詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(78)

2019-03-07 09:04:54 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
78 アレクサンドリアからの使者

 この詩も「神託」を題材にしている。その一連目。

デルフォイでもこれほど見事な贈物は何世紀も見られなかった。
兄弟で張りあっているプトレマイオス家の二人の王が
それぞれに送ってよこしたもの。受け取りはしたものの
神官たちは神託について思いまどった。このような二人の
一体どちらの不興を買うべきか、またそれをどう遠まわしに
述べるか、それには彼らの経験のすべてが要求された。
そこで彼らは夜ひそかに会合を開いて
ラギディス一族の家庭内の不和を論じた。

 この詩にも「オチ」はあるのだが、「77 ネロの命数」ほどすっきりした感じがない。あ、なるほど、と読者が「神託」を受けたような感じにはならない。理由は簡単だ。ことばが長いからだ。そして長い理由は、ここでは「神」ではなく「人間」が動いているからだ。神官という職業であっても、人間。人間は迷う。迷う分だけことばが長くなる。
 「そこで彼らは夜ひそかに会合を開いて/ラギディス一族の家庭内の不和を論じた。」というのでは「神託」ではなく、「人事」だ。それも「不興」を心配しての人事。つまり、二人の王のことも、国のことも考えていない。自分たちのことだけを考えている。まあ、人事というのは、そういうものかもしれないが。

 池澤は、二連目の展開を踏まえて、こう書いている。

この詩の主題はデルフォイの権威の失墜となる。

 「人事の時代」になった、人間の時代になったということだね。それは一連目から準備されている。


カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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