金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

中国人労働者の賃金上昇は世界経済にプラス

2010年07月31日 | 社会・経済

今週のエコノミスト誌はトップに「中国の工場で賃金と抗議が高まっている。これは中国にも世界経済にも良いことだ」という記事を載せている。

記事によると中国の労働力の底辺を支える出稼ぎ労働者の月収は米国の20分の1強の197ドルだ(1年前に較べると17%以上上昇しているが)。2007年の中国の労働配分率は53%で1990年の61%より下がっている。また米国の配分率は約3分の2なのでかなり低い。

エコノミスト誌はまず企業利益を減らして、賃金を上昇させることは、投資に過度に依存した中国経済を消費依存にシフトする観点から好ましいことだと評価する。

そして次に中国人労働者の賃金が上昇することは欧米にとっても良いことだろうと述べる。ある推計によると、中国の低賃金により作られた商品が輸入されることで、米国の家計は1世帯当り年間1,000ドルの利益を得ているというから、中国の賃金が上昇することが欧米にプラスであるという論理は奇妙に見えるかもしれない。中国の賃金上昇はインフレを世界に輸出することになるかもしれないからだ。

しかし金融危機の発生の結果世の中は変わり、今やデフレの方がインフレよりも大きな脅威となっている。OECD諸国の失業者は47百万人になり、労働力は世界経済を支えるものではなくなっている。今世界に欠けているものは、意欲的な労働者ではなく、意欲的な消費者である。

中国の賃金が上昇することは、中国の外貨準備を減らし消費を高めるので、米国が要求し続けている人民元の引き上げと同じ効果を持つだろう。

エコノミスト誌は中国で消費が20%伸びると米国の輸出が250億ドル増え、20万人の雇用が創造されるだろうと推計している。そしてそれは世界経済が完全雇用に向かうことの助けとなると述べる。

また外国企業と消費者は中国沿岸部の安い労働力を失うかもしれないが、安い労働力は中国内陸部やインドには豊富にある。

☆  ☆  ☆

エコノミスト誌が述べるように中国の消費が2割増えると米国の雇用が20万人増えるとしても、リーマンショックで失われた雇用700万人に較べると大きな数字ではない。しかし中国人労働者の生活水準が上昇し中国が世界の工場から世界の消費地に変わっていくという潮流は着目するべきだ。

生活水準が向上する中国消費者をターゲットとする日本企業の動きも活発だ。例えば「バーモントカレー」などを中国で販売しているハウス食品は今年の売上を倍増させると述べている。

商品力のある日本企業にはドンドン中国に高品質の商品を売り込んで貰いたいものである。そして日本企業が元気になるとともに中国からインフレを輸入したいものである。いささか情けない話であるが、さもないと日本はデフレから抜け出ることが難しそうだ。

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米銀、大量の社債を発行

2010年07月30日 | 金融

ファイナンシャル・タイムズによると、最近JPモルガンチェース、US Bancorp、ゴールドマンザックス、モルガンスタンレーなど大手米銀が大量の社債発行に動いている。例えばミネアポリスを拠点とするUS Bancorpは金利2.45%で10億ドルの社債を発行した。5年の米国債の流通利回りは1.7%程度なので、スプレッド75BP程度での起債だが、金利の絶対水準で見ると銀行が発行した債券としては史上最低レベルだ。

米銀は歴史的な低金利を利用して、固定金利で資金調達することができた訳だが、FTは「最近の債券発行はファンドマネージャーからの非公式なreverse inquiriesが引き金になった」という証券業界の幹部のコメントを紹介している。Reverse inquiries逆紹介とは、投資家が資金運用のため発行体に起債を促す行為を指す。米国の投資家が大手銀行の社債に投資意欲を示したことは幾つかのことを示唆している。

第一に投資家が米国経済の低成長と低金利がかなり持続すると判断していることだ。次に金融改革法の成立と銀行の堅調な業績発表により、投資家が金融セクターに自信深めてきたということだ。次に低金利の資金調達が可能になったことで米銀の業績回復が更に進むと考えられる。

ムーディーズのアナリストは米銀は今年満期を迎える3,720億ドルの債務の内2,000億ドルをすでにリファイナンスしていると推定している。一方欧州では今年期日を迎える4,500億ユーロの内、4割しかリファイナンスが進んでいないとアナリストは見ている。

