詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池井昌樹「道」「用」

2019-03-03 09:22:49 | 詩(雑誌・同人誌)
池井昌樹「道」「用」(「森羅」15、2019年03月09日発行)

 池井昌樹「道」は高村光太郎の「道」を思い出させる。

かえるがひとはねぴょんとゆく
へびがうねうねうねくってゆく
ありがぎょうれつつくってゆく
のがもおやこがよちよちとゆく
ああみちがうまれる

 高村光太郎を思い出すが、どこかが違う。どこが違うか、わざわざ言わなくてもいいだろう。誰のことばであっても、それを言いなおすときに「違い」が出てくる。その「違い」のなかに、その人がいる。そして、「違い」が「違い」を生んで、こうなってゆく。

のがももへびもかえるもありも
かっぱもひともやまんばも
それぞれのはやさですぎる
それぞれのいのちがゆきかう
おおにぎわいののどかなみちに
あかもきいろもあおもなく
とまれもすすめもきをつけもなく
とどこおらないかわのよう
どんなみちよりとおくから
どんなみちよりとおくへと
ながれつづける
うまれつづける
ひとすじの
はてしないみちがどこかに

 ここには高村光太郎はいるか、いないか。いないように見えて、実はいる。道はいつでも「ひとすじ」である。
 だから私は、ふいに和辻哲郎の「古寺巡礼」を思い出したりする。「二」に、こういう文章がある。

 昨夜父は言った。おまえのやっていることは道のためにどれだけ役に立つのか、

 その「道」である。この問いと向き合う和辻の姿に、和辻のすべてがある、と私は感じている。
 池井は、いまどんな「道」を生きているか。「用」に書かれている。

つまといて
ようもないのに
こえをかけたくなることが
なにかいいたくなることが
ようもないから
だまっているが
ひとはひとりになることが
いつかひとりになることが
たったひとりで
ひとりっきりで
だからなによりたいせつな
どんなことよりたいせつな
たいせつな
ようがあるから
だまってせなかみていたら
いぶかしそうにふりむいた
つまのめに
めをふせて

 こういう詩を、いまは誰も書かない。だから、そのまま紹介しておく。




*

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池澤夏樹のカヴァフィス(74)

2019-03-03 08:16:57 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
74 肉体よ、思い出せ……

 「肉体よ、思い出、」と詩は呼びかけて始まる。

おまえを見る眼の中で
輝いていたあれらすべての欲望を、
ふるえていた声を--偶然の障害が
彼らの邪魔をしたのだ。
今となってはどれも過去の話、
まるでそれらの欲望にもおまえが
身をまかせたかのようにさえ思えてくる--あの輝き、
思い出せ、おまえを見る眼の中の輝きを、
おまえを求める声のふるえを、思い出せ、肉体よ。

 この詩でも同じことばが繰り返される。モーツァルトの音楽のように、それは繰り返し繰り返し押し寄せてきて、肉体を酔わせる。繰り返しによって、体験していないのに、体験を反芻しているような錯覚に陥る。
 音の魔力がある。

 池澤は、

偶然の障害に邪魔されないかぎり、彼はいつも身をまかせていたかのようだ。

 という註釈をつけているが、余分だろうなあ。
 身をまかせなくても、想像するだけでもセックスなのだ。想像したことを「思い出せ」と肉体に呼びかけている。それもまたセックスだろう。

 しかし、この詩の、

彼らの邪魔をしたのだ。

 の「彼ら」とはだれのことだろう。「まるでそれらの欲望にもおまえが」のように、「それら(の欲望)」と訳さなかったのはどうしてなのだろうか。「彼ら」ということばは、どうしても「人」を想像させる。
 「偶然の障害」が「あれらすべての欲望を」「邪魔したのだ」と、私は読みたい。
 「邪魔された欲望(かなえられなかった欲望)」を思い出せ、と肉体に呼びかけていると読みたい。



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