金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

原油価格上昇を住宅バブルが救う?

2005年08月29日 | 金融

日本株は先週まで急進して~このため筆者は追加投資のタイミングを失っているのだが~いたが、今日(8月29日)は原油高等を材料にかなり売り込まれている。これからしばらくの間は原油問題と総選挙にらみで少し神経質な相場が続くかもしれない。

さてエコノミスト誌は最近「世界経済は原油価格が上昇しても成長し続けるか?」という記事を発表している。その要旨は後述のとおりだが、一つは原油高は相当期間続くということともう一つは米国の住宅バブルと住宅担保融資のお陰で米国消費者は原油高に耐えているというものだ。原油問題について理解を深めることは当面の投資スタンスを決める上で大切なのでポイントを紹介しよう。

  • 1バレル当りWTI価格は2001年11月の18ドルから今週(8月22日の週)最高値67ドルまで上昇している。この価格上昇規模は1973年-74年、1978年-80年、1989年-90年の高騰に匹敵する。過去の原油高騰時の後には世界的な景気後退とインフレが起こったが、現在は世界のGDPは成長トレンドにあり、インフレ率も低い。どうして世界経済は今回は上手く進んでいるのだろうか?
  • これについて幾つかの一般的な説明がある。最も単純なものは、価格上昇速度が緩やかなので家計や企業が原油価格上昇を吸収する時間的余裕があるというものだ。この説明はもっともらしいが総てを説明するものではない。原油価格上昇のペースがどうあれ、この価格上昇はアメリカ人にとって1ガロン当り3ドルの負担を与える。
  • もう一つの説明は実質価値において原油は恐ろしい程高いものではないというものだ。事実米国消費者物価指数で調整した場合、バレル当り90ドルになって1980年のレベルに達する。しかし現在の価格(消費者物価調整後)は既に1974年、1990年の価格を上回っている。
  • 3番目の議論は現在の経済は石油よりは知的パワーとマイクロチップスで動かされており、エネルギー効率化の結果、GDP対比で見て1970年代半ばの半分程度しか石油を使っていないというものだ。このことは原油価格上昇が生産に与える痛手が少ないということを意味する。しかし発展途上国はまだ貪欲に原油を消費している。例えばインドや韓国はGDP対比で70年代半ばより原油消費量が多くなっている。
  • IMFのモデルによれば、1バレル当り10ドルの原油価格上昇で翌年の世界全体の生産高は0.6%減少する。従って30ドルの原油高は約2%の成長率鈍化になる。ただしこれは主に供給サイドの障害から発生した過去の石油ショックをベースにしたものである。しかし現在の原油高は中国をはじめとするアジア諸国と米国での需要増が原因である。昨年の世界の原油消費量の増加は過去30年間で最大であった。過去の供給ショック型のモデルは需要牽引型の価格上昇には当てはまらない。過去の供給ショック型の場合は、原油価格が上昇すれば消費量が下落し、供給が正常レベルに戻ると価格は迅速に下落した。
  • 基本的事実は発展途上国の原油需要が高いため、原油の均衡価格が上昇しているのである。ゴールドマン・ザックスのアナリストは原油価格は来年平均で68ドルになり、次の5年間は60ドルに留まると見ている。長期的にはこのような高い原油価格が続けば原油探索と供給量拡大が起こり、最終的には価格下落につながるがそれには時間がかかる。
  • 恐らく過去の原油高騰時と今回の最大の違いはインフレと金利の反応であろう。過去原油価格上昇はインフレを招き、早晩中央銀行は金利を引き上げだ。今回について見れば原油価格上昇により、7月の米国インフレ率は3.2%と前月(2.5%)より増加しているが、コアインフレ率は2%から2.1%に僅かに上昇したのみである。実際世界的に見てインフレ率は異常に低い。これは部分的には中国その他の国からの安い商品の供給があることによる。従って過去に較べて中央銀行は金利を低い水準に保っていることができる。
  • 低金利の結果、米国やその他幾つかの国では住宅バブルが起きており、それを利用した不動産担保借入と貯蓄減少が起きている。原油高は「税金」のような効果を消費者に持ち可処分所得を減少させるのだが、米国では不動産担保融資で相殺されている。このことは原油高で欧州の方が米国より国内消費が抑制されていることを説明している。というような理由で当面原油高は余り害になっていないが住宅価格の下落が起きると原油高がモロに響くリスクを内包している。
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「嫌韓流」から思う

