味が今になると明らかに見える。

悔やむのはまったく無益な、無用なこと……
しかしあの頃は意味が見えなかったのだ。

 「意味が見える」と「意味が見えなかった」の対比の仕方がおもしろい。「見える」という現在形は「若かった頃」という過去と結びつき、「見えなかった」という過去形は「悔む」という現在と結びついている。
 時系列を分かりやすくすると、

わたしが若かった頃の歳月、悦楽の生活--
あの頃は意味が見えなかった。

悔やむのはまったく無益な、無用なこと……
その意味が今になると明らかに見えるのだから。

 になる。しかし、そうすると、認識の変化(?)が、小学生の作文みたいでおもしろくない。「朝起きて、顔を洗ってご飯を食べて、学校にきました」見たいな感じだ。
 池澤は、

述懐というカヴァフィスには珍しい内容が先行して修辞的にも韻律的にもほとんど凝ったところのない詩篇。

 と註釈しているが、「意味が見える」と「見えなかった」の対比のさせ方は「凝っている」と私は思う。
 「意味が見える」「意味が見えなかった」と書いたあと、カヴァフィスはその「意味」がどういうものか書いている。「見えなかった」をいったん経由して「見える」へ引き返す形で読者に「意味」を提出する。これもとても印象に残るレトリックだ。

若い時の放縦な生活の中で
わたしの詩の衝動が形成され、
その技術の領域の輪郭が描かれた。

 「描かれた」は過去形だが、実際はそれが現在を支配している。この書き方も印象的だ。



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