今週金曜日(3月3日)に総務省が1月の全国消費者物価指数を発表する。これは日銀の量的金融緩和政策解除の重要な判断材料になる。日銀の金融政策変更の影響を思惑して今週は株式・外為市場等不安定な動きをするだろうが、こういう時は少し落ち着いて少し先の動きなど考えてみたいものだ。
まず足元の日本の景気だがこれは良い。まず昨年のGDP成長率だがエコノミスト誌によるとエコノミスト達は2.8%と予想している。(なお政府統計は信頼できないとのことだ)これはG7諸国の中で米国についてで2番目であり、昨年10-12月に関しては日本の成長率が米国を上回っている。また昨年の最終四半期の固定資本財投資は年率換算7.2%である。また最終四半期の個人消費は年率換算3.2%の伸びを示している。
また個人住宅需要も東京のみならず、大阪・名古屋でもピック・アップしつつある。デフレ脱却が始まりつつあるので、日銀は早ければこの3月にも超緩和政策に終止符を打つのではないかという観測が内外の金融市場に広がりつつある。
ところでその影響はどのようなものだろうか?ウオール・ストリート・ジャーナル紙は最近の記事の中で次のように述べる。
- リーマン・ブラザース・ニューヨークの世界全体の固定利付債チーフストラテジスト・マルベィ氏は「世界第2の経済大国日本の超緩和政策の解除は向う3,4年の間最大の話題になるだろう」と述べる。
- もし日本の金利が上昇すれば、海外に投資されている日本からの資金は日本に戻される可能性がある。また既に日本株に投資している外人投資家はより広い日本の資産クラスに投資を始める可能性がある。
- 前述のマルベィ氏は日本の金利上昇は「日本の個人投資家が米国資産から離れるので、米国の金利が上昇しドルが下落する可能性がある」「その結果日本で個人消費が伸び、経常収支の黒字幅が減り、世界の経済成長を高める」と言う。
- しかしバンク・クレジット・リサーチ社のストラテジストは日銀の政策変化による影響については多くの不確実なことがあると言う。例えばキャリートレード(金利の低い円を借りて金利の高い他の通貨の資産に投資する取引)をどれ位投資家が利用しているか?ということについても誰も良く分からないのである。
- また日銀が量的緩和政策を完全に廃止するのにどれ位の時間をかけるのか?あるいは何時日銀が金利をあげるのか?金融引締サイクルは短いものなのか長く続くのか?といったことはまだ明らかではない。前述のストラテジストは「もっとも起こりそうなことは相対的に円滑なプロセス」だと言う。
- ワシントンベースの日本人アナリスト斉藤氏は「日本政府は巨額の債務を抱えているので短期金利を1%以上に上げるような引締政策については力のある財務省の激しい反対を招くだろう」と言う。
私が日銀に近い筋の金融機関の人から2週間程前に聞いたところでは、当座預金の残高目標をまず現在の35兆円から10兆円-15兆円少ない20兆円-25兆円に持って行きたい意向であるという。短期金利の当面のターゲットは0.1%で、このレベルはゼロ金利の範囲に入るというものだ。
ところでこのことの日本の金融業界に与える影響はどのようなものだろうか?実は20兆円という金額は日本国内のコマーシャル・ペーパーの発行量にほぼ等しい金額である。つまり金融緩和期は都銀を中心とする金融機関が「余資」を使って事業会社やその他金融機関が発行するコマーシャルペーパーを購入していた。この資金がはげるということで市場ではコマーシャル・ペーパーの発行コストが上昇している。しかし落ち着いて考えてみると、決済等のため本当に必要な日銀当座残高は6兆円程度と言われているので20兆円程度の資金が日銀当座預金にあるとすればそれはまだまだ超緩和なのである。
0.1%という金利いや1%という金利にしても世界の中では極めて低い金利である。「キャリートレード」に十分使える金利である。
将来、今年の春先のことを思い出す時があれば「神経質になったけれど大したことはなかった」ということで終わるかもしれない・・・という気がしないでもない。むしろそれが日銀の目標かもしれない・・・
一方株等はムードで動くものである。例えば金利上昇は一般的には銀行にとって売りシグナルなのだろうが、私は今回の場合は買いシグナルだろうと思っている。というのは金利が上昇しても預金には当座や普通預金の様にゼロまたは実質ゼロ金利の預金が相当あるので、銀行のコストはそれ程上昇しない。一方貸出レートはより市場レートに連動するので銀行の利鞘が増えるという予想だ。国内景気が堅調なのも銀行セクターには良い情報だ。ということで銀行セクターはホールドということになるのだろう。もっともこの様な思惑が当たるかどうかは知らないが、金融政策の転換でメリットを受けそうなセクターなどを想像してみるのも頭の体操にはなるだろう。
いずれにしても今回の超金融緩和政策からの転換は極めて漸進的なものだということは間違いのない判断かと思う。それだけにゆで蛙にならない様に気をつける必要はあるかもしれないが。