金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

テレワーク導入対策(3)~承認欲求を満たす

2021年01月14日 | 社会・経済
 ヒューマンスキルの面からテレワーク導入対策を考えた場合、特効薬がある訳ではない。ヒューマンスキルの基本にそって、チームの仲間とコミュニケーションを取っていくことに尽きるのだが、幾つか特に注意を払っておくと良いことがある、という程度のアドバイスは可能だ。
 その一つが「部下の承認欲求を満たすことを意識して報告を聞く」ということだ。アメリカの社会心理学者アブラハム・マズローの有名な「欲求5段階説」によれば、下から数えて4段階目に「承認欲求」がある。
 これは「自分のやった仕事を認めて貰い、褒めて欲しい」という欲求だ。褒められると人はやる気をだし、褒めて欲しい成果を無視されていると人はやる気をなくす。
 山本五十六に有名な言葉がある。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」
である。
 最近知ったことだが、この言葉には続きがあるそうだ。
「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」である。
 山本五十六の言葉は、ヒューマンスキルの中のリスニング(傾聴)やコーチングあるいはリーダーシップのポイントを突いている。
 仕事の先輩である上司は大概のことは自分でやった方がモノゴトは手早くかつ間違いなく進めることができる。だが手際は悪くて失敗するリスクがあっても、部下に仕事を任せていかなければならない。なぜなら任せないと部下が育たないからだ。部下が育たないとチームとして、会社として業績は伸びない。
 上司とは教育というLeverage(梃子)を使って、部下を戦力化するのが最大の仕事なのだ。
 褒める、ということには抵抗を覚える人もいるだろう。そんなこと出来て当たり前だ、褒めるほどのことはない、褒めるとつけあがるだけだ、という意見もあるだろう。私は何も大袈裟に褒めなさい、といっている訳ではない。
 部下がメールなどで報告書を出してきた時に、一言添える。気の利いたアドバイスができれば最高だが、できなければご苦労さんでも良い。Slackなどチャットを使う場合は「いいね!」の絵文字でも良いと思う。チャットをビジネスツールとして普及させたのはSlackの功績だが、絵文字という日本発のコミュニケーションツールをうまく利用して、言葉によるコミュニケーションの届かないところを埋めるツールにしている。
 部下が「自分のしていることを上司が見てくれている」という安心感が次のやる気を引き出すのである。
 褒めたら任せるのが次のステップだが、最初は糊代を作っておくのが良い。万一部下がスケジュールどおりに仕事がこなせなかった場合、自分がステップインして片付けるための糊代だ。そこまで配慮した上で仕事を任せてくれたことを部下が知ると大抵の部下は感激して努力するから失敗する可能性は低いのだ。
 テレワークには苦労はつきものだろうが、自己を鍛える場でもある。特に職場のリーダーにとってはヒューマンスキルを磨く道場である。そこで磨いたヒューマンスキルは、その職場を越えて人生の色々な局面で役立つことは間違いないだろう。
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テレワーク導入対策(2)~理解の可視化

