黒川辞任の1週間(やっぱり読売新聞はおもしろい)
自民党憲法改正草案を読む/番外359(情報の読み方)
黒川辞任の1週間を読売新聞(西部版・14版)の1面(見出し)で振り返ってみる。
05月18日 検察庁法案 見送り検討/今国会 世論反発に配慮
政府・与党 近く最終判断
検察の独立 守れるか 東京本社社会部長 恒次徹(解説論文)
05月19日 検察庁法案 今国会見送り/政府・与党「定年特例」反発受け
首相「丁寧に説明」/今秋成立目指す
(05月20日 週刊文春「黒川検事長は接待賭けマージャン常習犯」報道)
05月21日 黒川検事長 辞任の意向/緊急事態中 マージャン報道
05月22日 黒川検事長が辞表/賭けマージャン認める/訓告処分
(05月23日 毎日新聞デジタル「安倍支持率27%」)
この一連の報道で、いちばんおもしろいのは、今回の「大報道」のスクープが読売新聞から始まったということだ。
なぜ、読売新聞なのか。
05月18日以前には、ツイッターで「検察庁法案改正に反対」の投稿デモが盛り上がり、読売新聞の18日の「世論反発に配慮」は、これを指している。しかし、私の記憶では、読売新聞は、イッターデモについては大々的には報道はしてきていない。なぜ、読売新聞はスクープできたのか。
週刊文春を読むと、おもしろいことが書いてある。(27ページ)
五月十七日、日曜日の午前十時過ぎ。自宅から、犬の散歩に出てきた本人を直撃した。
賭けマージャンについて質問しているのだが「こちらが何を聞いても無言を貫く黒川氏」。
賭けマージャンが報道されそうだと分かって、黒川は、このあと、それを安倍に報告しているのだ。(そういうことは、ここには書いていないが、後日、他の報道で黒川が安倍に報告した、という一文を読んだ記憶がある。)
ここからが「問題」なのだ。
読売新聞は、「黒川・安倍密談(相談?)」を政府関係者からリークされたのだ。「検察庁法案 見送り検討」という情報をリークされたのだ。この報道のあとでさえ、NHKは「21日に法案可決か」というニュースを流していた。つまり、情報は入り乱れていた。
なぜ、読売新聞は「リーク」先に選ばれたのか、と考える必要がある。
世論反発に配慮
この見出しがキーワードになる。たしかに「世論」に配慮したのだろうが、それは批判を緩和するための「方法」でもある。安倍の側近は(今井か?)、世論操作をするために読売新聞を選んだのだ。
実際に、「法案見送り」が報道されると、ネットでは「ツイッターデモの勝利」「新しい民主主義の動き」のような言動があふれた。
私は何でも疑う人間なので、そういう動きには賛同できなかった。うさんくさいし、安倍のほんとうの狙いは、もっと先、2025年を視野に入れているのだから、ここで「勝利宣言」をしてよろこんでいてはいけない、というようなことを書いた。
でも。
この「ツイッターデモの勝利」という歓喜で、少しツイッターをはじめ、SNSの熱気がおさまったところがある。
そのあとで、黒川の賭けマージャン、辞任、訓告処分とつづき、また盛りあがるのだけれど、ツイッターデモのような「大熱気」はない。有名人(?)が次々に、黒川訓告処分は甘いとツイッターし、その数が100万単位に増えているということは聞かないし、新聞が「有名人の一覧表」つきで訓告処分を批判しているという記事も見受けられない。
つまり。
安倍の「世論操作」は半分成功したのである。
きのう少し書いたのだが、こう考えてみるといい。
もし、改正法案が成立していたら、どうなるか。
検察庁法案改正→黒川検事総長誕生→賭けマージャン発覚→黒川辞任
こういう展開になれば、黒川がいま辞任に追い込まれるのとは、衝撃度が違う。
いまなら、「やっぱり黒川はうさんくさい男だ」で逃げきることができる。安倍はだまされたのだということができる。森友学園のとき、安倍は、鴻池を「うそつき」「詐欺師」というような批判をしなかったか。それで逃げきらなかったか。それと同じことができる。しかし、法案が成立し、黒川検事総長が誕生したあとでは、「だまされた」では逃げきれない。いまなら、「黒川を推薦した法務省が悪い、法相が悪い、他の人が悪い、ぼくちゃん、何もしていない」と強引に逃げきることができる。実際、安倍が責任を菅に押しつけようとしていることは、すでに23日の読売新聞に書かれている。
