今週のエコノミスト誌はトップに「中国の工場で賃金と抗議が高まっている。これは中国にも世界経済にも良いことだ」という記事を載せている。
記事によると中国の労働力の底辺を支える出稼ぎ労働者の月収は米国の20分の1強の197ドルだ(1年前に較べると17%以上上昇しているが)。2007年の中国の労働配分率は53%で1990年の61%より下がっている。また米国の配分率は約3分の2なのでかなり低い。
エコノミスト誌はまず企業利益を減らして、賃金を上昇させることは、投資に過度に依存した中国経済を消費依存にシフトする観点から好ましいことだと評価する。
そして次に中国人労働者の賃金が上昇することは欧米にとっても良いことだろうと述べる。ある推計によると、中国の低賃金により作られた商品が輸入されることで、米国の家計は1世帯当り年間1,000ドルの利益を得ているというから、中国の賃金が上昇することが欧米にプラスであるという論理は奇妙に見えるかもしれない。中国の賃金上昇はインフレを世界に輸出することになるかもしれないからだ。
しかし金融危機の発生の結果世の中は変わり、今やデフレの方がインフレよりも大きな脅威となっている。OECD諸国の失業者は47百万人になり、労働力は世界経済を支えるものではなくなっている。今世界に欠けているものは、意欲的な労働者ではなく、意欲的な消費者である。
中国の賃金が上昇することは、中国の外貨準備を減らし消費を高めるので、米国が要求し続けている人民元の引き上げと同じ効果を持つだろう。
エコノミスト誌は中国で消費が20%伸びると米国の輸出が250億ドル増え、20万人の雇用が創造されるだろうと推計している。そしてそれは世界経済が完全雇用に向かうことの助けとなると述べる。
また外国企業と消費者は中国沿岸部の安い労働力を失うかもしれないが、安い労働力は中国内陸部やインドには豊富にある。
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エコノミスト誌が述べるように中国の消費が2割増えると米国の雇用が20万人増えるとしても、リーマンショックで失われた雇用700万人に較べると大きな数字ではない。しかし中国人労働者の生活水準が上昇し中国が世界の工場から世界の消費地に変わっていくという潮流は着目するべきだ。
生活水準が向上する中国消費者をターゲットとする日本企業の動きも活発だ。例えば「バーモントカレー」などを中国で販売しているハウス食品は今年の売上を倍増させると述べている。
商品力のある日本企業にはドンドン中国に高品質の商品を売り込んで貰いたいものである。そして日本企業が元気になるとともに中国からインフレを輸入したいものである。いささか情けない話であるが、さもないと日本はデフレから抜け出ることが難しそうだ。