こんなことにならなかった?
自民党憲法改正草案を読む/番外359(情報の読み方)
2020年05月23日の読売新聞(西部版・14版)の1面。
「検事総長 辞めていれば」 検証/黒川氏辞職
という見出しで、「黒川賭けマージャン引責辞職」の裏話が書いてある。
読売新聞は、「こんなでたらめが起きている」と書きたいのか、稲田を批判したいのか、よくわからない。
見出しのことばは、記事のここからとられている。
「稲田氏がすんなり辞めてくれていれば、こんなことにならなかった」。政府高官の恨み節だ。
1面、2面と連動した記事を要約して補足すると、今年夏に定年退職する稲田に政府は早期退職を迫った。2月に黒川は定年を迎える。夏まで稲田が検事総長をつづけると、黒川は検事総長になれない。稲田は4月に開かれる国際会議を自分の引退の花道と考えていたので、早期退職を断った。そのために、政府は黒川の定年を延長するという方法をとった。そこから問題がややこしくなった。みんな稲田が悪い、ということらしい。
しかし。
稲田がたとえば1月に退職し、黒田が検事総長になっていたら、どうなったのか。
賭けマージャンの常習者が検事総長になっていたのだ。違法行為を取り締まる責任者が賭けマージャンという違法行為を常習者である、という事態が起きていたのだ。
こっちの方が大問題だろう。
黒川の賭けマージャンが発覚し、そのことによって検事総長が賭けマージャンの常習者である大不祥事が避けられたのである。
政府高官が誰であるか知らないが、政府にとっても、検察にとっても、「最悪の事態」は回避できたのだ。(もちろん、国民にとっても、である。)安倍や政府高官、検察は、むしろ、週刊文春のスクープに感謝すべきだろう。
しかし、それにしても読売新聞の記事は奇妙だ。
「菅さんが『やった方がいい』と言っている。仕方がない」
という安倍のぼやきを書き出しにして、記事が始まっている。一連の問題の発端が菅であり、安倍は関与していない、といいたいのだ。
記事のつづき。
黒川氏を高く評価していたのが、菅(略)だ。首相官邸は黒川氏の定年(略)を前に稲田伸夫・検事総長が辞任し、黒川氏が後任に就くシナリオを描いていた。だが、稲田氏が辞任を拒んだために、官邸は法解釈変更で慰霊の定年延長に踏み切り、泥沼にはまっていく。この間、首相が指導力を発揮することはなかった。
菅や他の人物が画策したが、安倍は何もしなかった。「ぼくちゃん、何も知らない」を読売新聞は追認している。安倍は悪くない、と。
しかし、「首相官邸」とは「人物」ではない。「首相」官邸の「首相」は安倍である。なぜ、安倍は「指導力を発揮することはなかった」ですむのか。だれが「主導力」をもっていたのか、菅なのか。菅は安倍よりを、権力の上に存在するのか。
これは、「とかげの尻尾切り」を繰り返すことで保身を図ってきた安倍が、いま、菅を「尻尾」として切り落とそうとしているということを「暗示」しているのか。
よくわからない。
しかし、安倍の「ぼくちゃん、悪くない。悪いのは、みんな他人」という姿勢は、これ以外の記事からもはっきり読み取ることができる。
同じ1面に、
黒川氏が辞職 首相陳謝/後任検事総長、林氏で調整
という記事の最後の部分。
野党は、黒川氏への訓告処分を見直し、懲戒処分とするよう求めた。首相は「検事総長が事案の内容、諸般の事情を考慮し、処分を行った」と説明するにとどめた。
処分は稲田が決定したことで、安倍は関与していない。そう主張している。きのうのブログで、私は、処分は稲田がした(稲田にさせた)と書き、そうすることで稲田追放をすすめるつもりなのだろうということを書いた。しかし、「事実」は違った。私は検事長の処分がどのように行われるか知らなかったが(多くの国民も知らないと思うが)、東京新聞(電子版)によると、処分決定は稲田がしたのではない。
https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020052201002195.html?fbclid=IwAR3MgC2yrX6fHdD2dgIyH4e24M2aQ3PmtU-nHiwWpZjd7Q0imOlJLQwf75Q