2021年01月12日 | 社会・経済
 緊急事態宣言再発令とともに、テレワーク比率拡大の要請が強まり、マスコミでも関連記事の取り上げが目立つ。
 12日の日経新聞朝刊では昨年秋に実施した郵送世論調査で「56%の人が在宅勤務を定着させるべきだ」と述べていると報じている。
 一方同日の日経新聞には内閣府が12月発表したテレワークの実施率のグラフがでていたが、実施率は全国平均で20%強で内公務員は20%よりかなり低い状況だ。4名以上の会食自粛を求める政府高官が大勢で会食をしていたり、7割テレワークを求める政府の役人のテレワーク実施率が極めて低いなど役人がやっていることは概ねこのようなものである。
 ところで余談をもう一つ付け加えるなら、私は遺伝的な意味で「今の日本人はテレワークに向かない傾向が欧米人に較べて強い」のではないか?と考えている。その根拠は脳科学者の中野信子さんが言っていた「セロトニントランスポーターが世界で一番密度が低い。セロトニントランスポーターが少ないということは気持ちを安定させるセロトニンという脳内物質の分泌が少なく不安になりやすい」という説である。中野さんは「日本は災害大国なので不安傾向の強い人は色々準備をするのでセロトニントランスポーターが少ない人が生き残った」と述べている。
 この説が正しいかどうかただちに判断する材料を持ち合わせていないが、ここでは日本人は不安傾向が強い、つまり楽観的な人が相対的に少ないということは事実として議論を進めよう。キャリア形成上当たり前のことだが、楽観的な人は転職を厭わない傾向が強く、不安傾向の強い人は職を変わることにチャンスの拡大より不安を感じる。したがって楽観的な人が多い国では転職が進み、不安傾向の強い国では転職が進まない。転職が進む社会では、一つの会社におけるメンバーシップ型雇用は意味をなさず、雇用はジョブ型になる。ジョブ型雇用ではJob Descriputionが要になり、一人一人が独立して仕事ができるようになるのでテレワーク率を高めやすい。一方メンバーシップ型社会ではテレワーク率を高めるのは中々難しいということになる。
 
 しかしながらコロナ感染拡大を防止するためには、テレワーク比率を高める必要があり、しかも早急にその対策を実施する必要があるので、上記のような評論家意見を述べている暇はない。
 そこで提案する具体的な策が「マインドマップを使って『理解』を可視化する」という方法だ。『理解』というのは「情報や状況に関する認識」と考えて良いが、それは脳の中の動きなので文章に記述するのは手間がかかる。
 その手間を省いてくれるのがマインドマップという概念を地図的に表現する手法だ。このマインドマップをネット上で共有したり、ZOOM会議で共有することで「状況に関する認識の共有」が進む。認識の共有が進むと議論がかみ合うようになり、リモート会議でもブレーンストーミングを通じて新しいアイディアを生み出すことが可能になる。
 マインドマップ・アプリケーションは無料版・有料版とも数分でダウンロードできるのでやる気になれば、思い立って30分をあればマインドマップを始めることができる。実はテレワークでは「思いついたことはすぐやってみる」という腰の軽さが重要だ。だが不安傾向が強い人は「それを導入した時のリスクは?」とか「マイナス面はないだろうか?」と慎重になるので、腰が重くなる。
 やはり日本人は遺伝的にテレワークに向いていないのだろうか?
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テレワーク導入対策(1)~短期編

2021年01月11日 | 社会・経済
 今朝(1月11日)の読売新聞に「緊急事態『7割目標』テレワーク 四苦八苦」という記事がでていた。
記事によると民間調査会社が11月に実施した調査ではテレワーク実施率は24.7%でこれを70%に持っていくのはかなりハードルが高いということだ。
 日本ではテレワークの実施により生産性が下がるという意見が多いが、欧米ではむしろ生産性が上がるという意見が多い。
 日本のテレワークの問題を解決するには、欧米との違いがどこから来るのか?ということを考えるあたりから始める必要がある。
 その違いについては私は最大の違いは欧米では個々の従業員の「職務内容が明確」なのに較べ、日本では従業員が「その都度上司の指示で動く」ように設計されている点にあると考えている。大雑把にいうと前者は「ジョブ型雇用」であり後者は「メンバーシップ型雇用」ということができる。
 「ジョブ型雇用」では「定められた範囲で仕事を任せる」ことが前提となっているが「メンバーシップ型」では「上司がコントロールタワーになりその都度仕事を配分する」運用が前提となる。もっともこれは程度の問題で「メンバーシップ型でもかなり任せる運用を行っているケースもある。
 ただ本質的に「メンバーシップ型雇用を前提とする日本ではジョブ型雇用を前提とする欧米型特にそれが顕著な米国型に較べてテレワークは導入し難い面がある」ということを理解する必要がある。
 従って日本でテレワークを定着させるには「職務記述書」Job Descriptionを整備し、一人一人が独立戦士として働ける体制を構築する必要があるのだが、それには時間がかかる。この点についてはいずれ「長期編」で述べてみたい。
 でもテレワーク比率の引き上げは喫緊の課題。それに対する対策はないのだろうか?
 答は「あり」だ。その一例を紹介しよう。
 一つは「あいまいワードを避けて指示を明確にする」ということだ。
 例えば上司が「状況が不透明だから今回はちょっと多めに発注しておいてください」という指示を出したとする。この場合「ちょっと多め」がありまいなのだ。仮に上司が5%をイメージし、部下は1%をイメージして発注すれば、部下は上司の期待値に反する行動をしたと小言を言われかねない。
 遭難等困難に面した時は特に「明確な指示」が必要だ。なぜなら「不明確な指示」は聞き手に多様な解釈の余地を生み、それが大きな齟齬につながる可能性があるからだ。コロナ禍も未経験な困難な事態であり、まさに「明確な指示」が求められるケースだ。
 「明確な指示」は「内容の明確さ」とともに「通信方法の明確さ」も必要だ。口頭伝達はしばしば聞き間違いに伴うミスコミュニケーションを起こす。
 「明確な内容」を誰が読んでも同一の理解をする「マニュアルのような文章で記述する」ことが今日からお金もかけずに実践できるテレワーク導入法の一例である。
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もしさらにこのテーマに興味があり、具体的なアドバイスが欲しいというような要望があれば、このブログに要望を寄せて頂きたい。具体例にそってアドバイスを申し上げたい、と考えています。
 
