金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

シラー教授、住宅ブーム再来予想を否定

2013年01月29日 | 金融

昨日市場の注目を発表した経済指標は米国の12月の耐久消費財受注の4.6%の上昇だった。ブルンバーグによるエコノミスト達の予想値が1.6%だったから、米国の景気回復に神経質になっている債券トレーダーを慌てさせたようで、10年国債指標銘柄は一時2%越えまで売られた。この金利水準は昨年4月以降初めてのこと。もっとも引けは1.97%だった。

もう一つ着目された指数は「既存住宅販売契約指数」だ。これは原語(英語)ではIndex of pending home salesという。売買契約は締結されたけれども引渡しがされていない住宅件数を指数化したもので日本のマスコミは「中古住宅販売仮契約指数」などと訳しているが、ピンとこない訳語である。それは中古住宅という呼び方。住宅が本当の意味で耐久財である米国では新築住宅と既存住宅(日本でいう中古住宅)の間に価格差はないので中古住宅という呼び方はない。分かりやすい比喩でいうと絵画などの美術品に新品・中古という概念がないことに近いかもしれない。

話が脇道にそれたが、12月の既存住宅販売契約指数は4.3%下落した。その理由は売り物件の減少である。実際物件不足から既存住宅販売数(契約完了ベース)は先月過去11年間で最低水準に達した。全米不動産協会は10万ドル以下の物件は全国的に供給不足で、特に西部ではタイト。初めて家を買う人には選択肢が少なくなっていると述べている。

「物件が少ない」「景気が良くなれば価格が上がる」「金利が上昇する前に住宅ローンを借りよう」などいうのは洋の東西を問わない不動産屋さんのセールストークのようだ。

では専門家は米国の価格の将来をどうみているのあろうか?

ケース・シラー指数の開発で有名なエール大学のシラー教授はニューヨーク・タイムズに「新しい住宅ブームの到来?当てにしない方がいいよ」という記事を寄せていたのでポイントを紹介しよう。

  • 米国の住宅市場は大きな転換点に差し掛かったという雑音を聞くが、価格の変化を示唆する兆候はない。2012年3月から9月にかけてケース・シラー指数は9%上昇したが、これは過去5年間の住宅価格下落の反動で平均回帰である。
  • 1997年から2006年にかけて住宅価格は86%上昇したが、これは異常な現象で2012年にはほぼ歴史的な価格トレンドに戻った。
  • 住宅バブル崩壊後、賃借するかわりに自宅を所有することについて楽観的見方をする人が減っている。統計調査によると、自宅所有率は06年の69%から昨年第3四半期の65.5%に下落した。
  • 消費者金融保護局がローン返済基準の強化を通達するなど住宅に対する投機的な動きを抑制する動きが高まっている。
  • 以上のようなことから大多数の専門家は住宅価格の大きな変化を予想していない。あなたが住宅を買うあるいは売るという個人的な事情をお持ちならそれを進めなさい。

物価変動を調整した後で住宅価格に大きな変化、つまり上昇も下落も予見できないという専門家の意見は、ようは米国の住宅価格は正常化したということだと私は思う。

住宅価格が今世紀初め頃のように、急上昇することはなくても安定するということは、米国の多くの国民の安心感を高めるのではないか。バブル崩壊して20年になる日本ではまだ既存住宅価格が安定したとは断定し難い。住宅価格を安定させること、中古住宅と日本では呼ばれる既存住宅の価値を価格に反映させることは今後大量に発生する中高年の老後の財政基盤を安定させる上で重要な政策課題だ、と思うのだが。

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連銀はいつ金融緩和策から転じるか?

2013年01月28日 | 金融

仕事であれ、資産形成目的であれ、トレーディングをやっている人なら注目するのが今週火曜日-水曜日に行われる米連銀公開市場委員会の議論だ。

12月に失業率が6.5%に低下するまで(12月の失業率は7.8%だった)、低金利政策を持続すると宣言し、雇用市場に明確な改善の兆しが見えるまで毎月850億ドルの国債と住宅ローン担保債券を購入すると宣言した連銀が立場を継続することはほとんど間違いがない。

