カリフォルニアで大規模な山火事が起きている米国の政府機関・全米気候アセスメントが先週金曜日に人工的要因による気候変動が、米国の社会、経済に大きな影響を及ぼしているというレポートを発表した。レポートは今世紀の終わりには気候変動により数千億ドル(数十兆円)規模の経済的損失が発生するかもしれないと述べている。
1990年以降法律により4年に一度気候変動に関する調査レポートの発表が義務付けられていて、これはそれに沿うもの。
WSJによるとレポートは「人工的要因による気候変動は圧倒的でしかも力を強めている」と報じている。
人工的要因とは、森林伐採・舗装化など土地の利用方法の変化、地球温暖化ガスの排出、家畜によるメタンガスの排出などだ。
米国環境情報センターによると、米国の今年の気温は現在までのところ記録上10番目の高さだった。昨年はもっと暑くNASAによると1880年以降で2番めに暑かったということだ。
米国では天然ガスの利用が増えていることや車の燃費が改善したことで、化石燃料による温暖化ガスの放出は減少している。
米国農業省によると世界の炭素排出量に占める北米の割合は2004年の24%から2013年の17%に低下している。しかし地球全体としては炭素排出量は増加を続けている。
このレポートは地球温暖化傾向に懐疑的なトランプ大統領の意見とは対立するものだが、レポートに関して政府の干渉はなかったと当事者は述べている。
大規模森林火災が沈静化した後、米国では山火事の真犯人探しの議論が活発するのではないか?
その時このレポートは脚光を浴びそうな気がする。
コペンハーゲンの国連気候変動枠組み条約締結会議(COP15)に出席するオバマ大統領に強力な援軍が現れた。12月7日米国環境庁のLisa Jackson長官は「地球温暖化ガスは国民の健康と環境を脅かす」と発表した。
環境庁の発表は2007年の最高裁の決定(地球温暖化ガスはクリーン・エア法で定める大気汚染に該当するという決定)に呼応するものだ。最高裁の決定そのものは排気ガス削減を求めるものではなく、むしろ環境庁が地球温暖化ガス基準を策定することを認めるものだった。
環境庁は二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフロオカーボンなど6つのガスが人間の健康と環境に危害を与えると宣言した。環境庁は来年早々に自動車の新しい排ガス規制を導入するとともに石炭や化学プラント、石油精製所など地上の動かない温暖化ガス源にも規制を導入することが予想されている。
オバマ政権は「地球温暖化ガスに関する立法措置が望ましい」と上院に圧力をかけていたが、環境庁の動きは法律化を待たずとも、米政府が温暖化ガス削減に動くことができることを示した。FTによるとアナリストはこの動きによりオバマ大統領はCOP15における力を強めるだろうと判断している。
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私はここしばらく営業部隊に対して「来年の営業のポイントは環境保護、省エネルギー投資をいかにビジネスに結びつけるか考えることだ」とハッパをかけてきた(半分位の人間は眠ったような目で話を聞いているので誠に情けないが。)しかし米国環境省のこの動きはオバマ大統領に大きな力を与え、コペンハーゲン会議に大きなプラス材料になると考えている。
そうなると地球温暖化防止のために投資が大きなビジネスチャンスになるという話もホラ話でなくなると私は思っているのだが・・・・・
先週のエコノミスト誌は電気自動車を取り上げていた。記事は1995年にハーバード・ビジネススクールのジョセフ・L・バウアーとクレイトン・M・クリステンセンが作り出した「破壊的技術」という概念で電気自動車の将来性を示唆する。
「破壊的技術」とは「既存市場では必要な性能を持たないために受け入れられないが、新しい顧客に対して新しい価値をもたらす新製品を生み出すような技術」のことで、エコノミスト誌はデジカメと銀塩カメラの例で説明する。「はじめてデジカメが市場に出た時は、銀塩カメラより高く解像度は低かった。しかし二つの利点があった。撮影画像をその場で見ることができることと画像をコンピュータに取り込み転送できることである。それから14年、今では銀塩カメラを買うことは難しくなっている」
つまりエコノミスト誌は電気自動車はデジタルカメラになる可能性があるという訳だ。地球温暖化ガスを削減する上で自動車の排ガス規制は重要な課題だ。温暖化ガスの約1割は自動車の排ガスだ。景気低迷から先進国の自動車台数は大きな増加は見込めないものの、発展途上国では飛躍的な増加が予想される。エコノミスト誌によるとまもなく米国を抜いて世界最大の自動車大国になる中国は、2050年までに現在の全世界の自動車台数に等しい台数を保有するということだ。