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畏敬の念を経験して、マイナス思考を乗り越えよう

2021年01月06日 | 社会・経済
 年初早々1都3県では緊急事態宣言が発令される見込みだ。また西村経済財政・再生相は出勤者の7割削減を目指すテレワークの徹底を呼び掛けているから、逼塞感の強い新年の始まりになる。
 テレワークについて、日本では生産性や従業員のモチベーション維持の面でネガティブな評価が多い。
 その理由は「自宅に仕事に集中できるスペースがない」「上司や同僚とのコミュニティツールが不足している」など物理的な問題もあるが、私はモチベーション維持に関するメンタルな研究や工夫が欠けているのではないか?と考えていた。
 今日偶々WSJでHow to stop the negative chatter in your headという記事を見かけた。ChatterというのはChat(おしゃべりする)とほぼ同じだと思うが、「くだらないことをおしゃべりする」という意味。Negative chatterというのはそれほど一般的ではないと私は思うが、「マイナス思考を招く心の声」という意味だ。
 この記事は「マイナス思考を招く心の声の制御」に関する新著を発行するミシガン大学の心理学教授との対話を記事にしたもので、いかにしてマイナス思考に陥るのを防ぐか?という幾つかの方法を論じている。
そのアドバイスの最後に出てくるのが、「畏敬の念を経験することでマイナス思考を乗り越える」というものだが、その前に二つのアドバイスを紹介したい。
第一に「距離をおいた自己対話」Distanced self-talkを使うことである。我々は他人にアドバイスをする時の方が自己対話で自分にアドバイスするよりはるかに良い場合が多いことが多くの調査で明らかになっている。私の言葉に置き換えてこのことを説明すると「自分を客観視して他人にアドバイスするようにアドバイスする」ということだ。囲碁からきた諺に「傍目(おかめ)八目」という言葉があるが、これは傍(はた)から見ていると自分や相手の手が良く見えて八目のハンディキャップに相当するという意味で、自分を客観視する効果を述べていると思う。
第二に「問題をズームアウトする」ことだ。ズームアウトとはズームレンズの
画角を広げて、つまり対象から離れて広い時空の中で物事を考えるということだ。例えば目の前にコロナ禍が迫っているが、百年前のスペイン風邪の時人々がどう対応したか?などということに思いを馳せてみるのも一つの方法だ。

