新聞広告で「家族という病」を見かけた。「『家族はすばらしい』は欺瞞である」という帯封のタイトルが気になったので読んでみた。
下重さんの「家族観」は、職業軍人だった父親の戦後の変節に対する不信感、という個人的な体験がベースになっている。このような体験がない(私も体験がないが)読者にとっては、反論がでそうな本だろうという気がする。
しかし「離婚・相続争い・ドメスティックバイオレンス・親の過干渉」等家族に絡む問題で悩んできた人(幸いなことにこちらの経験もない、と私は思っている。もっとも子供たちが過干渉に悩んでいるかどうかは不明だが)には、大いに共感を持たれる本だと思う。
私自身の感想としては、下重さんの意見に100%賛成とは言わないまでの大いに共感するところがある本だったという印象を持っている。
この本が発刊(3月25日)される少し前に、ブログに「相続争いとオレオレ詐欺、日本の特徴?」http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=8ad00a746d052098e3c13ccad0696854&p=2&disp=10というエントリーを書いた。
ブログの内容と「家族という病」の意見は重なる部分が多いので、この本の幾つかの文章を紹介する。
「(振り込め詐欺について)どうして家族からの頼みだと、疑いもせず聞いてしま。うのか?家族を信頼していて、家族の危機は自分の危機と考えて、救わねばと思ってしまうからだろう。・・・欧米ではこうした犯罪は成立しにくいのではないか。・・・うるわしい親子愛なのかもしれないが、理性も深い考え方もなく慌てふためき、行動に走ってしまう。欧米と決定的に違うのは、個人主義と家族主義の違いである。」
「(相続について)親が子に期待するから、子もまた親に期待する。一番顕著なのが、親の遺産相続だ。どこかで期待している。・・・親の財産は親一代で使い切るのが一番いい。子に余分な期待を持たせてはいけない。・・・・親の生前は、仲の良いきょうだいと思われていても、欲の絡んだ争いが、相続人のみならず、つれあいやら子供まで巻き込んで、延々と続く。」
要は日本の「家族主義」が「振り込め詐欺(オレオレ詐欺)」と「相続争い」の根底にあるという見方だ。この本の中に「家族主義」とは何か?という直接の定義はない。ただし下重さんは「家族団欒の名の下に、お互いが、よく知ったふりをし、愛し合っていると思いこむ。何でも許せる美しい空間・・・。そこでは個は埋没し、家族という巨大な生き物と化す。」という表現で、否定的にとらえている。
そして「家族団欒という幻想ではなく、一人ひとりの個人をとり戻すことが、ほんとうの家族を知る近道ではないのか。」と結論付けている。
私は3月初めに出版した「インフレ時代の人生設計術」(アマゾンKindle版)で「人生の目的は人それぞれだが、誰しも納得のいく生き方をしたいと思っているはずだ。納得のいく人生を送るためには、自立性が必要だ。・・・自立は孤立や唯我独尊を意味しない。自立した個人による共同作業やチームワークが必要で、それはもたれ合いを意味しない」と書いた。
もし下重さんの本を先に読むことができたら、この部分の表現はもっと直截的に「家族とは自立した個人による共同作業の場である」と断じたと思う。
一般に家族主義という言葉は「家父長的原理や情義的人間関係が、家族の外の社会集団に浸透した意識・行動体系」を指すが、それは個人の自立と鋭く対立する場合がある。家族や社会を病にしないためには、個の自立ということを見つめる必要がある、という点で私は下重さんと同意見だと考えている。
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最近出版した電子本
「インフレ時代の人生設計術」 B00UA2T3VK
「人生の山坂の登り方・降り方」 http://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00LYDWVPO/
「英語の慣用表現集」 http://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00LMU9SQE/