今日(10月2日)の読売新聞朝刊一面に「手書きが義務の『自筆証書遺言」パソコンで作成OKに…遺言書活用へ省力化、法務省方針
という記事が出ていました。
2018年の民法改正により、自筆証書遺言の財産目録はパソコンで作成・添付が認められましたが、本文は対象外、つまり自筆で書かないといけなかったのです。
記事によると「法務省は現在の手書きに加え、パソコンやスマホなどを使った遺言書の作成を認める方針」で「月内にも有識者会議を設置し、民法改正の具体的な内容を詰める」ということです。
民法改正には法制審議会での意見集約やパブリックコメントを集めるといったプロセスが取られますので、どれ位の速度で進むかは分かりませんが、遺言書のデジタル作成が認められることは、この分野で先進国に数十年遅れている日本に多少明るい兆しが見えることになるでしょう。
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私は2018年の民法改正の前に相続学会の理事をしていて、その時「自筆証書のパソコン作成」を提案していたのですが、他の理事さんや学会員の賛同を余り得ることができませんでした。
「遺言書のパソコン作成に反対する」人の表面的な反対理由は、パソコンを使えば本人以外でも簡単に遺言書を作成できる~つまり遺言書が偽造されるリスクが高い~というものでした。
しかしこれはまったく馬鹿げた反対理由にもならない理由です。何故なら世界中で「手書きで遺言書を作成している国は日本位」だからです。
タイプライターの使用が当たり前の欧米では100年以上前からタイプライターで遺言書を作成しているでしょうし、パソコンが普及し始めた1990年代からはパソコンで遺言書は作成さています。
パソコンを単にワードプロセッサーとして使うのではなく、「遺言書作成アプリ」で穴埋め方式で簡単に遺言書が作成できるようになっています。
もし「パソコンを使うと遺言書が偽造される恐れが多い」ということであれば、欧米では偽造遺言書が横行しているはずですが、そのような話は聞きません。欧米には悪いことをする人が少なく、日本人は遺言書を偽造する悪人が多いということでしょうか?
相続学会のメンバーが「遺言書のパソコン作成に反対した理由はそれにより仕事を失う」可能性が高かったからだと私は考えています。
公正証書遺言はもとより自筆証書遺言の作成についても司法書士や行政書士など士業の人の飯のたねなのです。
ところが「遺言書作成アプリ」のようなツールができて、簡単に遺言書が作成できるようになると彼らは飯のたねを失うことになります。だから彼らは遺言書のパソコン作成に反対しているのです。
このような状況は変わっていないはずですから、有識者と呼ばれる人々が遺言書のパソコン作成に無条件に賛成するかどうか私は懐疑的です。
ただ2018年当時と現在では、2つの点で大きな違いがあります。
一つはマイナンバーカードに埋め込まれたICチップを使って、公的個人認証ができるようになった点です。
もう一つは人工知能は発達です。
人工知能を活用した「遺言書アプリ」を開発すれば、かなりの人の遺言書問題を解決することができると私は考えています。
もっとも「遺言書アプリ」で解決できるのは、相続財産や相続人の関係がシンプルな場合だけです。相続財産が多岐にわたる場合や相続人の関係が複雑な場合、あるいは遺留分を侵害するような財産分与を行う場合などは、専門家のアドバイスを受け、公正証書遺言を作成するべきなのです。
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さてざっとみたところ他の新聞では大きな記事に取り上げられていないようなので、この話、読売の観測記事かもしれません。