2005年08月29日 | 国際・政治

最近会社の同僚A君から「嫌韓流」(けんかんりゅう)というマンガ本を借りて読んだ。これはマンガ本ながら「マスコミが隠している韓国の実情を書いている」ということで人気があり、A君によれば中々手に入らないということである。

「嫌韓流」は大学の2つのサークル、つまり韓国の言い分を主張するサークルと日本の言い分(本の中では歴史的事実)を主張するサークルが幾つかのテーマ(たとえば日韓併合問題)について激論を戦わせ、「事実」に立脚した「日本の言い分サークル」が「韓国の言い分サークル」を論破するという構成を取っている。

私自身この本の主張=「日本の言い分」が総て正しいかどうか判断する材料(=歴史的事実に関する信頼できる複数の資料)を持っている訳ではないので、この本の主張が総て正しいと断じることはできない。ただし多少の判断材料を持っている「日韓併合問題」に関する主張から類推すればそれ程偏った主張を行なっているとは思わない。

ところでこの本を読んで私が今一番関心を持っていることは「韓国人の歴史的事実を無視した極端なまでの愛国心とその裏返しの反日感情は国の発展段階における一時的現象なのか?それとも永続するものなのか?」ということである。

実は我々日本人も戦前は「根拠のない選民意識」を植え付けられ、世界を相手に戦争した。この点について最近読んだ「続・日本軍の小失敗の研究」から少し引用してみよう。

「我々日本人は両極端に走りすぎ、中庸の精神といったものからあまりに無縁である」    戦前の日本人は、欧米に肩を並べるほどの工業力、社会基盤といったものをまったく持っていなかったにもかかわらず”我々は一等国民である”と胸を張っていた。そのため隣国の人々を当然見下すことになる。・・・・・それが太平洋戦争の敗戦によって一挙に打ち砕かれると、今度は一転して卑屈なまでに自分の国と国民全体を貶めることに専念する。

太平洋戦争に関してもう一つ重要なことを述べれば、日本は戦果(特に負けた場合)について国民に対してウソの報道をすることが極めて多かった。第二次大戦中最も事実を正確に国民に伝えたのが英国でついで米国、ドイツも比較的正確な事実を国民に報道していたらしい。ウソをついていた点では日本とイタリアが最悪ということである。このことは何を意味するのだろうか?一つは「本当に強くて自身がある国は国民にウソをつかない」ということが言えるし、指導者が真に国民を信じている国は国民にウソをつかないともいえる。

またこれは私見だが、儒教文化に染まった東アジアの特徴として「観念」が先行し「現実の直視」を軽んじる傾向があると思っている。従って日本・韓国に共通する傾向として「観念先行」ということがあげられるが、韓国の方が日本より儒教への染まり具合が大きいのでより「観念化」する傾向が強いと言えるだろう。

ところで今日日本の政府やマスコミが「国民に真実を伝えているかどうか?」という点になると、少なくとも欧米一流国に較べると甚だ心もとないといわざるを得ないのである。

ここでジャーナリズムの元祖であるウオルター・リップマンの言葉を思い起こそう。

ニュースと真実は違う。ニュースは一つの出来事が起こったことを知らせる合図であり、真実は「隠された事実を表面に出し、それらを相互に関連付けて、人間がそれに基づいて行動できるように現実の情景を作る」ことだ。

日本のマスコミはどうも「時流に迎合する」傾向が強過ぎて、個々の事実の奥に流れる員実の追求に欠ける。例えばバブル時は株が天井知らずに上がるかの様に報じる一方、株が下がりだすと底なしに下がるかの様に報じる。これに対して欧米の一流経済紙(誌)の見方はもっと冷静なものだ。

「嫌韓流」は韓国人が現実を直視する姿勢と中庸の姿勢に欠けると断じるが、持って「他山の石」とし我々も再度自分を振り返る必要があるだろう。それにしても韓国人が「現実を直視することが出来る」様になるには、日本人の例から考えても甚だ時間を要することなので、日韓の相互理解というのは簡単なことではないだろうというのが一つの結論である。

