金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

国際金融システム改革の方向感

2010年06月30日 | 金融

先週末のG20会合で、財政赤字削減や銀行規制について玉虫色とはいえ、方向感に関する合意ができたことから、市場は少し安定すると予想した人もいたのではないだろうか?だが事実は逆で、BISが銀行システムの脆弱性を指摘したこともあり、市場にはリスク回避ムードが広がっている。

ファイナンシャル・タイムズは国際金融システム改革の論点を「資本Capital」「流動性Liquidity」「課徴金Levies」「大き過ぎて潰せないToo big to fail」の4つに分けて整理していたので紹介したい。

【資本】Capital

資本の内どれだけが株式で、どれだけが債券で調達されるべきか?ということがバーゼル委員会の基本的な論点。ティアワン・キャピタルは中核株式と利益剰余金に狭められる予定である。

リスクウエイト調整後の資産をベースにどれだけのコア・ティアワン自己資本比率を求めるか?というのが次の課題。ティアワン・キャピタルの定義にもよるが、6-8%の自己資本比率が予想される。水準は11月のソウルG20で定められる予定。

資本適格性Eligibilityについて、バーゼルⅢは何を資本項目から除外するべきか検討している。一部所有する子会社の株式や繰延税金資産は「まな板の鯉」である。

【流動性】Liquidity

銀行はどの水準の流動資産を確保するべきかという問題。

短期の流動性はバーゼルⅢで強化される予定。銀行は厳しいストレスシナリオの下で30日間持ちこたえる流動資産の確保が求められるだろう。

長期的な流動性については、Net stable funding retionの観点から論じられるべきであったが、G20の議題からひそかに取り除かれた。市場は特にユーロ圏においては、過度に中央銀行の資金供給に依存している。

【課徴金】Levies

G20は銀行のバランスシートをベースとした国際協調ベースの銀行課徴金を諦めたように見える。しかしこれは個々の国が独自で課徴金を課すことを止めるものではない。スウェーデンとドイツは0.04%の課徴金を発表している。英国は来年0.04%の税金を課す予定で2012年には0.07%に引き上げる予定。米国はまだ負債に対する0.15%の課税を求めている。

【大き過ぎて潰せない】Too big to fail

政府によって「大き過ぎて潰せない」と判断されている銀行は、規制当局の詳細な調査を受けている。

緩衝となる資本について二つのアイディアがでている。一つは大銀行については小さなライバル銀行よりより高い中核自己資本比率を求めるというもの。もう一つは「条件付資本」Contingent capitalというアイディアだ。これは危機発生時に債務から株式に切り替えられる債務である。同様のアイディアとして"Bail-ins"というアイディアがある。これは「銀行の債務者に損失を分担させる」というものだ。

「整理と立ち直り計画」はクロスボーダー取引を行う大手銀行について今年末までに要求されている。これは銀行の崩壊時に清算を容易にするためのものだ。政治家は国際的な衝撃を最小化するため、国内の破産法との調整を研究している。

以上が国際金融システム再構築の論点となるところだ。

☆  ☆  ☆

以下は余談である。銀行の危険性について米国第三代大統領トーマス・ジェファーソンはI believe that bankng institutions are more dangerous to our liberties than standing armies.「私は銀行は我々の自由にとって常備軍より危険であると信じている」と警句を発している。私はこの警句がどのような文脈の中で述べられたのか知らないが、巨大化・複雑化した銀行に対する適切な規制が行われないと将来「銀行は文民統制に服さない常備軍と同様、国家の危険要素である」という警句を発する人がでないとは限らないと感じている。

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上げ相場はアクティブで、下げ相場はパッシブで

2010年06月30日 | 株式

6月29日のファイナンシャルタイムズに、FundQuestが30年にわたるアクティブファンドとパッシブファンドのパフォーマンスを比較した研究のサマリーが紹介されていた。

記事によると、同社は米国の投信31,991について(ここが重要なのだけれども失敗したファンドも含めて)、1980年から今年2月まで、73のカテゴリー(モーニングスターの区分による)について調査を行った。

