青山かつ子「月夜」(「ぶーわー」41、2019年03月10日発行)
青山かつ子「月夜」の感想をどう書けばいいか。
と昔の思い出が書き始められている。とくに「説明」があるわけではないが、昔の思い出と思ってしまう。「チャンバラ」とか「富山の薬」が、そう思わせるのか。「となりのおクニさんの家」という言い方がそう感じさせるのかもしれない。固有名詞の響き方がなつかしい。昔は固有名詞があたたかな体温といっしょに生きていた。だから「借りる」ということも自然にできたんだろうなあ。
ここから「固有名詞の体温」は、こう広がって行く。
「意味」的には唐突な展開なのだが、唐突と感じない。自然に感じる。「ゆたかさん」のことなんて、私は知らない。けれど知っている気持ちになる。「体温」があるからだ。「体温」は「口ぐせ」と言いなおされている。「口ぐせ」がわかるくらいに、青山は「ゆたかさん」を知っている。ただし、知っているといっても、すぐそのあとに(タコ部屋には何十匹くらい蛸がいるのかなー)ということばがやってくるくらい、いいかげんというか、ゆるいつながりだ。真剣に(?)知っているわけではない。
そういうところを通って、詩は「おとうと」に戻って行く。
「ゆたかさん」に比べると、母、おとうととの「つながり」は真剣だね。でも、青山にとってはどうか。
ちょっと違うかもしれない。
青山は、「ゆたかさん」のことを思う「ゆるさ(余裕)」がある。「すき」がある、と言ってみればいいのか。
その「ちょっと」には、母をおとうとにとられたという「嫉妬」のようなものがまじっているのかもしれない。
こういうことは、厳密に考えない方がいいだろうなあ。ことばにすると、だんだん変なことになってしまう。
無造作に「こと」が進んで行くが、その無造作なところに、やはり余裕がある。「ゆるみ」ではなく、余裕というようなものがある。
他人(たとえば、「ゆたかさん」)の場合は「ゆるさ」だが、肉親には「余裕」。どこが違うかといえば、つながりの「強さ」が違う。「てんてる大神さま」というような言い方はどこの家庭でもしたのだろうけれど、青山の家ではそう言っていた(口癖、とは違うけれど、通じるものがある)ということが、「事実」として、「事実」の強さとして動いている。共有される「口癖」があって、「風邪ひくから 早く寝な」という口調にもなる。みんなが同じことばを話している、と言えばいいのかも。
だから、
これは青山の感想なのだけれど、同時に、母やおとうと、書かれていない父の思いにも感じられる。いっしょにいるひと、ひとつ屋根のしたにいるひとのものになる。つられて、私もそのひとりになる。読んでいて、自然に、風の音を聞いている気持ちになる。
「ここがいいなあ」ということを、はっきりさせることばを私は持っていないのだけれど、こういう詩は好きだなあ。
*
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
青山かつ子「月夜」の感想をどう書けばいいか。
熱をだしたおとうとは
チャンバラの夢でも見ているのか
両手の指で輪を作り
刀のつば
刀のつば
とつぶやいている
となりのおクニさんの家に
富山の薬を借りに行く
月の道を
と昔の思い出が書き始められている。とくに「説明」があるわけではないが、昔の思い出と思ってしまう。「チャンバラ」とか「富山の薬」が、そう思わせるのか。「となりのおクニさんの家」という言い方がそう感じさせるのかもしれない。固有名詞の響き方がなつかしい。昔は固有名詞があたたかな体温といっしょに生きていた。だから「借りる」ということも自然にできたんだろうなあ。
ここから「固有名詞の体温」は、こう広がって行く。
澄んだ口笛が通る
あれは歌の好きなゆたかさんだ
「俺は北海道のタコ部屋で…」
が 口ぐせの
(タコ部屋には何十匹ぐらい蛸がいるのかなー)
「意味」的には唐突な展開なのだが、唐突と感じない。自然に感じる。「ゆたかさん」のことなんて、私は知らない。けれど知っている気持ちになる。「体温」があるからだ。「体温」は「口ぐせ」と言いなおされている。「口ぐせ」がわかるくらいに、青山は「ゆたかさん」を知っている。ただし、知っているといっても、すぐそのあとに(タコ部屋には何十匹くらい蛸がいるのかなー)ということばがやってくるくらい、いいかげんというか、ゆるいつながりだ。真剣に(?)知っているわけではない。
そういうところを通って、詩は「おとうと」に戻って行く。
母が額の手拭いを何度も替えている
おとうとの顔は
まだ赤い
「ゆたかさん」に比べると、母、おとうととの「つながり」は真剣だね。でも、青山にとってはどうか。
ちょっと違うかもしれない。
青山は、「ゆたかさん」のことを思う「ゆるさ(余裕)」がある。「すき」がある、と言ってみればいいのか。
その「ちょっと」には、母をおとうとにとられたという「嫉妬」のようなものがまじっているのかもしれない。
こういうことは、厳密に考えない方がいいだろうなあ。ことばにすると、だんだん変なことになってしまう。
「風邪ひくから 早く寝な」
母に急きたてられ
神棚のてんてる大神さまをちょっと見上げて
湯たんぽの寝床に入る
雨戸がなる
風がでてきたみたい
無造作に「こと」が進んで行くが、その無造作なところに、やはり余裕がある。「ゆるみ」ではなく、余裕というようなものがある。
他人(たとえば、「ゆたかさん」)の場合は「ゆるさ」だが、肉親には「余裕」。どこが違うかといえば、つながりの「強さ」が違う。「てんてる大神さま」というような言い方はどこの家庭でもしたのだろうけれど、青山の家ではそう言っていた(口癖、とは違うけれど、通じるものがある)ということが、「事実」として、「事実」の強さとして動いている。共有される「口癖」があって、「風邪ひくから 早く寝な」という口調にもなる。みんなが同じことばを話している、と言えばいいのかも。
だから、
雨戸がなる
風がでてきたみたい
これは青山の感想なのだけれど、同時に、母やおとうと、書かれていない父の思いにも感じられる。いっしょにいるひと、ひとつ屋根のしたにいるひとのものになる。つられて、私もそのひとりになる。読んでいて、自然に、風の音を聞いている気持ちになる。
「ここがいいなあ」ということを、はっきりさせることばを私は持っていないのだけれど、こういう詩は好きだなあ。
*
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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なお、私あてに直接お申し込みいただければ、送料は私が負担します。ご連絡ください。
「詩はどこにあるか」2019年1月の詩の批評を一冊にまとめました。
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オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(4)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
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