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100円ショップとデフレ脱却

2005年08月24日 | 株式

ファイナンシャルタイムズに目を通していたら「日本の100円ショップの閉鎖が続いているが、これもデフレ脱却の兆し」という書き出しの記事に出会った。記事の概要は後程紹介するが、言われてみると100円ショップにも変化が出ている様だ。最近100円ショップに行く用事もないので、生活実感として100円ショップがどう変った良く分からないが、マスコミに出たところではローソンが5月に始めた100円ショップを早くも見直すという話がある。

ところで100円ショップの大手といえばダイソー(大創)だが、同社の矢野社長は次のようなことを言っている。

  • 小売業は消費者にすぐ飽きられるので長続きするものではない。
  • アメリカでは百年以上続いた会社はほとんどない。これが資本主義というもので、資本主義時代を生きる我々は会社はつぶれるということ以外考えてはいけない。

特に後者はやや極論かもしれないが、少なくとも我々金融界に身を置いてきたものは、実際に会社が潰れたかどうかは別として、会社が換骨奪胎する程変化したことは殆どの人が経験したはずだ。そういう意味では「会社が潰れる」ということを考え方の基本に据えることは、中々肝の据わったものの見方であろう。

さてファイナンシャルタイムズの記事のポイント:

  • 日本中で100円ショップの閉鎖が続いている。(今度の週末にでも街を歩いて実際に見てみよう!!)
  • 100円ショップは資産バブル崩壊後、買い物客がより倹約に気を使うようになったので人気を博していた。日本では失われた10年の間(物価が上昇しなかったので)「100円」の値札を付け替える必要が殆どなかった。
  • しかし現在ではある100円ショップは閉鎖され、他の店は自身を取り戻した消費者の要求に応えるべくより高い商品群へシフトしている。このシフトは日本経済で進行している広い変化の一つの兆候と見られる。

以下は個人的な見解であるが、日本経済が正常な状態に戻ってくるとすれば小売業もより周辺的なものより本格的なものが、ピックアップする可能性が高いのではないかと見ている。

個別株投資のためにも週末は色々な店を覗いてみよう!

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ウオーム・ビズにも乗ってみますか?

2005年08月23日 | 株式

ここ数日夕方に吹く風にふっと涼しさを感じる様になった。季節は正直なものでさしもの猛暑も峠を越えた様だ。それにしても今年はクール・ビズで助かった。ネクタイを締めないと汗をかく量が随分違う。クール・ビズが助けたのは暑がりのサラリーマンだけではない。小売業も随分恩恵を受けた様だし、内需拡大にもいささかの効果がある様だ。この辺りのことについては後程、ウオール・ストリート紙の記事を紹介するとして、今日の新聞には今秋からは「ウオーム・ビズ」運動を環境省が推進すると書いてあった。新聞によれば二酸化炭素排出量を削減する効果は暖房を抑える方が冷房を抑えるよりはるかに高いそうだ。環境効果もさることながら、日本のビジネスマンが少しお洒落に気を使う様になることは大変良いことだと思う。人生、楽しくなくてはいけないのだから・・・

さて以下はウオール・ストリート紙の抜粋

  • クール・ビズの副次効果として、小売業売上が拡大している。統計データが得られる6月について見れば小売業売上は前年同月比3%増加している。例えば百貨店では大丸が4.8%増加と好調。
  • 好調な売上に助けられ、百貨店株も急進。クール・ビズ・プログラム開始以来、伊勢丹株は22%、大丸は21%、ファースト・リテイリングは39%株高になっている。この結果小売業株のP/Eレシオは33倍になり、トピックス平均の24.5倍を上回っている。
  • アナリストとファンドマネージャーは小売業株がこれ以上急上昇する可能性はないが、急落する可能性もないので「ホールド」を薦めている。ただし彼等はクール・ビズに始まる売上拡大トレンドが持続することを予想している。
  • アナリスト達は「クール・ビズの効果は予想より大きく」「消費全般がより明るい様相を呈している」と言う。
  • クール・ビズは日本の男性にとって単なる「支出の理由付け」以上のものを生み出した。それはダークスーツファッションから抜け出すチャンスである。

この記事と「ウオーム・ビズ」を関連付けると、「ウオーム・ビズ」の副次効果として男性の秋冬衣料市場が活気を帯びる可能性があるだろう。特に昨今の株高が持続すると、財布の紐を少し緩めても良い気になるというものだ。

皆でウオーム・ビズも応援しようではないか?