辞職した東京高検の黒川弘務検事長(63)に対する「訓告」処分を決めた過程について、安倍晋三首相と森雅子法相との間で、説明が大きく食い違っている。森氏は、内閣と法務省が実質的に決めたと説明。これに対し、首相は「検事総長が事情を考慮し、処分を行ったと承知している」と強調した。法務・検察内からは「首相の説明がおかしい」との声が上がっており、「軽い」と批判される訓告を巡り、首相答弁に疑義が出た。
検事長は、内閣が任命し、天皇が認証する「認証官」だ。任命権者は内閣で、その首長は安倍首相。国家公務員法では、懲戒処分は任命権者が行うと規定している。(共同)
処分は安倍がしたのだ。安倍が自分で「訓告」という軽い処分にしながら、その処分の判断の責任を稲田に押しつけている。
だいたい、稲田が「訓告にしたい」と言ってきたとしても、「賭けマージャンをやっていた検事長が訓告では軽すぎる。国民が許さない」と突き返すのが首相の仕事だろう。そうしないのは、黒川をかばうためである。さらに、黒川をかばうことで、黒川と安倍の間にある「知られたくない関係」の口封じをしているのだろう。
黒川の定年延長、次期検事総長にしようという計画に安倍がぜんぜん関与していないのだとしたら、黒川処分を厳しくした方が、安倍の「評価」は上がるだろう。
一連の問題の「責任」を菅に押しつけ、同時に、黒川もかばう。黒川をかばうことで、「ぼくちゃん、いつでも黒川の味方だよ」と恩を売っているのだろう。そして、その「見返り」を期待しているのだろう。
読売新聞には、まだ、驚くべき記事が載っている。26面。
黒川検事長/賭けマージャン3年前から/法務省調査「レート、高額とは言えず」
これは、何を言いたいのだろうか。「3年前から」は事実だろう。確認できるだけで「3年前から」ということであって、それ以前はしていなかったかどうか、それはわからない。どこで読んだのか明確ではないが(たぶん朝日新聞だったと思う)、朝日の社員は「月に2、3回」のペースで賭けマージャンをしていたという。完全なる「常習賭博」である。しかし、
川原隆司法刑事局長は、賭けマージャンのレートについて「社会の実情から必ずしも高額とは言えない」と説明。黒川氏は賭けマージャンを繰り返していたが、常習性についても「認められない」とした。
これは、川原を批判するための(こんなデタラメを言っている、と批判するための)記事なのか、それとも黒川を擁護するための記事なのか。私には判断しかねる。しかし、刑事局長がそういうのなら、一般の人が月に2、3回万単位の金が動く賭けマージャンをしても問題がないということになる。検事長が「訓告」なら、市民は「注意」だね。「今日がはじめてです、ごめんなさい」と言えば、なかったことにしてもらえるかな? 少なくとも、逮捕はされないなあ。黒川が逮捕されていないのだから。
こんなことでいいのかな?
安倍は、賭けマージャンを取り締まるのは警察の仕事。市民が賭けマージャンをしようが、レートがいくらだろうが、それを取り締まるかどうか、「ぼくちゃん、関係ない。ぼくちゃん、何も悪いことをしていない」と、ここでも言うだろうなあ。
しかし、ほんとに安倍に責任がないのか。安倍が、黒川の賭けマージャンを「訓告処分でいい」と言うから、こういうことが起きるのだ。直接関与していなくても、これから起きることに対して安倍には責任があるのだ。
安倍は、きっと「ぼくちゃん、何も悪いことをしていないのに、どうしてこうなったんだろう」と思っているのかもしれないが、「こうなった」のはすべて安倍の責任である。その自覚が完全に欠如している。
繰り返しておくが、「稲田氏がすんなり辞めてくれていれば、こんなことにならなかった」のではなく、稲田が辞めなかったから、賭けマージャン常習者の黒川が検事総長にならずにすんでいるのである。
「こんなことにならなかった」には、これからもっとたいへんなことが起きる、どうしよう、という不安が隠されているのかもしれないが。もしそうなら、この政府高官は、自分の身の上が心配でたまらない「正直者」ということになるが。
#検察庁法改正に反対 #安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位
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