それによると、リスク調整後・報酬控除後で「強気相場ではアクティブファンドは市場平均を0.66%上回り、弱気相場では0.68%下回った

FundQuestの調査責任者によると「アクティブマネージャーは、市場平均より少なくリスクを取る傾向がある。何故なら一定期間市場平均を下回るパフォーマンスをあげると職を失う可能性があるからだ」と説明する。

73のカテゴリーの中の22のカテゴリーでアクティブファンドはパッシブファンドを上回り、23のカテゴリーではパッシブファンドがアクティブファンドを上回った。残りは同じパフォーマンスだった。

なお一般的には流動性に低い小型株ではアクティブファンドが推奨されているが、パッシブ・アクティブ間に差がなかったことに調査者は驚いている。

アクティブファンドが高いパフォーマンスを上げているのは、小型成長株・通貨・アジア太平洋分散株・貴金属などである。一番アクティブファンドがアウトパフォームしたのは新興国の債券ファンドと小型成長株ファンドだった。「リサーチが余り行われていない分野では、アクティブマネージャーは市場平均よりある種の優位性を持つ」と調査責任者は述べている。

一方アクティブファンドのパフォーマンスが悪かったのは、一般消費財やラテンアメリカ株だ。これらは循環色が強い株だ。非循環銘柄では業績予想が循環銘柄より容易であるが、循環銘柄はギャンブルのようなものだと調査責任者は述べている。

☆   ☆   ☆

この米国の実証的な研究が日本の投信にそのまま当てはまるかどうかは知らない。だが参考になるところは多い。例えば景気循環に左右される銘柄の業績予想は難しいというようなことだ。また弱気相場ではパッシブファンドの方がパフォーマンスが良いというのも参考になる点だろう。

これから暫く~恐らく米国の好調な企業業績が雇用拡大につながることを確認するまで~世界の株式市場は下落・停滞を続けるだろう。損切りをする局面もでるかもしれない。その時パッシブを切るかアクティブを切るか・・・という判断材料にもなるだろうと私は考えている。

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【数字は語る】61%の人が名古屋場所開催に反対

2010年06月29日 | うんちく・小ネタ

野球賭博問題で大揺れに揺れる相撲協会。毎日新聞の世論調査によると61%の人が名古屋場所開催に反対ということだ。他のメディアの世論調査でも6割の人が開催に反対している。

名古屋場所が開催されなくなると困るのはNHKだ。15日間の地上波(毎日3時間)、BS(毎日5時間)の穴があく。NHKから5億円の放映料を貰っているといわれている相撲協会も困る。そこで琴光喜らへの処分で名古屋場所開催に漕ぎ付けたい・・・というところだが世間の目は厳しい。

相撲界と裏の社会のつながりは今に始まったことではない。ワイフは「昔大鵬の化粧回しに山口組の田岡さんの名前が入っていたことを覚えている」と言っていた。

ところで今日は上場企業の総会がピークの日だった。昔は上場企業と総会屋の癒着が問題になっていたが、商法改正等で企業が総会屋との関係を絶ち始めたの1982年のこと。関係遮断にはかなり長い時間を要した。

NHKの放映料や財団法人という税制面の優遇措置に守られて、財政面では裕福な相撲協会や力士が裏の世界のターゲットとなってきたことは想像に難くない。

相撲協会の健全化には思い切って外部から外科医を投入し、透明性を高める必要がある。

打ち身に絆創膏をはって無理な出場をして、傷を悪化させるより、一場所休んで根治を図るべきなのだろう。

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クルーグマン教授、恐慌の懸念を示唆する

2010年06月29日 | 社会・経済

今日(6月26日)の日経新聞は、社長100人に対するアンケート調査で「二番底懸念が3ヶ月前の調査より6%減って34%に後退」という回答だったと報じている。先週末に終わったG20のムードも前回より楽観的だったようだ。

そんな中でクルーグマン教授がニューヨーク・タイムズにThe Third Depression「第三の恐慌」というエッセーを寄せ、各国政府の緊縮財政策が今回の不況を恐慌に陥れる危険性があることを指摘していた。