関心事はむしろ連銀が緩和策からいつ方向転換するのか?ということに移りつつある。

ニューヨーク・タイムズによると昨年連銀による資産購入を強く主張したボストン地区連銀のローゼングレン総裁は今月初めの演説で「連銀の金利抑制努力は住宅や車の販売増という明確な経済効果を生んでいる。しかし失業率は受け入れ難いほど高い水準であり一方インフレ率は連銀がターゲットとする2%より低い。連銀は経済活動を助けるため金融緩和策を持続するべきだ」と述べた。

一方カンサス地区連銀のジョージ総裁は、連銀の低金利政策は農地、ジャンクボンドやその他のリスキーな投資対象の値段を押し上げていると述べ、また連銀が大量に抱える金融資産を売り出す時に市場を混乱させる可能性があると警鐘を鳴らした。

連銀の外側の多くの著名な経済学者は連銀は景気刺激のためさらに力強いアクションを取るべきだと主張するが、連銀内部の反応は少ない。むしろ失業率が6.5%まで低下するまで資産購入を続けるべきだ、とする人は少ない。前述のローゼングレン総裁は失業率が最低でも7.25%に達するまでは資産購入を続けるべきだと述べている。

またセントルイス地区連銀のブラード総裁はCNBCに今年年末までには失業率は7%近くまで低下するだろう、その時が資産購入プラグロムの中止を考えるべきタイミングだと述べた。

★   ★   ★

早ければ年内に金融政策の方向転換の可能性が見えてきた米国とこれから大きな金融緩和策を打ち出そうという日本。内外の金利差の拡大を視野に入れるとしばらくドル高が続くという判断は間違いがなさそうである。

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寒い日、岩盤浴でチープで贅沢な午後

2013年01月27日 | うんちく・小ネタ

1月27日日曜日天気は良いけれど非常に寒く感じた日。実際に寒いのだけれど、ほんの少し風邪気味なので余計寒く感じたのかもしれない。手足の先の方まで十分に血液が回らず寒い感じがした。

そこで今日はフィットネスクラブで走ることを止めて、岩盤浴で体を休めることにした。

フィットネスクラブの最上階(ビルの5階)の岩盤浴コーナーにはガラス越しの陽光がそそいで温かい。

良く温まった人造大理石の岩盤の上に大きなバスタオルをひいて、文庫本を読みながらうとうとした。1時間ほどして体が軽くなったと感じたので風呂で汗を流して帰った。家に帰ってからも発汗は続きしばらくしてアンダーウエアを着替えた。今午後7時半。体調は元に戻ったと思う。

冬は新陳代謝が低下する。調子が良くないなぁ、と感じた時は体を温めるというのは良い対処法だ、と思う。私が入っているフィットネスクラブの岩盤浴は無料。ガラス越しの陽の光を浴びながらしばし楽しむ冬の岩盤浴はチープで贅沢なひとときである。

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多少気になるNHKの冬山番組

2013年01月26日 | 

昨日(1月25日)夜7時30分からNHK首都圏スペシャルで「雪山へGO 2013-達人と楽しむ冬の名峰」という番組を見た。山好きの方の中には「観た、観た」と仰る人や「ビデオに撮って週末に観る」という人も多いのではないだろうか?(もし私の親しい知人の方で「見損ねた、撮り損ねた」という人がいて是非観たい!というのであればDVDをお送りしますから連絡してください)

映像がきれいな良い番組でケチをつけるつもりはないが、少し気になる点がある。それは「冬の北横岳」と「冬に西穂高岳(登ったのは独標までだが)」を同じ番組内で並べてさらりと紹介していることだ。

この二つの冬山を歩いたことがある私としては、この点に少し違和感を感じている。簡単に言うと北横岳は「装備(ウエアと4本詰めアイゼン)があれば誰でも登ることができる冬山」だが西穂高は「完全な冬山装備(冬山専用靴、10-12本爪アイゼン、ピッケル、ハーネス、ザイル等)とピッケル・ザイルワークが必要な山」であり、その差は大きいということだ。

夏山ルートしても西穂高の稜線は一般コースのかなり上位に位置する。八ヶ岳などと較べると鎖や梯子など人工物が少なく、しっかりしたルートファインディングや三点支持を求められるところがある。だが一般ルートであることには変わりなく岩登りの特殊技術は必要がない。その意味では「夏の北横岳登山」と「夏の西穂高登山」の間には、量的な困難さの違いはあっても、質的な困難さの違いはない、ということができるだろう。つまり普通の人が何回か普通の山登りを重ねていけば、夏の西穂高は登ることができる山なのだ。

