先週末のG20会合で、財政赤字削減や銀行規制について玉虫色とはいえ、方向感に関する合意ができたことから、市場は少し安定すると予想した人もいたのではないだろうか?だが事実は逆で、BISが銀行システムの脆弱性を指摘したこともあり、市場にはリスク回避ムードが広がっている。
ファイナンシャル・タイムズは国際金融システム改革の論点を「資本Capital」「流動性Liquidity」「課徴金Levies」「大き過ぎて潰せないToo big to fail」の4つに分けて整理していたので紹介したい。
【資本】Capital
資本の内どれだけが株式で、どれだけが債券で調達されるべきか?ということがバーゼル委員会の基本的な論点。ティアワン・キャピタルは中核株式と利益剰余金に狭められる予定である。
リスクウエイト調整後の資産をベースにどれだけのコア・ティアワン自己資本比率を求めるか?というのが次の課題。ティアワン・キャピタルの定義にもよるが、6-8%の自己資本比率が予想される。水準は11月のソウルG20で定められる予定。
資本適格性Eligibilityについて、バーゼルⅢは何を資本項目から除外するべきか検討している。一部所有する子会社の株式や繰延税金資産は「まな板の鯉」である。
【流動性】Liquidity
銀行はどの水準の流動資産を確保するべきかという問題。
短期の流動性はバーゼルⅢで強化される予定。銀行は厳しいストレスシナリオの下で30日間持ちこたえる流動資産の確保が求められるだろう。
長期的な流動性については、Net stable funding retionの観点から論じられるべきであったが、G20の議題からひそかに取り除かれた。市場は特にユーロ圏においては、過度に中央銀行の資金供給に依存している。
【課徴金】Levies
G20は銀行のバランスシートをベースとした国際協調ベースの銀行課徴金を諦めたように見える。しかしこれは個々の国が独自で課徴金を課すことを止めるものではない。スウェーデンとドイツは0.04%の課徴金を発表している。英国は来年0.04%の税金を課す予定で2012年には0.07%に引き上げる予定。米国はまだ負債に対する0.15%の課税を求めている。
【大き過ぎて潰せない】Too big to fail
政府によって「大き過ぎて潰せない」と判断されている銀行は、規制当局の詳細な調査を受けている。
緩衝となる資本について二つのアイディアがでている。一つは大銀行については小さなライバル銀行よりより高い中核自己資本比率を求めるというもの。もう一つは「条件付資本」Contingent capitalというアイディアだ。これは危機発生時に債務から株式に切り替えられる債務である。同様のアイディアとして"Bail-ins"というアイディアがある。これは「銀行の債務者に損失を分担させる」というものだ。
「整理と立ち直り計画」はクロスボーダー取引を行う大手銀行について今年末までに要求されている。これは銀行の崩壊時に清算を容易にするためのものだ。政治家は国際的な衝撃を最小化するため、国内の破産法との調整を研究している。
以上が国際金融システム再構築の論点となるところだ。
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以下は余談である。銀行の危険性について米国第三代大統領トーマス・ジェファーソンはI believe that bankng institutions are more dangerous to our liberties than standing armies.「私は銀行は我々の自由にとって常備軍より危険であると信じている」と警句を発している。私はこの警句がどのような文脈の中で述べられたのか知らないが、巨大化・複雑化した銀行に対する適切な規制が行われないと将来「銀行は文民統制に服さない常備軍と同様、国家の危険要素である」という警句を発する人がでないとは限らないと感じている。