詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(79)

2019-03-08 14:18:47 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
79 アリストブーロス

 アリストローブスの死を嘆く詩は、二連目の途中からことばの調子が一変する。

アレクサンドラはこの惨事にただ泣き暮らしていた--
だが自分一人の時になると彼女の悲しみは一変した。
彼女は、うめき、憤怒に燃え、悪罵を並べ、咒った。
よくも妾をあざむいてくれた! よくもだましてくれた!
遂にあいつらは目的を達してしまった!
アスモナエアス家を滅ぼしてしまった。
あの悪辣な王めがよくもそこまでやったもの。

「一変」するのだけれど、激変という感じではない。感情の爆発というには、論理的すぎる感じがする。特に「遂にあいつらは目的を達してしまった!」が散文的だ。

奸智にたけたあの腐りきった悪党めが、
よくもそこまでやったもの。その暴虐の計画に
マリアムネさえもまったく気付かなかったとは。
マリアムネが気付いたら、せめて疑惑をいだいたら、
弟を救う方法をなんとかみつけたろうに。

 ここまでくると、もう最初の「一変」というのは「意味」だけになってしまう。感情が先に溢れ出て、それをことばが追いかけてくるという感じではなくなる。「音楽」を聞いているという感じが消えてしまう。

 池澤の註釈。

アレクサンドラは本来のユダヤ王家アスモナエアスの一族の出で、その娘マリアムネはヘロデの妃となり、彼に愛されてはいたが、言うなれば攘夷派に属した。アリストブーロスはそのマリアムネの弟。



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
ここをクリックして2500円(送料、別途注文部数によって変更になります)の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。

オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。



以下の本もオンデマンドで発売中です。

評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする