詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

瀬尾薫「ばみり」

2020-06-21 09:43:32 | 詩(雑誌・同人誌)
瀬尾薫「ばみり」(「折々の」50、2020年07月01日発行)

 瀬尾薫「ばみり」。「ばみり」とは、舞台での立ち位置などをテープなどで目印をつけること、らしい。註釈がついていた。「場を見る」ということか。専門用語というより、一種の「隠語」のようなものだろう。
 それを利用して、瀬尾は、こんなふうに詩を展開する。

蒲公英(たんぽぽ)色のテープの辺り
 こども
 自転車の補助輪をはずす

薄群青色のテープの辺り
 子ども
 熟語辞典をやぶく

 劇がどんなふうに展開しているのか。
 「たんぽぽ」と「こども」が「自転車の補助輪をはずす」の組み合わせは、子どもが補助輪なしで春の野を走り回る様子を浮かびあがらせる。そこにたんぽぽが咲いていなくても、こどもにとっては春の野なのだというよろこびを感じさせる。
 色が「薄群青」に変わって、「こども」が「子ども」に変わる。成長したのだろう。「熟語辞典をやぶく」には「反抗心」のようなものが感じられる。幼いときの「反抗期」ではなく、一段成長した後の反抗。向き合っているのは、親だけではないだろう。社会全体への怒り、辞典に象徴される強固な権威への怒りのようなものが芽生えている。

思色(おもいいろ)のテープの辺り
 大人
 靴音をたてて歩く

濃朽葉色のテープの辺り
 おとな
 自分の背中を鏡にうつす

 「思色」は、はじめて聞くことば。造語だろうか。「大人」と「靴音をたてて歩く」から想像すると、「思っていること/自分がここにいること」を知らせるために、わざと靴音を立てているのだろう。
 「熟語辞書をやぶく」「子ども」(たぶん少年)ではなく、その少年が成長した姿だろう。恋をしているのか。
 「蒲公英色」のように即物的ではないだけに、いろいろなことを想像させてくれる。「わからない」ことばには、想像力を駆り立てる力がある。
 「濃朽葉色」は、主役の男の晩年だろう。「朽葉」には、それだけで晩年が象徴されている。「じぶんの背中をうつす」は自分の過去を振り返る。
 男の人生の、それぞれの時間が象徴されていることになる。

 とてもおもしろい。真似をして、書いてみたい気持ちにさせられる。剽窃したい衝動に駆られる。こういう気持ちを起こさせる詩は、いい詩だ。

 残念なのは、「ドラマ」がいまひとつ明確ではないことだ。
 芝居(舞台)は、役者が登場する。役者は、それぞれの「過去」を背負って舞台に登場する。役者が「セリフ」に、役者の「肉体」で陰影を与える。
 その舞台での「役者の肉体の陰影」のようなものが、この詩には反映されていない。ストーリーがあるのだが「肉体」が不在である。
 「補助輪をはずす」(補助輪なしで自転車に乗る)「辞典をやぶく」「靴音をたてる」「背中を鏡にうつす」と「動詞」そのものは書かれているが、その「動詞」がひきおこしたひろがり(他人への影響)を感じさせる一行があれば、ドラマが活性化すると思う。
 たとえば、「二階の窓がひらく」「チャイムの音にあわせて学校の窓が夕日を反射する」「女が部屋の明かりを消す。シルエットが消える」「窓から落ち葉が入り込む」など。私の書いたことは安直すぎて、ドラマ(劇)になりきれていないが、芝居はたいてい対話でできているのだから、「対話」を感じさせるものがあると、とてもおもしろい作品に変わると思う。






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