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資本市場の調整機能は狂っているのか?

2005年08月22日 | 金融

資本市場が正しく機能しているならばリスクの高い投資にはそれに見合うプレミアムがついてくるはずである。ところが現在の世界の市場で起きていることは必ずしもリスクとリスクの対価であるプレミアムがバランスしていない。世界の有り余る資金が運用機会を求めて動き回る結果、リスクプレミアムが異常に低くなっていると私は判断している。エコノミスト誌は「資本市場の交通信号は狂っているのか?」(Traffic lights on the blink?)という記事で現在の資本市場の問題点を指摘している。以下ポイントをまとめてみよう。

  • 米国の経常赤字は今年8千億ドル以上に拡大すると予想される一方、ドイツ、日本、中国の経常黒字は記録的なレベルに達する見込みだ。また富裕国全体の国家債務のGDPに対する割合は過去最高水準に達している。また多くの国で家計はかってない債務レベルに達している。
  • 多くのエコノミスト達は裏に潜んでいる構造的な要素~例えば人口動態とか生産性の違い~でこれらの傾向を説明しようよしている。しかしもっと悩ましいもう一つの説明は世界経済を均衡に戻す価格の信号がねじれているというものだ。
  • もっとも明らかな例、米国経常収支から始めよう。理論的には急速に経常赤字が拡大する場合、投資家は通貨価値の下落リスクが増大するのでより高い金利を求める。金利が高くなる結果、国内消費が落ちて外部負債が減少するのである。これは1980年前半米国の経常赤字が急増して時に起こったことである。しかし今回は調整メカニズムは動かなくなっている。アジア諸国の中央銀行が米国国債を買っていることもあり、ここ数年間米国の金利は下落している。低金利が米国の住宅バブルと強い消費支出を助ける限り、経常赤字が目立って減少することはない。
  • 金融不均衡を修正するもう一つの機能も消失しているとフランスの証券会社IXISは指摘する。過去、消費者借入と消費が急拡大した時中央銀行はインフレを抑えるため金利を引き上げた。しかし、今日インフレは中国やその他低賃金国からの安い商品の流入により抑えられているし、インフレ懸念は中央銀行に対する信任により引き止められている。
  • 第三の壊れた回路は金利と成長率の間の関係である。米国は高い成長率にもかかわらず、実質国債利回りは日本より低くユーロ圏とほぼ同じレベルである。このことが成長性ギャップを持続させる。
  • またユーロ圏で総ての国が名目上同一金利を取る結果、インフレ率が低く成長率が低いドイツやイタリアはスペインやギリシアのような急成長国よりも高い実質金利を負担することになる。これは本来低成長国と高成長国に必要なものと全く反対の結果になっている。
  • またユーロ圏が単一レートであるため、各国の財政の健全性が異なるにもかかわらず、国債の金利に殆ど差はない。1990年代にはイタリア国債はドイツ国債より450bp利回りが高かったが、現在では公的債務の対GBP比率はイタリアがドイツの倍のレベルであるにもかかわらず、国債の利回り格差は僅か20bpである。
  • 金利と債券利回りは世界経済の交通信号である。それらは経済に何時進むべきで何時止まるべきかを告げている。既に見た様に交通信号が壊れている場合、世界経済が混乱し悪い場合は崩壊するリスクがある。
  • (本文にある図は省略するが)1995年には国の債務額(対GDP比)と国債の実質利回りの間には相関関係があったが、現在では相関関係は殆どなくなっている。
  • 世界的な低金利の結果、投資家はあらゆる種類の高い利回りを求めるため、リスクプレミアムが低下している。この結果恐らく経済的な不均衡を生じているのである。しかし避けることが出来ない調整が起こる時、それはより痛みを伴うものになっている可能性が高い。遅かれ早かれ交通信号は赤になるだろう。
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