もっとも欧州でも銀行のストレステストの結果、改善の兆しは見えている。スペイン第二の銀行BBVAは今年4月以降始めて社債を発行した。

☆  ☆  ☆

FTはモルガンスタンレーのグレゴリー・ピーター氏の「資金を必要としない銀行は起債することができる。しかし資金を必要とするより小さな銀行は恐らく起債することができないだろう」という言葉を紹介して記事を結んでいる。

毒舌と機知で人気があったコメディアンBob HopeはA bank is a place that will lend you money if yo can prove that you don't need itと言っている。「銀行とはあなたがお金を必要としないことを証明できるならお金を貸してくれる場所である。

度重なる金融危機を経て今では銀行もまたお金が必要でないことを証明しないと資金を調達できなくなったということだろうか?

これでは中々信用収縮は回復しないだろう。我々も低成長が更に続くことを前提に生活設計と投資戦略を立てるべきということだろうか?

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世界の中で日本の死刑を見ると・・・

2010年07月29日 | 社会・経済

法相就任以来死刑執行にサインをしてこなかった千葉法相が死刑執行にサインをし、昨日執行に立ち会ったということで死刑の問題がちょっと話題になっている。日本では死刑の存続を認める声が強いが、世界的には死刑を廃止する傾向が強い。アムネスティ・インターナショナルのホームページによると、世界の3分の2以上の国が法律によりまたは運営により死刑を廃止している。また死刑を存続させている58の国も大半は死刑を実行していない。

一番死刑が行われたのは中国だ。ただしその数は正式には発表されていないがエコノミスト誌は中国で刑死した人の数はそれ以外の総ての国の刑死者の合計を上回るという。

2009年の刑死者の数が分かる国について見ると日本が7、米国が52、イランが388以上、サウジアラビア69以上、イラク120以上、イエメン30以上、ベトナム9以上がおもなところだ。

欧州連合が死刑に反対するヨーロッパではアムネスティ・インターナショナルが記録を取り始めて以来始めて死刑執行がなかった。というのは今まで死刑を執行してきたベラルーシが始めて死刑を行わなかったからだ(死刑判決はでている)。

以上のような状況から死刑執行数が多い国・地域は、中国、中東地域、米国であることが分かる。中国を除く東アジア諸国ではそれ程死刑は執行されておらず~タイが2件、ベトナム9件、シンガポール1件、バングラデシュ3件、北朝鮮、マレーシアは若干~、日本はこの地域ではやや多い方に属するだろう。

死刑の是非については、その文化圏の人間観や法慣習が影響を与えている。欧州連合は「生命の絶対的尊重」の観点から死刑廃止を訴えている。一方中東諸国では「目には目を」のハンムラビ法典の伝統が生きていると思われる。

ところで1年程前にブログで書いたが「死刑を執行する方が懲役刑を科すよりもコストが高い」という研究が米国でなされていた。http://blog.goo.ne.jp/sawanoshijin/d/20090314

死刑の是非をコストアプローチで決めるのは如何なものか?という気はするが、一つの論点ではあろう。またその研究によると死刑は必ずしも凶悪犯罪の抑止力にならないことも論じられていた。

私は今のところ個人的には死刑存続論に立っている。つまり世の中には死を持って償うしかない犯罪もあると考えているのである。ただ死刑の犯罪抑止効果等については内外の実証的な研究をもっと研究してみたいと考えている。

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日本株の配当利回り、米国株を上回る見通し

2010年07月28日 | 株式

ファイナンシャル・タイムズによると、少なくとも1980年以降では初めて日本株の配当利回りが米国株のそれを上回る見通しである。ソシエテジェネラルのレポートによると、今年の日本株の配当利回りと米国株の配当利回りは2.1%に収斂し、来年には日本株の配当利回りが米国株を上回る見通しだ。

