88 イメノス
池澤は一連目と二連目の発表された時間が違うことを根拠に、こう註釈している。
逆に読むこともできる。ここに書かれている官能主義は、いま(二十世紀初頭)はじまったものではなく、すでに九世紀に存在した。長い歴史を生き抜いてきた官能主義である、と強調したいのかもしれない。
カヴァフィスはシェイクスピアのように「慣用句」を自分のものとしてつかっているのではないか、ということを以前書いたが、それを流用すれば、カヴァフィスは慣用的エロスを詩に持ち込んでいる。エロスに「異質」なものはない。あらゆるエロスが「慣用的」である、と主張していると、私は読む。
「強度」ということばが強い。「不健康」「衰弱」しているものも、「強度」に引きつけられる。「快楽」は絶対的な「強度」であり、本能はそれに打ち勝つことはできない。敗北するものだけが獲得できる愉悦がある。エロスに敗北できるものだけがエロスの「強者」である、という宣言にも読むことができる。
だいたい「九世紀の方に似つかわしい官能主義」なら、二十世紀初頭に、わざわざ書く必要はないだろう。いま必要だからこそ、カヴァフィスは書いた。人は必要ではないものを書いたりはしない。
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
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《……不健康な衰弱的な快楽が
もっともっと求められるべきだ。
その快楽が欲するものを感じとれる肉体は少ない--
不健康で衰弱的な方法によってのみ得られる
健全とは無縁なエロスの強度がある……》
池澤は一連目と二連目の発表された時間が違うことを根拠に、こう註釈している。
第一聯は詩人そのひとの考えで、それをイメノスという架空の人物に託して、最もそれにふさわしい時代の背景の前に置いたということになろう。この詩的技法による主張の緩和は興味深い。これは二十世紀初頭より九世紀の方に似つかわしい官能主義なのだ。
逆に読むこともできる。ここに書かれている官能主義は、いま(二十世紀初頭)はじまったものではなく、すでに九世紀に存在した。長い歴史を生き抜いてきた官能主義である、と強調したいのかもしれない。
カヴァフィスはシェイクスピアのように「慣用句」を自分のものとしてつかっているのではないか、ということを以前書いたが、それを流用すれば、カヴァフィスは慣用的エロスを詩に持ち込んでいる。エロスに「異質」なものはない。あらゆるエロスが「慣用的」である、と主張していると、私は読む。
健全とは無縁なエロスの強度がある……》
「強度」ということばが強い。「不健康」「衰弱」しているものも、「強度」に引きつけられる。「快楽」は絶対的な「強度」であり、本能はそれに打ち勝つことはできない。敗北するものだけが獲得できる愉悦がある。エロスに敗北できるものだけがエロスの「強者」である、という宣言にも読むことができる。
だいたい「九世紀の方に似つかわしい官能主義」なら、二十世紀初頭に、わざわざ書く必要はないだろう。いま必要だからこそ、カヴァフィスは書いた。人は必要ではないものを書いたりはしない。
カヴァフィス全詩 | |
クリエーター情報なし | |
書肆山田 |
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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