しかし「冬の北横岳登山」と「冬の西穂高岳登山」の間には質的な困難さの違いがある。はっきりとした技術断層があるのだ。その技術断層は、アイゼン・ピッケルワークとザイルワークである。

テレビではモデルのKikiさんを近藤ガイドがリードし、最後はアンザイレン(ローブで体を結び合って)して独標に登っていた。ガイドの完全なリードがあるので、Kikiさんにはロープワークの負担はなかったと思うが、一般的にはロープを結び合った継続登攀はかなり高度な技術だ。つまり万一パートナーが滑落した場合、確実に止めるには相当な熟練を要するからだ。

★   ★   ★

私はテレビを観て、冬の北横岳に登った人の内何人かは西穂高岳に向かって歩き始めるのではないか?と少し懸念を持っている。番組は明示的に教えなかったが二つの山の間には明確な技術断層がある。

実は7年ほど前初冬の西穂を目指したことがあったが、新雪が安定していなかったので独標の一つ先のピラミッドピークで引き返したことがあった。http://blog.goo.ne.jp/sawanoshijin/d/20051105

その時も何ヶ所かザイルを使って慎重に上り下りしたことを今でも思い出す。

十分な冬山経験がない人あるいは「昔とった杵柄」という人で冬の西穂にトライしたいという人がいれば私はガイドさんを使うことを強くすすめたい。

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ファーガソン教授、日本の円安政策に理解を示す

2013年01月26日 | 金融

ハーバード大学の歴史学者ニアール・ファーガソン教授が、最近の安倍政権主導の円安政策を擁護すると読める寄稿をFTに寄せていた。

日本の円安政策についてはドイツ連銀のウィードマン総裁が為替戦争を引き起こすと警鐘を鳴らすと、甘利経済産業大臣が「ドイツはユーロという域内単一通貨のメリットを輸出を通じて最大に享受している。彼は批判する立場ではない」と反論するなど応酬が続いている。

ファーガソン教授は4つの点から日本の立場を援護するような意見を述べていた。

第1は為替をめぐる争いの歴史は古く今に始まった話ではない。例えば大恐慌後英国は金本位制を廃止し、金融政策を国内需要に焦点をあてたものとした。これは各国の平価切下げ競争を招いたが、英国は金利を下げたことで住宅市場を回復させ景気回復に結びつけた。もう少し近い所では米国のいわゆるニクソンショックがある。

第2の論点は「日本は1980年代の終わり頃から静止状態にある。円ベースの名目GDPは20年前と変わらず、公的債務は持続不可能なほどに大きく、人口動態は世界最悪。だから少し大目に見てやれ」というもの。

第3の論点は「日銀の新たな金融緩和政策は規模の上では、米連銀の緩和策に較べると小さい」というものだ。日銀が2014年度に購入するのは満期が近い国債が中心で純増額は10兆円、GDPの約2%だ。

一方米連銀はリーマンショック以降もっと積極的な金融緩和策を取り、先週連銀のバランスシートは史上初めて3兆ドルを超えた。もし連銀がこの勢いで今年中資産購入を続けるとその額はGDPの6-7%に相当する1兆ドルに達すると同教授はいう。

最後の論点は短期的な為替の動きだけでなく、長期的な動きや実質実効為替レートに注目するべきだと同教授は述べる。

実質実効為替レートについてはBISや日銀などが計算を行なっている。計算主体により若干の違いはあるが、傾向はほぼ同じだ。円は1994年に最高値をつけた後(ドル円レートでは95年4月に79.75円をつけた)、デフレ効果で実効為替レートは低下を続け、2007年には94年比3分の2程度まで下がった。リーマン・ショック後11年10月まで実行為替レートが27%上昇するという急速な円高が進んだ。最近の日本の政策はこの急速な円高を是正しようとするものに過ぎない、と同教授は述べる。

ついでにいうと過去5年半の間で活発な為替戦争を行ったのは韓国と英国だった。韓国ウォンの実効為替レートは07年8月以降19%下落し、ポンドは17%下落した。

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