そしてタイトルにした「畏敬の念を経験してマイナス思考を乗り越えよう」について説明しよう。
ある人は宗教的経験の中から畏敬の念を感じ、ある人は広大な空から、ある人は素晴らしい芸術作品から、ある人は素敵なコンサートから畏敬の念を感じる。何事かに畏敬の念を感じた人は、自分が陥っていたマイナス思考が狭い世界の話でその外側にはもっと広い世界が広がっていることを知ることができる。
 私流の説明を加えると「畏敬の念」はアメリカの社会心理学者マズローが唱えた「至高体験」の一部だと思う。マズローは「至高体験」をすることこそ人生の目的だと喝破しているが、至高体験はまさに大自然の神秘や優れた芸術に触れることで得られるものだからだ。
 コロナ感染対策で自宅籠りが続くことの一つのリスクは、視野が狭くなり、マイナス思考に陥ることである。これを避けるには本人の意識の変革も必要だが、周囲の人間が気配りすることも重要だ。
 テレワークを行っている会社の管理職などには、業務管理に加えて、チームワーカーのメンタルコンディションにまで気を配る必要があるのだが、そのような教育を実施している会社は少ないと思う。
 この辺りが日本企業のテレワーク実施上の本当の課題である。
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リモートワークの生産性が会社の業績を変える

2021年01月03日 | 社会・経済
 首都圏1都3県の知事は昨日(1月2日)は政府に緊急事態宣言の再発令を要請した。政府が直ちに緊急事態宣言を再発令するかどうは不明だが、企業に出社抑制を求めることは間違いなく、年明けから多くの企業が出社率を落とし、在宅勤務比率を高める動きにでると思う。本心はリモートワークを増やしたくないと思っている企業が多いが、悪者扱いされるのは嫌なのでreluctantlyに「当面在宅勤務比率を高めてください」という会社が多いだろうと私は考えている。
 なぜ日本企業にはリモートワークを増やしたくないと考える会社が多いのか?というとリモートワークは生産性を低下させると考える会社が多いからである。
 たとえばNTTコムが行った「テレワークと会社満足度に関する調査 」によると、個人の生産性については、テレワークで向上したと思う人(24.0%)と低下したと思う人(24.9%)とほぼ拮抗している。しかしチームの生産性については向上したと思う人(15.8%)に対し、倍近い人(29.2%)が低下したと考えている。
 リモートワークの生産性に関する米国の調査がWSJに出ていた。Is a Home Office Actually More Productive?である。
 その調査によると在宅勤務の方が会社に行くより効率的と答えた人が41.2%で同じが43.5%、悪いと答えた人は15.3%だった。また「在宅勤務は期待に対してどうだったか?」という質問に対しては、61%の人が期待より良かったと答え、26.2%の人が期待通り、期待より悪いと答えた人は12.7%だった。

 この二つの調査から大雑把に、アメリカでは在宅勤務が生産性向上につながると考える人が多く、日本の場合はトータルで見ると生産性の向上につながらないと考える人が多いということができる。
 なぜこのような違いがでるのか?という点について、最大の理由は「アメリカでは一人一人の社員の職務記述書が明確で在宅勤務でもやることが明確だが、日本では職務記述書がない・またはあっても不十分で、会社にきて日々上司の指示を仰がないと職務遂行が滞る」ことにあると私は考えている。
 在宅勤務が会社に行くよりも生産性があがる理由は「通勤時間がない」ことと「雑用に取られる時間がなく本業に集中できる」ことである。
 もちろんリモートワークに馴染む職種と馴染まない職種があることは明白だ。WSJの記事によるとコロナでテレワークが増えた業種は、教育サービス(60%)、金融・保険(60%弱)、企業経営(50%強)、テクニカルサービス(50%)、電気・ガスなど公益事業(50%弱)、不動産(40%弱)などだ。
 コロナはやがて終息するだろうが、コロナ対策で行ったリモートワークの内、生産性の向上につながったものは会社は残すだろう。つまりプラスの財産となる訳だ。そして中期的に見るとリモートワークで生産性を高めた会社の業績が向上することになるだろう。いたずらに忌避するなかれ、リモートワークである。


 

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