田中庸介「気持ちのフレーム」、藤田晴央「乳白の空から」、たかとう匡子「うまくいかない」(「交野が原」86、2019年04月01日発行)
田中庸介「気持ちのフレーム」の一連目。
あれっ、田中って、こういうことばづかいだったかな? よく思い出せない。何か違ったひとのことばを読んでいる気持ちになる。
私には私の「気持ちのフレーム」があって、フレームから少し違うところに田中がいるのか、田中がフレームごとどこか違う世界へ行ったのか。
目が悪い私は「ポール」を「ボール」と読み違え、あ、ここはいいなあ、と思った。船をつなぐチェーンが水面に触れている。そこにボールが流れ着いて引っかかっている。こういう光景は見たことがある。でも、私はことばにしたことがない。だれかのことばで読んだ記憶もない。だから、それを「フレーム」のなかに取り込むことに、ちょっと感激した。あ、この風景、見たことがあるぞ。あれは、こういうことばにすればよかったのか、と。この感覚が、私の覚えている田中。
でも、それについて書こうとしてワープロに向かっていると。
あ、「ボール」ではなく「ポール」か。
また、気持ちがずれてしまった。
しかし、最終連は、好きだ。
「防波堤の間に」の「間」が、それこそ「フレーム」になって、風景が引き締まる。そのあとの「ぐんくん」がのびやかでとてもいい。「ちりちりちりちりと自転車を押してきて、」の「ちりちりちりちり」もいいなあ。田中がオノマトペを駆使していたという記憶はないが、こういう「ことば以前」ののびやかな響きとリズムがなつかしい。
最終連で、田中が「フレーム」にきっちりと収まった、という感じ。
*
藤田晴央「乳白の空から」は、二連目が美しい。
これが、降り出した雪を描写したあと、こんなふうに言いなおされる。
美しい重ね書きだ。美しすぎるかもしれない。
一方で、「あらわれ」が「あやまち」であってもいいようにも思う。「あやまち」がなければ、ひとは自分の「あやまち」に気がつくことはできないのだから。「あやまち」を教えてくれる「あやまち」。そういうものがあってもいいと思う。こういう詩を読んでいると、なんとなく、そういいたくなる。
*
たかとう匡子「うまくいかない」。
たかとうもまたひとを待っていたのか、それとも「待ち人来らず」ということばをまっていたのか。よくわからないが、こういう「フレーム」のズレから動き出すことばのほうが、きょうは気持ちがいい。
これがきょうの私の「フレーム」なのだろう。
*
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
なお、私あてに直接お申し込みいただければ、送料は私が負担します。ご連絡ください。
「詩はどこにあるか」2019年1月の詩の批評を一冊にまとめました。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168075286
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(4)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
田中庸介「気持ちのフレーム」の一連目。
おだやかに青い海が揺れる一月の港に、
どこからか口笛が聞こえてくる。
ここは瀬戸内海、船着場に
午後の陽ざしが明るい。
あれっ、田中って、こういうことばづかいだったかな? よく思い出せない。何か違ったひとのことばを読んでいる気持ちになる。
私には私の「気持ちのフレーム」があって、フレームから少し違うところに田中がいるのか、田中がフレームごとどこか違う世界へ行ったのか。
黄色いチェーンが黄色いポールに掛かっている。
ああ、気の毒なことが多い季節だった。
目が悪い私は「ポール」を「ボール」と読み違え、あ、ここはいいなあ、と思った。船をつなぐチェーンが水面に触れている。そこにボールが流れ着いて引っかかっている。こういう光景は見たことがある。でも、私はことばにしたことがない。だれかのことばで読んだ記憶もない。だから、それを「フレーム」のなかに取り込むことに、ちょっと感激した。あ、この風景、見たことがあるぞ。あれは、こういうことばにすればよかったのか、と。この感覚が、私の覚えている田中。
でも、それについて書こうとしてワープロに向かっていると。
あ、「ボール」ではなく「ポール」か。
また、気持ちがずれてしまった。
しかし、最終連は、好きだ。
防波堤の間に船は現れる。ぐんぐんと
水面を滑って。口笛の緑の青年が
ちりちりちりちりと自転車を押してきて、
気持ちのフレームに今ま、きっちりと収まった。
「防波堤の間に」の「間」が、それこそ「フレーム」になって、風景が引き締まる。そのあとの「ぐんくん」がのびやかでとてもいい。「ちりちりちりちりと自転車を押してきて、」の「ちりちりちりちり」もいいなあ。田中がオノマトペを駆使していたという記憶はないが、こういう「ことば以前」ののびやかな響きとリズムがなつかしい。
最終連で、田中が「フレーム」にきっちりと収まった、という感じ。
*
藤田晴央「乳白の空から」は、二連目が美しい。
鴨だろうか
雁だろうか
見きわめかねているうちに
鳥は また
乳白の空に 隠れるように入っていった
もうひとつの世界から
あやまって出てきて
あやまちに気づいたように
もうひとつの世界に戻っていった
これが、降り出した雪を描写したあと、こんなふうに言いなおされる。
鳥も
鳥も
わたしの知らない
もうひとつの世界からあらわれる
あなたも
そのようにあらわれた
願わくば
鳥のようにではなく
雪のように
わたしをつつんで
降り積もってほしい
あなたも わたしも
この世にあらわれたのは
あやまちではないのだから
美しい重ね書きだ。美しすぎるかもしれない。
一方で、「あらわれ」が「あやまち」であってもいいようにも思う。「あやまち」がなければ、ひとは自分の「あやまち」に気がつくことはできないのだから。「あやまち」を教えてくれる「あやまち」。そういうものがあってもいいと思う。こういう詩を読んでいると、なんとなく、そういいたくなる。
*
たかとう匡子「うまくいかない」。
喫茶店の片隅で女同士のかん高い声
待ち人来らず
そのひとことをわたしの耳が拾った
なぜかそのままこびりついてしまったその言葉
面白半分ひまつぶしに繰り返し早口で言ってみたら
舌噛んだ
しこたま
たかとうもまたひとを待っていたのか、それとも「待ち人来らず」ということばをまっていたのか。よくわからないが、こういう「フレーム」のズレから動き出すことばのほうが、きょうは気持ちがいい。
これがきょうの私の「フレーム」なのだろう。
*
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
なお、私あてに直接お申し込みいただければ、送料は私が負担します。ご連絡ください。
「詩はどこにあるか」2019年1月の詩の批評を一冊にまとめました。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168075286
オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(4)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
![]() | モン・サン・ミシェルに行きたいな |
田中 庸介 | |
思潮社 |