昨日市場の注目を発表した経済指標は米国の12月の耐久消費財受注の4.6%の上昇だった。ブルンバーグによるエコノミスト達の予想値が1.6%だったから、米国の景気回復に神経質になっている債券トレーダーを慌てさせたようで、10年国債指標銘柄は一時2%越えまで売られた。この金利水準は昨年4月以降初めてのこと。もっとも引けは1.97%だった。
もう一つ着目された指数は「既存住宅販売契約指数」だ。これは原語(英語)ではIndex of pending home salesという。売買契約は締結されたけれども引渡しがされていない住宅件数を指数化したもので日本のマスコミは「中古住宅販売仮契約指数」などと訳しているが、ピンとこない訳語である。それは中古住宅という呼び方。住宅が本当の意味で耐久財である米国では新築住宅と既存住宅(日本でいう中古住宅)の間に価格差はないので中古住宅という呼び方はない。分かりやすい比喩でいうと絵画などの美術品に新品・中古という概念がないことに近いかもしれない。
話が脇道にそれたが、12月の既存住宅販売契約指数は4.3%下落した。その理由は売り物件の減少である。実際物件不足から既存住宅販売数(契約完了ベース)は先月過去11年間で最低水準に達した。全米不動産協会は10万ドル以下の物件は全国的に供給不足で、特に西部ではタイト。初めて家を買う人には選択肢が少なくなっていると述べている。
「物件が少ない」「景気が良くなれば価格が上がる」「金利が上昇する前に住宅ローンを借りよう」などいうのは洋の東西を問わない不動産屋さんのセールストークのようだ。
では専門家は米国の価格の将来をどうみているのあろうか?
ケース・シラー指数の開発で有名なエール大学のシラー教授はニューヨーク・タイムズに「新しい住宅ブームの到来?当てにしない方がいいよ」という記事を寄せていたのでポイントを紹介しよう。
- 米国の住宅市場は大きな転換点に差し掛かったという雑音を聞くが、価格の変化を示唆する兆候はない。2012年3月から9月にかけてケース・シラー指数は9%上昇したが、これは過去5年間の住宅価格下落の反動で平均回帰である。
- 1997年から2006年にかけて住宅価格は86%上昇したが、これは異常な現象で2012年にはほぼ歴史的な価格トレンドに戻った。
- 住宅バブル崩壊後、賃借するかわりに自宅を所有することについて楽観的見方をする人が減っている。統計調査によると、自宅所有率は06年の69%から昨年第3四半期の65.5%に下落した。
- 消費者金融保護局がローン返済基準の強化を通達するなど住宅に対する投機的な動きを抑制する動きが高まっている。
- 以上のようなことから大多数の専門家は住宅価格の大きな変化を予想していない。あなたが住宅を買うあるいは売るという個人的な事情をお持ちならそれを進めなさい。
物価変動を調整した後で住宅価格に大きな変化、つまり上昇も下落も予見できないという専門家の意見は、ようは米国の住宅価格は正常化したということだと私は思う。
住宅価格が今世紀初め頃のように、急上昇することはなくても安定するということは、米国の多くの国民の安心感を高めるのではないか。バブル崩壊して20年になる日本ではまだ既存住宅価格が安定したとは断定し難い。住宅価格を安定させること、中古住宅と日本では呼ばれる既存住宅の価値を価格に反映させることは今後大量に発生する中高年の老後の財政基盤を安定させる上で重要な政策課題だ、と思うのだが。