詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(89)

2019-03-18 00:00:00 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
89 船の上で

もちろんこれも彼に似ている、
この鉛筆で描いた小さな肖像も。

 とはじまる詩の三連目。

似ている。けれども記憶にある彼はもっと美しい。
病的と見えるまでに繊細で、
それが彼の表情をエロティックなものにした。
今わたしの魂が、時の奥から、呼びおこす
その姿はこれよりずっと美しい。

 こう書くとき「病的と見える」のは実際のそのときの彼の姿なのか、「わたしの魂が、時の奥から、呼びおこ」したものなのか。
 「記憶にある彼はもっと美しい」が「わたしの魂が、時の奥から、呼びおこす/その姿はこれよりずっと美しい」と言いなおされるとき、ことばの重心は「彼」よりも「記憶」である。「記憶」が「彼」を美しくしている。「記憶」は「彼」を変形させている。
 実際に「病的に見える」のかもしれないが、「記憶」が「病的」にしたのかもしれない。「記憶」は「記憶」であるよりも、いつでも「理想」がまじっているだろう。
 そして、この詩の「病的」は「88 イメノス」の「不健康な衰弱的な快楽」ということばを思い出させる。それはこの詩では「繊細」とも言いなおされている。
 ギリシャ彫刻が健康な人間の姿をしていたのは遠い昔。九世紀にはすでに「不健康」が魅力になっていた。いま、カヴァフィスは、再びそのことを書いていると言えないだろうか。

 池澤は「肖像画」について註釈している。

写真以前の時代に肖像画は恋の小道具としてずいぶん大事な役をしていたのだろう。



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
書肆山田


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