日本株は先週まで急進して~このため筆者は追加投資のタイミングを失っているのだが~いたが、今日(8月29日)は原油高等を材料にかなり売り込まれている。これからしばらくの間は原油問題と総選挙にらみで少し神経質な相場が続くかもしれない。
さてエコノミスト誌は最近「世界経済は原油価格が上昇しても成長し続けるか?」という記事を発表している。その要旨は後述のとおりだが、一つは原油高は相当期間続くということともう一つは米国の住宅バブルと住宅担保融資のお陰で米国消費者は原油高に耐えているというものだ。原油問題について理解を深めることは当面の投資スタンスを決める上で大切なのでポイントを紹介しよう。
- 1バレル当りWTI価格は2001年11月の18ドルから今週(8月22日の週)最高値67ドルまで上昇している。この価格上昇規模は1973年-74年、1978年-80年、1989年-90年の高騰に匹敵する。過去の原油高騰時の後には世界的な景気後退とインフレが起こったが、現在は世界のGDPは成長トレンドにあり、インフレ率も低い。どうして世界経済は今回は上手く進んでいるのだろうか?
- これについて幾つかの一般的な説明がある。最も単純なものは、価格上昇速度が緩やかなので家計や企業が原油価格上昇を吸収する時間的余裕があるというものだ。この説明はもっともらしいが総てを説明するものではない。原油価格上昇のペースがどうあれ、この価格上昇はアメリカ人にとって1ガロン当り3ドルの負担を与える。
- もう一つの説明は実質価値において原油は恐ろしい程高いものではないというものだ。事実米国消費者物価指数で調整した場合、バレル当り90ドルになって1980年のレベルに達する。しかし現在の価格(消費者物価調整後)は既に1974年、1990年の価格を上回っている。
- 3番目の議論は現在の経済は石油よりは知的パワーとマイクロチップスで動かされており、エネルギー効率化の結果、GDP対比で見て1970年代半ばの半分程度しか石油を使っていないというものだ。このことは原油価格上昇が生産に与える痛手が少ないということを意味する。しかし発展途上国はまだ貪欲に原油を消費している。例えばインドや韓国はGDP対比で70年代半ばより原油消費量が多くなっている。
- IMFのモデルによれば、1バレル当り10ドルの原油価格上昇で翌年の世界全体の生産高は0.6%減少する。従って30ドルの原油高は約2%の成長率鈍化になる。ただしこれは主に供給サイドの障害から発生した過去の石油ショックをベースにしたものである。しかし現在の原油高は中国をはじめとするアジア諸国と米国での需要増が原因である。昨年の世界の原油消費量の増加は過去30年間で最大であった。過去の供給ショック型のモデルは需要牽引型の価格上昇には当てはまらない。過去の供給ショック型の場合は、原油価格が上昇すれば消費量が下落し、供給が正常レベルに戻ると価格は迅速に下落した。
- 基本的事実は発展途上国の原油需要が高いため、原油の均衡価格が上昇しているのである。ゴールドマン・ザックスのアナリストは原油価格は来年平均で68ドルになり、次の5年間は60ドルに留まると見ている。長期的にはこのような高い原油価格が続けば原油探索と供給量拡大が起こり、最終的には価格下落につながるがそれには時間がかかる。
- 恐らく過去の原油高騰時と今回の最大の違いはインフレと金利の反応であろう。過去原油価格上昇はインフレを招き、早晩中央銀行は金利を引き上げだ。今回について見れば原油価格上昇により、7月の米国インフレ率は3.2%と前月(2.5%)より増加しているが、コアインフレ率は2%から2.1%に僅かに上昇したのみである。実際世界的に見てインフレ率は異常に低い。これは部分的には中国その他の国からの安い商品の供給があることによる。従って過去に較べて中央銀行は金利を低い水準に保っていることができる。
- 低金利の結果、米国やその他幾つかの国では住宅バブルが起きており、それを利用した不動産担保借入と貯蓄減少が起きている。原油高は「税金」のような効果を消費者に持ち可処分所得を減少させるのだが、米国では不動産担保融資で相殺されている。このことは原油高で欧州の方が米国より国内消費が抑制されていることを説明している。というような理由で当面原油高は余り害になっていないが住宅価格の下落が起きると原油高がモロに響くリスクを内包している。