黒川の処分についても、安倍が決めることなのに、「稲田が決めた」とうそをついて批判をかわそうとしている。
そして。
そういう「世論操作」の結果として、毎日新聞の「世論調査」がある。「世論」の注目は黒川の処分「訓告」が妥当かどうかというところに向かっていて、なぜ逮捕しないのだ、逮捕しろというところへは集中しきれていない。
ツイッターデモの批判の対象であった「検察庁法改正」問題は、影が薄くなっている。安倍が何をもくろんでいたか、という追及が弱くなっている。読売新聞が「世論反発」というスクープを書いていなければ、少なくとも見出しで「世論反発」を早々とことばにしていなければ、「世論反発」はまだまだたまりつづけていたかもしれない。
「世論の反発」がいったん爆発して、エネルギーが減ったのだ。
安倍の支持率は27%に下がったが、まだ27%で踏みとどまっている。
ここに、私は、大きな問題が残っていると考えている。「リーク」された情報にとびつくマスコミの危険を感じている。
私は、これに似たスクープに、平成の天皇の「強制」生前退位(私は「強制」を補って考えている)があると考えている。2016年の参院選での自民大勝のあと、このまま安倍が憲法改正へ突っ走るのではないかという予測が流れた。その直後に、天皇の生前退位意向がスクープされた。(安倍寄りといわれた籾井NHKがスクープした。)
このとき、ネットでは反安倍派(護憲派)のひとたちが「これで、改憲は遠ざかった。皇室典範の改正などがあるので、すぐには改憲できない」と歓喜の声を上げた。私はこういうことには懐疑的だった。い(籾井NHKがスクープしたのだから、安倍に不利な情報ではないはずだ、と思ったのだ。)その後実際に起きたのは、ビデオメッセージで、天皇が天皇自身のことばとして「天皇には政治的権能はない」を二度言わされるということであった。天皇は憲法について発言できないと二度言わされたのである。安倍に利用されたのである。
世論の、安倍は改憲をもくろんでいる、警戒しないといけないという緊張が、あのとき一瞬ゆるんだのだ。今度のスクープも読売新聞であることを考慮に入れないといけない。きっと、何か目的があってスクープさせたのだ。
今回の「事件」との天皇の虚勢生前退位共通項は、安倍批判を「ゆるませる」(安倍批判派の「ガス抜き」をさせる)ということである。あるいは、油断させる、である。
平成の天皇の「強制生前退位」の一連の報道では、やはり読売新聞がとてもおもしろい情報を提供している。記憶で書くしかないのだが、皇室典範にもとづく会議のことを書いた記事があった。そのときの「席順」というのは皇室典範を読む限りでは「首相」は末席である。衆院議長や参院議長よりも下である。しかし、読売新聞は「イメージ写真」を掲載していて、安倍がいちばん上に大きく載っていた。安倍が主催しているイメージだ。それは安倍の欲望そのものを代弁している。
今回の18日のスクープも、安倍を追い込んでいるようにみせかけながら、安倍を救っているように見える。社会部長の論文は、ほんらいなら法案が廃案になったとき(あるいは、どんなにはやくても見送りが決定したとき)に書かれる内容である。それを「見送り検討」の段階で「世論」と結びつけて書いている。「世論」を持ち上げている。
読み方次第だが、読売新聞には、安倍の動き(裏工作?)を教えてくれる情報がたくさん書かれている。とてもおもしろいのだ。
#検察庁法改正に反対 #安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位
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