日産のゴーン社長は2020年には新車の20%は純粋な電気自動車になっているだろうと予測する。またIDTechExという英国のコンサルタント会社は2025年には新車の3分の1は電気自動車になっているだろうと予想している。この傾向が続くと内燃機関による自動車はやがて写真フィルムのように時代遅れなものになるとエコノミスト誌はいう。そしてエコノミスト誌は自動車メーカーの努力だけではだめで、政府が電気自動車の保有を促進するような税金面の差別や「スマートグリッド」と呼ばれる送電網の整備が行う必要があると述べている。
これからは私の意見だが、デジカメを例に取るとかなり短いサイクルで買換えを強いられた。つまりカメラのエンジンに相当するCCD(電荷結合素子)の改良を中心に、カメラの性能がどんどん向上した(今はかなり高原状態に達したと思うが)ため、つい新しいカメラが欲しくなってしまうのだ。古いカメラは二束三文である。デジタル一眼レフの場合、カメラ本体の「機能的寿命」は短いが、光学器械である「交換レンズ」の寿命は長い。デジタル一眼レフのユーザは「交換レンズ」資産があるため、同じメーカーに縛られるということになる。
この関係を電気自動車に当てはめてみよう。電気自動車の要となるのはバッテリーである。バッテリーの性能は今後日進月歩で向上するだろう。日産が来年市場に投入する予定のリーフは一回の充電で160km走ることができるが、将来もっと性能の良いバッテリーが出ると時代遅れと感じるだろう。恐らく電気自動車の場合「車体や足回りは問題ないけれどバッテリーが時代遅れ」(カメラの場合はレンズは問題ないけれどCCDが時代遅れ)ということが起きる。
これを防ぐにはあらかじめ「バッテリーだけ新品に交換できる」ような物理的な仕掛けとファイナンス面の仕掛け(バッテリーをリースにする)を考えるような工夫が必要だ。また本当は総ての自動車メーカーのバッテリーに互換性があれば便利だ。なぜなら互換性があると「バッテリーステーション」のようなところで、空のバッテリーと充電済みのバッテリーを交換することで(ガソリン車の給油感覚で)、車を運転することが可能だからだ。
しかしこのようにはならないだろう。カメラの場合、他のメーカーのレンズと互換性があると便利なのだがマウントが違うため中々うまくいかない。同様に電気自動車の場合もバッテリーの互換性を求めることは無理かもしれない。何故ならメーカーはそれを「差別化」の材料にするからだ。
最近のエコノミスト誌にBiofoolsというタイトルの記事があった。Biofoolというのはエコノミスト誌の造語で直訳すると「植物バカ」だ。何故植物バカかというと、温室効果ガスの一つとされる二酸化炭素を削減する目的でバイオ燃料を作ろうとすると、よりたちの悪い亜酸化窒素を発生させてしまうことが最近の研究で分かってきたからだ。したがって「バイオ燃料」biofuelではなく、「植物バカ」biofoolという訳だ。
植物は生長過程で大気中の二酸化炭素を吸収して育つ。とうもろこしなどから作られたバイオ燃料を燃焼すると二酸化炭素が発生するが、その二酸化炭素は大気中から吸収したものだから差し引きゼロというのがバイオ燃料推進の根拠だ。
ところがノーベル賞受賞者クルッツェン博士が2007年にとうもろこし等を栽培する過程で発生する亜酸化窒素N2Oが二酸化炭素削減効果を相殺するというレポートを発表した。これは議論を呼ぶレポートだったが、最近国際科学会議が発表したレポートは、クルッツェン博士の説を指示するものだった。つまりバイオ燃料は地球温暖化を緩和するよりも悪化させると結論付けたのである。
亜酸化窒素は二酸化炭素の300倍!も地球温暖化効果を持つという。植物を栽培する時、窒素肥料を施すが、バクテリアが窒素肥料を分解して亜酸化窒素(麻酔に使う笑気ガスである)を発生させる。エコノミスト誌は「とうもろこしのように根の浅い植物は年間数ヶ月しか窒素を吸収しないので、亜酸化窒素をより多く発生させる」という専門家の意見を紹介していた。
これから亜酸化窒素の話は大きな話題になりそうだ。先進国は向こう数年間でバイオ燃料への依存率を5%程度以上に引き上げる計画だが、国際科学会議のレポートを受けて大議論が起きるだろう。
バイオ燃料についてはエコノミスト誌は、Theory does not always traslate into practice.と述べていた。「理論はいつも実用につながるとは限らず」という程度の意味だ。代替燃料についてはこれからも色々なアイディアが出てくるだろうが、実用の程を見極めるのは大変そうだ。
それにしてもこのTheoly・・・という英語、外国でゴルフをしてミスショットをした時などに使えそうな表現である。