また野村證券の推定では、S&P500の今年の暦年ベースの配当利回りは1.9%でTopixの2011年3月期配当利回りは2.2%になる。

国債との利回り格差を見ると日本株の配当利回りは10年国債より1%程度高い。10年の米国債の利回りは3%程度なので、こちらは国債利回りが1%程高い。日興アセットのグローバル・ストラテジスト・Vail氏は「日本の長期金利は米国より低くて、通貨は弾力性があるので、米国株に較べると日本株は相対的に魅力的に見える」と述べている。

もっとも配当利回りの点から日本株が割安に見えるかも知れないが、必ずしも米国株に較べて日本株の価値が高いとは限らないとFTは述べる。

その第一の理由は米国では自社株買いが活発になっているからだ。企業は配当以外に自社株買いで利益を株主に還元しているので、配当利回りだけに注目すると誤解する可能性がある。

次に金融危機の影響で米国企業特に銀行は、配当を急減させ自社株買いも減少させた。「昨年は配当に関しては史上最悪の年だったが、今年はもっと良さそうだ」とS&Pのシニアアナリストは述べている。

更に投資家は予想「益利回り」Earnigs yeild(一株当りの純利益を株価で割ったもの。株価収益率の逆数)に注目しているが、米国株の益利回りは足元で6.5%、向こう12ヶ月で7.9%になると予想されている。

最後にFTは高配当株に注目する日本の小型投資家は5月以降買い越しているが、日本経済はデフレの最中にいるので、国際的な投資家はまだ日本株に賭けるより国債を持つ方を選好するかもしれないと結んでいる。

☆  ☆  ☆

全般的にみると先進国の株で大きなキャピタルゲインを狙う時代は暫く(あるいはかなり長い間)こないだろう。キャピタルゲインは新興国株式で狙い、日本株は配当狙いで持つというのが、個人投資家としては無理のない投資姿勢ではないだろうか?

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売上微増・利益急増の米企業をどう読むか?

2010年07月28日 | 社会・経済

昨日(27日)米国のコンファレンス・ボードが発表した7月の消費者信頼感指数は6月の54.3(6月分は52.9から上方修正)から、50.4に下落した。これは2月以来最低の水準で雇用環境の悪化が原因だ。コンファレンス・ボードが5,000人の消費者に調査をかけたところ、職を得ることが困難と答えた人の割合は6月の43.5%から45.8%に増えている。

ニューヨーク・タイムズはムーディーズのシニア・アナリストSweet氏のThis suggests hiring remains few and far betweenという言葉を紹介している。Few and far betweenは「とれもまれだ」という慣用句だから、雇用はとてもまれだということになる。

雇用が増えないのは米企業が、利益捻出のため人件費の削減を続けているからだ。

ニューヨーク・タイムズはIndustries find surging profit in deeper cutsという記事で企業サイドの状況を説明している。それによるとS&P500社の内、第2四半期の業績を発表した175社は平均で6.9%の増収だったが、利益は42.3%増えている(トムソン・ロイターによる)。また1割以上の企業が減収にも関わらず増益だった。「産業全体が新しい利益水準でオペレーションを行っている」とゴールドマン・ザックスの株式アナリストは述べている。

2002年のITバブル崩壊不況では、利益率は4.7%に落ち込んだ。2009年に利益率は5.9%まで低下したが、ニューヨーク・タイムズはアナリストは来年までに利益率は8.9%という記録的な高さになると予想している。

この違いは企業が人件費を圧縮していることによるとクレディスイスのチーフ・エコノミストは述べている。人件費を圧縮しているのは、減収企業だけではない。増収増益企業においても、関心事は高い利益率を維持することで、不況時に減らした従業員を元に戻すことではない。景気回復が本物かどうか自信が持てないので、企業は雇用を増やすことができないのである。

そして雇用が増えないので消費者は安心して消費を増やすことができず、景気の本格的回復に自信が持てないというのが米国経済の現状だろう。

雇用と設備投資を抑制した結果、米国企業が積み上げた現金は過去半世紀で最高のレベルに達したという。

米国企業の好決算が持続すると読むか、消費の腰折れで息切れすると判断するかは考えどころである。

ニューヨーク・タイムズはGluskin Sheffのチーフ・エコノミストRosenberg氏のコメントを紹介していた。「米国経済は軟弱地盤の上にいるだろうが、軟弱度合いはかって予想されたほど軟弱ではないだろうというのが一般的な見方である」

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