不況と恐慌の違いは何か?ハリー・トルーマン元大統領は It is a recession when your neighbor loses his job; It is a depression when you lose yours.と述べている(箴言集 Keep calm and Carry onより)。

「あなたの隣人が職を失うのがリセッション(不況)であなたが職を失うのがディプレッション(恐慌)だ」

第1の恐慌は1873年に起こり、第2は有名な大恐慌(1929-31年)で、今我々は第3の恐慌の初期段階にいるのではないかとクルーグマン教授は述べる。失業率は少し前ならば、破滅的と考えられたレベルに高止まりし、低下する兆しがない。そして米国・欧州は日本スタイルのデフレの罠に向かっている。

このような状況下、クルーグマン教授は各国政府が積極的な景気刺激策を取らないことに不満を示し、在世緊縮派の勝利は数千万人の失業者を招くと警鐘を鳴らしている。

☆   ☆   ☆

二番底がくるのか?我々は恐慌に入り口にいるのか?それは分からない。

1千メートルの山の上から見える風景は限られている。だが3千メートル、4千メートルの山に登ると視野は広がる。人里は晴れていても遠くの空に黒雲が渦巻いているのを見ることができる。

クルーグマンはその高みからものを見ているのだろうか?

答はもう少し経たないと分からない。

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日本は財政赤字削減目標の例外というが・・・

2010年06月28日 | 社会・経済

先週末G20が終了した。採択された声明によると、先進国は2013年までに財政赤字を半減させ、16年までに国債残高のCDP比率を安定させることを目指す。これは明確なデッドラインというよりは、一種の期待目標を示したものだ。国内資金への依存率が圧倒的に高い日本についてはこの目標に合致することを望まないと明確に記載された。

ブルンバーグによると菅首相は「新内閣が定めた新成長戦略や財務運営計画が歓迎するという形で積極的に受け止めてもらった」と評価していた。財政赤字削減目標については日本、米国、インドなどが反対し、結果的には「各国それぞれのやり方に任せる」ということになったので、G20が日本の財政運営を積極的に受け止めたかどうかは私には分からないが。

日本の財政運営が評価されたかどうかは市場に~しかも今の市場だけではなく将来の市場に~聞くしかないだろう。

☆  ☆  ☆

ニューヨーク・タイムズにGeorge Mason大学のTyler Cowen教授が面白いエッセーを寄稿していた。それによると米国では「大きな政府」への反発が強く、ハイエクの「隷属への道」がアマゾンのノンフィクション分野でベストセラーになっている。ハイエクは経済面の統制は全生活に及ぶようになり、選択の自由は失われると警告を発している。財政タカ派に支持されるゆえんだろう。しかしCowen教授は「心配しなくても米国はこれ以上大きな財政支出を続けることはできない。政府は支払勘定がたまっていることを認識しているからだ」と述べる。つまり高邁な経済理論より、金があるかないかが現実の政策を規定するということだ。

G20で日本は財政赤字目標削減の足かせをはめられなかった。だがこれはG20の他の国が「日本の赤字は日本国民が背負っている。当面日本の財政赤字が国際資本市場のかく乱要因にはならないから眼をつぶっておこう」という話である。財政赤字を放置すればやがて日本がギリシアになることは避けられない。

財政赤字の延長線で今後脚光を浴びてくる(既に十分問題になっているが)のが、各国の公的・私的年金の問題、特に債務超過の問題だろうと私は考えている。幾つかの理由がある。まず先進国が財政支出を見直す中で、公務員年金の水準や拠出金額が問題になってくる。次に財政健全化が優先されるので、経済成長率や長期金利の水準が低下する。このことは運用収益の低下と年金債務の現在価値の拡大により、年金財政を大きく悪化させる。また平均寿命が延びているので、年金債務が拡大していることも大きな問題だ。

日本はG20で例外扱いされたことで一息ついている余裕はなさそうだ。

コメント (1)
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